第099話 おい……
国境を抜けて家に戻った後は家でゴロゴロしながらノルン様のゲームを眺める。
夕方になると、夕食を作り、仕事を終えたジュリアさんに振舞った。
そして、暗くなったので出発し、今日は俺の運転で進んでいく。
「へー……じゃあ、食事の面でも大丈夫なんですね」
先程、助手席に座っているジュリアさんに昼にノルン様から聞いた話を教えたのだ。
「らしいよ。というかさ、これ、病気にならないってことかな?」
「ワクチンですもんね……今のところは健康ですけど」
どうだろう?
まあ、俺は今日、風邪を引いたけど。
「健康で良いじゃないか。生牡蠣も刺身も食い放題じゃぞ」
サクヤ様が後部座席から顔を出した。
「まあ、ああいうのは回復魔法でもどうにもならないから助かることではありますね」
回復魔法は傷を治す程度なのだ。
「じゃろ? 気にせずに楽しめってことじゃ」
「わかりました」
「ノルン様に感謝ですね」
俺達はこの日も1、2時間ほど車で進み、家に帰る。
翌日は仕事をしていき、仕事を終えると、ジュリアさんがウチにやってきたので夕食を共にした。
転移で一瞬で行けるし、来れるということもあり、最近はなんか一緒に住んでいるんじゃないかと思ってしまう。
それでもその辺はちゃんとしないといけないので夏の間に結婚したい意思を伝えるつもりだ。
俺達は夕食を終えると、ゆっくりと過ごしていく。
そして、9時を過ぎた辺りで異世界に行き、出発した。
「今日で着きますよね?」
「そうだね。1時間くらいだと思う。また例によって、近くなったらゆっくり進もう」
今日はジュリアさんの運転なので地図を見ながら答えた。
「はい……あれ? 雨ですかね?」
確かにフロントガラスがポツポツと濡れている。
「みたいだね。雨が多いって言ってたしね」
「車だと楽ですね」
ジュリアさんがワイパーを動かす。
「ホントね。でも、ちょっとスピードを落とそうか」
「そうですね。時間に余裕もありますし、ゆっくり行きましょう」
雨のせいで視界が悪くなったが、それでもスピードを落として進んでいった。
ジュリアさんは視界が悪いため、運転に集中している。
そのため、口数が減り、無言の時間が多くなっていた。
雨も強くなり、車内には車のエンジンの音と雨が車に当たる音が響いている。
この無言の空気がどこか心地良い。
別に何かを話すわけでもないし、一緒に何かを楽しむわけでもない。
ただ、そこにいるのが心地良いと思える人なんだなと思った。
「ハルトさん、今、35キロを越えました」
35キロか……
となると、もうすぐだな。
「何も見えないよね?」
「ですね。ちょっと停まります」
ジュリアさんがゆっくりとブレーキを踏み、車を停車させた。
「サクヤ様、雨ですが、見えますか?」
「外には出たくないのう……ちょっと待っておれ」
サクヤ様が後部座席から身を乗り出し、ワイパーが動いているフロントガラスをじーっと見る。
「明日、お昼を一緒に食べない?」
サクヤ様を挟んでジュリアさんを誘う。
「良いですね。じゃあ、お昼にファミレスで待ち合わせしましょうか」
「そうだね……どうです?」
サクヤ様を見る。
「何か見えるな。もうちょっと進んでいいぞ。この雨で向こうからもこちらは見えんじゃろ」
「わかりました。では、もう1キロほど進みます」
ジュリアさんが車を動かし、進んでいく。
そして、ちょっとすると、再び停車した。
「うむ、こんなものじゃの」
サクヤ様が頷く。
「では、土曜にここから歩いていきましょうか」
「そうじゃの。ご苦労じゃった。あと3日仕事を頑張れ」
「はい」
「はーい……」
3日もあるのかー。
俺達は家に帰ると、解散し、この日は休むことにした。
翌日からも仕事をしていき、昼休憩や仕事終わりの夜にジュリアさんと会って、話をしたり、ゲームをしていく。
そして、ようやく金曜日になり、仕事を終えると、この日は火の国の別荘で泊まることになった。
「おー、ジュリアさん、可愛い!」
写真を見ているのだが、赤い着物を着た小さな女の子が恥ずかしそうに立っているのが非常に可愛らしい。
「そうですか? これは七五三の時ですね」
ジュリアさんが実家からアルバムを取ってきてくれたので、お互いのアルバムを交互に見ているのだ。
「へー……写真、多いね」
「母が好きだったんですよ、あ、これが兄ですね」
小さいジュリアさんと一緒に男の子が写っている。
この子が次の浅井の当主だ。
「兄妹って感じがするね」
「そりゃ兄妹ですもん」
まあね。
「こっちは卒アル?」
もう1冊のアルバムを手に取る。
「そうですね。高校のです」
「見てもいい?」
「どうぞ。あまり写ってないですけど」
卒アルを開き、ジュリアさんを探していく。
「当たり前だけど、女子しかいないねー」
「女子高ですからね。ただ、今度、共学になるらしいですよ」
最近は子供の数が減っているからな。
特に地方は顕著だ。
「時代かねー? あ、ジュリアさんだ」
友達と笑顔で写っているジュリアさんを発見した。
今よりも髪がちょっと短いが、やっぱり可愛い。
「文化祭の時ですね。楽しかったです」
「俺も文化祭は楽しかったなー」
「ハルトさんの卒アルも見ていいですか?」
「いいよー」
ジュリアさんがウチの高校の卒アルを見始めたので引き続き、ジュリアさんを探していく。
集合写真や個別写真なんかも含めて、ジュリアさんはいつも笑顔で可愛らしかった。
スタイルも良いし、共学ならさぞ、モテたことだろう。
「おー、ハルトさんを発見。制服姿がすごく新鮮です」
「10年以上前だからねー。ジュリアさんはまだいけると思うよ」
「無理ですよー」
「あ、俺、すげーレアな写真を持ってるよ」
スマホを操作し、画面を見せる。
「ん? 女子高生ですね……でも、どこかで見たことがあるような……」
「20年前の秋山さん」
「ふふっ……」
ジュリアさんが口元を抑えて笑った。
「すごいでしょ」
「ど、どうしたんです、それ?」
「村田さんにもらった」
あの2人と受付の山中さんは同級生なのだ。
「わ、悪いですよー」
すんげー笑ってんな。
まあ、今は髪も染めてあんなサバサバ系なのにこの写真は超お嬢様みたいだしね。
「いる?」
「ください」
即答……
俺達はその後もアルバムを見ながら過去の話をし、盛り上がっていると、いい時間になったので就寝した。
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