第090話 指輪が見えんのか?
「では、今日は冒険者ギルドに行くだけですかね? それで来週に王都」
ジュリアさんがまとめてくれる。
「そうだね。だから今日はゆっくりしよう」
まあ、家のこともしないといけないんだけどさ。
「ハルト、ちょっと気になったことがあるのじゃが、良いか?」
気になること?
「何でしょう?」
「我らは基本的には転移があるから荷物はいらん。じゃが、昨日のワイバーン狩りで思ったのじゃが、我らだけではドラゴンやワイバーンを狩っても持ち帰れなくないか?」
ドラゴンは兵士の人達が持って帰ってくれたし、昨日のワイバーンはハワードさんが担いでくれた。
サクヤ様はもちろんのこと、俺もジュリアさんも無理だ。
「確かにそうですね。サイズ的にもここや俺達の部屋には入りません」
というか、普通に嫌だ。
血が出てたりするし、汚れてしまう。
「ウチの山はどうでしょう?」
ジュリアさんが提案してくる。
確かにあの山は広いし、見つかりにくくはある。
「いや、万が一の可能性が怖い。ワイバーンにしろ、ドラゴンにしろ、あっちの世界にはおらんし、山に勝手に入った者に見つかったら騒ぎになる。それに野生動物に食われるかもしれん」
確かになー。
私有地の山に勝手に入る奴はどこにでもいる。
ましてや、あそこは心霊スポットでもある。
「あっちの世界はやめた方が良さそうですね。倉庫を借りるというのもありますが、やはりリスクはゼロにすべきでしょう」
俺もそう思う。
組合の人に怒られるどころではない。
「こっちの世界でそういう倉庫を借りれませんかね?」
家じゃなくても倉庫くらいならそこまでの値段はしない気がする。
「我が言いたいのはそれじゃ。それをカーティス辺りに相談してはどうじゃろう?」
カーティスさんはお偉いさんだし、顔も広そうだ。
「そうですね。ちょっと相談してみます」
「それがええの」
俺達は予定を決めると、漫画やライトノベルを読んだりしながらまったりと過ごした。
そして、昼前になったので別荘を出て、冒険者ギルドに向かう。
なお、タマヒメ様は行かないと言ったのでお留守番をしてもらうことにした。
「こんにちはー」
冒険者ギルドに入り、受付にいるシンディーさんに声をかける。
「あ、こんにちはー。パパに聞きましたよー。ワイバーンを倒したんですってー?」
「お父さんに手伝ってもらいましたね」
俺らだけでは無理。
「ウチに売ってくれれば良かったのにー」
「お父さんが卸先が一つならそこに直接売った方が良いって言ってたんですよ」
「パパひどーい。おかげで完全に出遅れて、マグマ亭の予約が取れませんでしたよー」
そっち?
「お父さんに獲ってくるように頼むのはどうです?」
「それだ! ハルトさん、頭良いー!」
この子は飲み屋で働いた方が良い気がするな。
「どうも……」
「あ、それとパパから伝言ですー。マグマ亭の主人が魔石の用意ができたから取りに来てくれって言ってるそうでーす」
ワイバーンの魔石か。
忘れてたわ。
「この後、取りに行きます。それと配達の依頼が完了しましたので処理をお願いします」
神父さんにサインをもらった証明書を提出する。
「はい、確かに。では、依頼料の金貨6枚でーす。1枚はボーナスですねー」
シンディーさんが金貨をカウンターに置いたので受け取り、財布に入れた。
「ありがとうございます。それとベビードラゴンを12匹倒しましたよ」
「あ、パパから聞いてますねー。金貨2枚と銀貨4枚になります」
またもやシンディーさんがお金を置いたので受け取る。
「ありがとうございます。それでですね。一度、フロック王国の王都に戻ろうと思っているんですよ」
「おやー? もう帰るんですかー? ゆっくりしていけばいいのにー」
ゆっくりはする。
どうせここにも来るし。
「水の国の方も気になるんですよ」
「バカンスですかー。羨ましい限りですねー」
「ここも気に入ってますから定期的に来ますよ。それで一度、フロック王国の王都に戻りますんで配達の仕事ってあります?」
「ありますよー。3件ですねー。3つ共、冒険者ギルドに渡して頂ければオーケーでーす」
それは楽だな。
どうせネイトさんのところには行こうと思っていたし。
「じゃあ、それを受けます」
「ありがとうございまーす。ちょっと待っててくださいねー」
シンディーさんが奥に行き、荷物を3つ持ってくる。
どれもそんなに大きくない小荷物だ。
「小さいですね」
「3つ共、本ですねー。ですのでー、そこまで難易度は高くありませーん。ただまあ、遠いので金貨5枚ですー。3つで金貨15枚になると思いまーす」
同じか。
まあ、そんなもんだろう。
「来週に届けたらボーナスが付きますかね?」
「付くと思いますー。連絡しておきましょー」
「お願いします」
俺達は荷物を受け取ると、ギルドを出て、繁華街に戻ってきた。
そして、マグマ亭に向かう。
すると、お昼時とあって、店の中は大盛況だった。
「いらっしゃいませー。申し訳ございませんが満席……あれ? ワイバーンを卸してくれたお客さんじゃないですか。どうしました?」
ウェイトレスが声をかけてくる。
「忙しい時にすみません。ワイバーンの魔石を受け取りに来たんですけど」
「あー、あれね。ちょっと待ってください……てんちょー! ワイバーンハンターのお客さんですよー」
ウェイトレスが厨房に声をかけると、お客さんが一斉にこちらを見てきた。
「……ワイバーンハンターだって」
「……称号が増えましたね」
「……ちょっと厄介かもしれんの」
サクヤ様の言っていることもわかる。
お客さんの中には冒険者のパーティーっぽい人達もおり、ひそひそと話しているのだ。
「おー、兄ちゃん。わざわざ来てもらって悪いな」
厨房から店長さんが出てきた。
「いえいえ。昼時に来てしまってすみません」
「別に構いやしねーよ。客は皆、予約客だからメニューも決まってんだ。それよりもほれ、魔石だ」
店長さんが拳大くらいの魔石を渡してくる。
「大きいですね」
ドラゴンもこれくらいだったのだろうか?
見ずに王様に売ったからわからない。
「ワイバーンだからな。また頼むわ。ワイバーンが市場に出ると奪い合いなんだが、今回は儲けられた」
「専門ではないですが、獲れたらまた持ってきます」
「わはは! さすがは魔法使いだな! 待ってるぞ!」
豪快な店長さんに見送られ、この場をあとにする。
「昼、どうします?」
「こっちで食べようと思っておったが、ちょっと時間を空けた方が良いかもしれんな」
「俺もそう思います」
多分、勧誘される。
さっきの店でワイバーンを狩ったことを知った冒険者達はずっと俺達を見ていたのだ。
しかも、ジュリアさんを見た時に目の色が変わったのを見逃していない。
「帰るか」
「そうですね。帰って、何か作りますよ」
パスタだな。
和えるやつ。
「あの、せっかくですし、ルイナの町に行きませんか? タマヒメ様にもボアのバター焼きを食べさせてあげたいです」
ジュリアさんが提案してくる。
「あー、良いかもね」
「そうじゃの。あの味をあやつにも教えてやるか」
「はい」
俺達は別荘に戻り、タマヒメ様と合流し、ルイナの町に向かうことにした。
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