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パパとお買い物

「珠子、これらパパとデートしないか?」


金曜日の朝、珠子が操とごはんを食べていると源がやって来た。


「パパ、お出かけできるの?」


珠子が首を傾げながら源を見る。

生まれたばかりの彼女の弟、元太はなかなかの暴れん坊だ。激しく手足をばたつかせたり、昼夜を問わずかなりの声量で泣いて、珠子の両親でもある源と鴻を休ませてくれないのだ。おかげで二人とも、ぐったりしながら元太の世話をしているのである。


「どうしたの、源。コウちゃん一人にして大丈夫?」


操も聞いた。


「元太の玩具(おもちゃ)を買おうと思ってさ。相変わらずぐずるから何かあの子が興味を持ちそうなものを探そうと思ってね」


目の下にクマをつくっている源が疲れた声を出す。


「アンタが出かけてる間、私がコウちゃんと一緒にいようか。姫とゆっくりして気分転換しておいで」


操は食べ終わった食器を片づけながら、言った。


「母さん、助かる。よろしく頼むよ」




源の部屋で操は元太を抱いていた。


「コウちゃん、少し寝なさい」


「お義母さん、毎度すみません」


源と同じようにクマをつくった顔で鴻が頭を下げる。


「姫とは別な意味で君はママを眠らせないのね」


そう言いながら操が顔を元太に近づけると、あーあーっと声を出しながら彼は小さな小さな手をぎゅっと握りしめた。操の頬の皮膚と共に。


「痛っ!元太の馬鹿力!」


それを見た鴻が顔を背けて一瞬ぷっと笑った。


「コウちゃん、たすけて」


頬を握られたままの操が鴻を呼ぶ。

鴻が元太の小さく細い指を少しずつ開かせて、操は顔を上げた。片頬が赤く腫れている。この後、紫の痣になるのは確定だ。


「本当に油断ならないんです、この子。珠子のときは、精神的に私が参ってしまったんですけど、元太はとにかく元気過ぎて源ちゃんも私も振り回されてるんです」


ワンオペ育児を頑張っている人がいる中で、私なんか源ちゃんにもお義母さんにも助けてもらって、それでもヒーヒー言ってる自分は情けない、と落ち込んでいる鴻だった。


「いいの、いいの。使えるものは何でも使いなさい。パワフルな元太は将来大物になるわよ」


操は頬の痛みを堪えて、小さな暴れん坊に微笑んだ。




源に誘われた珠子は急いで身支度を整えて、お気に入りのシロクマのリュックを背負い、満面の笑みで靴を履いた。パパとのデートに心躍っている。

源と手を繋いで駅に向かった。


「珠子、駅に行っても大丈夫か?」


愛娘に源が聞いた。少し前に珠子は駅で事件に巻き込まれたので、その場所が怖くないのか心配したのだ。


「うん、平気。ミサオとタカシとで、あの場所に行ったよ」


事件後、珠子は操や孝と何度かその場所を通っているので恐怖心は無いようだ。


「パパ、元太のオモチャを見るんでしょ」


二人は駅向こうのショッピングモールを目指して歩いている。


「珠子も気になる玩具があったらプレゼントするよ」


「私はお姉さんだから、いらなーい。でも、プリンが食べたいな」


「わかった。一緒にプリン食べような」


「うん」


珠子はスキップしてショッピングモールへと進んだ。

そこの玩具店は売り場が広く、様々な品揃えにどんな物がいいのか迷ってしまう。

販売員に相談し、珠子の意見も聞きながら玩具を選んだ。元太が投げたり舐めたり咥えたりしても安全な、表面が布製で振ると音が鳴る、取っ手付きのボールやガラガラなどを購入した。

その後、源は紙オムツや鴻の好きなクッキーとボトル入りのルイボスティーを買って配送サービスを頼むと


「珠子、お待たせ。プリンを食べに行こうか」


左手に元太の玩具が入った袋を下げ、右手で愛娘と手を繋ぎフルーツパーラーを目指した。


「いただきます」


二人は向かい合ってプリンアラモードを食べた。

嬉しそうにプリンをすくって口に運ぶ珠子を見て、おまえは俺の天使だよ、源は心の中で呟いた。

源の視線に気づいた珠子は、


「パパ、これからも私とデートしてね」


父親をメロメロにする笑顔を見せた。

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