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珠子4歳、操とお散歩

桜の季節も終わり、日中の風はふわっと優しく感じる。

神波操(かんなみみさお)は孫の神波珠子(かんなみたまこ)と手を繋いで散歩をしていた。

葉桜の並木道を通り商店街に入ると、


「タマコちゃん、こんにちは。おばあちゃんとお散歩良いわね。ミサオさんコロッケ揚げたてよ」


吉田精肉店のおばちゃんが声を掛けてきた。


「こんにちは。先を急ぐので後ほど寄ります」


珠子が言いながら繋いだ手に力を入れる。


「マサコちゃん、後でね」


操は小さな孫に引っ張られて行った。吉田正子は、肉のショーケースから身を乗り出して


「タマコちゃんって4歳だったよねぇ」


呟きながら二人を見送った。


八百屋、文具店、洋品店、煎餅屋を通り過ぎるとお茶屋の前で珠子は足を止めた。


「ミサオ、お茶が飲みたい」


「はいはい。こんにちは、ユウコさん」


操が店の奥に声を掛けた。


「おや、いらっしゃい」


山野園の主人、山野祐子が出てきた。


「ユウコさん、我が家の姫がここのお茶が飲みたいんですって」


「タマコちゃん、いらっしゃい。喉渇いちゃったの」


「はい。山野園のお茶を所望です」


祐子は七十度のお湯で淹れた緑色が美しいお茶の湯呑みを漆塗りの盆に乗せて持ってきた。


「いただきます」


珠子は小さな両手で湯呑みを持つとゆっくりとお茶を味わった。


「このお茶、本当に美味しいです。この前のより甘みを感じます」


「本当!分かる?タマコちゃんにそう言ってもらうと嬉しいわ。茶葉の配合をちょっと変えてみたの」


少し驚いた顔で祐子は言った。


「姫、このお茶貰ってく?」


操の問いに珠子が頷いたので買う事にした。

祐子が茶葉の袋を操に渡しながら言った。


「タマコちゃん4歳だったよね」



商店街を抜けると公園が現れた。


「ミサオ、ブランコ」


「はい」


たっぷりブランコの揺れを堪能した珠子は


「そろそろ帰ろう。約束したから吉田の肉屋さんに寄らなくては」


操の手を引っ張った。

コロッケとから揚げを買って二人はアパートに戻った。

ここは『ハイツ一ツ谷(ひとつや)』。

大家は操で彼女もここに住んでいる。

軽量鉄骨二階建てで部屋数は十六室、

珠子と操は一階の101号室に住んでおり、

一階はこの101号から108号室、

二階は珠子たちの真上の201号から208号室で、単身者用のアパートだ。

ただ、101号室、102号室、201号室と202号室は他の部屋より広く、それぞれ二人で住んでいる。

珠子たちの隣102号室は珠子の叔父で操の息子の神波柏(かんなみかしわ)とその弟の(ひいらぎ)が暮らしている。

珠子たちの真上の201号室は珠子の親で操の息子の神波源(かんなみげん)とその妻の(こう)が、

202号室は珠子の叔母で操の娘の神波茜(かんなみあかね)(あい)が住んでいる。


「姫、さっき買ったお茶飲む?」


操が電気ケトルの温度を設定しながら聞いた。


「飲む」


珠子は歩き疲れたのかソファーに横になりながら言った。

操は孫のことを姫と呼ぶ。珠子が生まれた時からそう呼んでいた。初孫で可愛さひとしおなのはもちろんなのだが、彼女は生後二カ月に満たない頃から言葉をぽつぽつ言い始め、誰も教えていないはずなのに「…なちゃい(なさい)」や「…ちぇよ(せよ)」等と偉そうな言い方をするので操からすると珠子はやはり姫様なのだ。

4歳になった今では、大人と対等に会話ができる。操にとって自慢の孫なのである。


「お茶入ったわよ」


「はーい」


珠子が起きてソファーにきちんと座ると、操は花林糖とお茶のお盆を持ってきた。珠子はゆっくりとお茶を飲んだ。


「日本茶はほっとするね。カリントウと良く合うわ」


「姫は好みが渋いわね」


操は湯呑みを手にしながら微笑んだ。

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