第096話 出発準備
冒険者ギルドにやってくると、昼前なこともあって、やはりこっちもそこまで人はいなかった。
受付を見ると、いつものネイトさんがいたので向かう。
「こんにちはー」
「これはハルト様、お久しぶりです」
ネイトさんが姿勢良くお辞儀をした。
ホント、礼儀正しい人だ。
「火の国から帰ってきました」
「シンディーから聞いております。本当に1週間で帰ってくるのですね。さすがです」
転移だからねー。
「頑張りました。そういうわけで荷物です」
カウンターにシンディーさんから受け取った3つの荷物を置く。
「確かに……それでは金貨5枚にボーナスの金貨1枚を付けまして、計金貨18枚になります」
ネイトさんがカウンターに金貨を置いたので受け取った。
「ありがとうございます。ここを出る間にあった勧誘はどうなりました?」
ドラゴンを倒したことで有名になり、多くのパーティーから勧誘が来ていたはずだ。
「ご要望通り、すべて断りました。ハルト様達のように家族でパーティーを組む冒険者もおりますし、もうこれ以上の勧誘はないかと思います」
うーん、できる人だなー。
「ありがとうございます。それでですね、これから水の国に行こうと思っているんですよ」
「あそこは良いところですね。火の国とはまた違う良さがあります」
行ったことがあるっぽいな。
「注意点とかあります?」
「あそこの食事は魚介が中心になります。中には生で食べるものもありますが、腹痛や下痢など体調を崩すこともありますのでそれは注意ですね」
あー、それは日本でもそうだ。
「わかりました。気を付けます」
「それと奥様に忠告ですが、男性に声をかけられてもはっきり断ることが大事です。効果的なのはやはり指輪を常時、身に着けておくことですね」
「わかりました。注意します」
ジュリアさんが頷く。
どうやら本当に積極的な男性が多いようだ。
「ネイトさん、それでまた荷物の配達の仕事とかあります?」
「ございます。少々お待ちを」
ネイトさんが奥に向かう。
すると、すぐに小さな荷物と杖らしき木の棒を持ってきた。
「杖ですか?」
「ええ。こちらは魔法ギルドにお願いします。重さはたいしたことないのですが、嵩張りますので金貨7枚です」
杖は長さが1メートル以上はあるので確かに嵩張りそうだ。
荷物だから使うわけにもいかないし。
「こっちの荷物は?」
30センチくらいの小包だ。
「こちらは資料になります。金貨3枚ですね」
火の国より安いのは近いからだな。
「わかりました」
「どちらもギルドでそのまま料金を受け取ってください。そういう提携が結ばれておりますので」
魔法ギルドでもサインはいらないわけだ。
「了解です」
「それと注意点ですが、この時期の水の国は雨が多いです。濡れないようにお願いします」
「あ、魔法のカバンがあるので大丈夫です」
ということにしておく。
実際はサクヤ様の転移だけど。
「それなら安心ですね。出発はいつになさいますか?」
「適当に出ます。ただ、来週には着くと思います」
「相変わらず、早いですね。では、そのように先方に伝えておきます」
ボーナス出るかな?
でも、今回は割かし近いからなー。
「では、いってきます」
「お気をつけて」
ネイトさんが深々と頭を下げたのでギルドを出た。
「良い時間じゃし、昼にするか?」
「そうですね。一度別荘に戻って、タマヒメ様を迎えに行きましょう」
「そうするかの」
俺達は誰もいない小道に入ると、別荘に転移する。
すると、ソファーに腰かけて漫画を読んでいるタマヒメ様がおられたのだが、ローテーブルには小袋が置いてあった。
「あ、おかえり……」
「ただいま戻りました。それは何です?」
小袋を指差す。
「あ、これね。びっくりしたわ。ここで漫画を読んでたらなんか女の人が入ってきたの。それで慌てて隠れたんだけど、その小袋を置いた後、掃除して帰った」
あー……
「教会の人ですね。掃除してくれているんですよ」
ハウスキーパーみたいなもの。
「そういうこと……あ、それとなんだけど、その小袋と共に何かの手紙も置いていったんだけど、ノルンが持っていっちゃったわよ。こっちで渡すってさ」
手紙?
「紹介状ですかね?」
サラさんが書いてくれるって言ってたやつ。
「多分、そうじゃろ。それを水の巫女に渡すんだと思う」
まあ、いいか……
「わかりました。となると、この小袋は護衛の依頼料か」
小袋を取り、中身を見てみる。
「いくらじゃ?」
「金貨が5枚入っていますね。相場的に高いか低いかはわかりませんが、良い額です」
「良かったじゃないか。もらっとけ」
「そうします。金貨も増えてきたなー。あっちの世界で売れないですかね?」
金は高いはずだ。
「やめとけ。金貨って言ってるけど、本当に金かわからんぞ」
確かに……
「タマヒメ様、お昼に行きませんか? 王都にある魚介の煮込みパスタです。とても美味しいんですよ」
ジュリアさんがタマヒメ様を誘う。
「王都? 大丈夫なの?」
「治安はとても良いですし、行きましょうよ。魚介もお好きでしょう?」
魚介が好きなんだ。
じゃあ、水の国も好きそうだな。
「そうね……じゃあ、行く」
「では、着替えましょう」
「あれか……」
タマヒメ様はちょっと嫌そうな顔をしたが、立ち上がり、ジュリアさんと共に寝室に向かった。
そして、しばらくすると、癒し系ヒーラーのタマヒメ様が戻ってきたので転移で王都に飛ぶ。
「おー……都会ね」
大通りに出ると、タマヒメ様がジュリアさんの後ろに隠れた。
「大丈夫ですよ」
「うん……暗い感じはないし、治安が良いのはわかるわ。火の国はちょっと淀んでたから」
その淀みは感じなくて良いやつですね。
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