第088話 答え
食事を終えると、サラさんと別れ、別荘に戻る。
「タマヒメ様、せっかくですし、先にお風呂に入ってください」
日も沈み始めたし、ちょうどいいだろう。
「え……あんたらが先に入りなさいよ」
「俺は最後でいいです」
神様に一番風呂を譲るべきだ。
ましてや、義理の母ならぬ、義理の神様だし。
「ハルトもこう言っておるから先に入ろうじゃないか。我と入るか?」
「嫌。私は1人で入る」
タマヒメ様がぷいっと顔を背けた。
うん、可愛い。
「寂しい奴じゃのー。我はジュリアと入るぞ。頭を洗ってもらう」
「あんたが図々しいのよ。人の子に何させてんの?」
「そんな大層なことじゃないと思うが……」
まあ、一緒にお風呂に入って髪を洗っているだけだもんな。
「これが嫁に出すってことかー……」
「まあまあ……タマヒメ様、私は別に気にしていませんし、先に入ってくださいよ」
ジュリアさんが2人を諫め、タマヒメ様に勧めた。
「そ、そう?」
「というか、入るならさっさと入れよ。夕日を楽しむゴールデンタイムじゃぞ」
サクヤ様が急かす。
「あ、そうか……ごめんね。入ってくる」
タマヒメ様は階段を降りていった。
「ゆっくりでいいですからねー!」
「……わかったー」
タマヒメ様の小さな声が階段から聞こえたのでソファーに座る。
「今日は疲れましたね」
隣に座ったジュリアさんがちょっと疲れた笑みを浮かべた。
「かなり歩いたしねー。身体は大丈夫? なんかすんごい動きをしてたけど」
ワイバーンを仕留めた時。
「あれくらいなら大丈夫ですよ。長時間歩いたのは大変でしたけど」
「まあねー。あんなに歩いたのは久しぶり」
「車の免許を取ったら歩かなくなりますもんね」
地方はそう。
「だよね。でも、今日はゆっくり眠れそう」
「ですね。明日はどうします?」
「それなんだけどさ、さっきサクヤ様とも話したけど、水の国に行く計画を練ろうかなって思ってる。明日はその話し合いをしようよ」
「良いですね。そうしましょう」
ジュリアさんは満面の笑みだ。
やはり水の国に行きたいんだろう。
俺達は明日の予定を決め、夕日を眺めながらタマヒメ様を待つ。
すると、和服姿に着替えたタマヒメ様が戻ってきた。
「いやー、外のお風呂も良いものね。広大な平野を見ていると自分がちっぽけに思えるわ」
「実際、小さいがの」
あなたもですよ。
「うっさい。早くあんたらも入りなさいよ。ハルトが待ってるでしょうが」
「はいはい」
サクヤ様とジュリアさんが着替えを持って、階段を降りていく。
すると、タマヒメ様が俺の対面に腰かけた。
「……何か飲む?」
「え? じゃあ……」
「あんたの冷蔵庫にある酎ハイだとどれ?」
あ、取ってくれるわけか。
「じゃあ、レモンのやつで……」
「リンゴのやつをもらってもいい?」
「どうぞ。好きなだけ飲んでください」
「そんなに飲まない」
タマヒメ様がそう言うと、両手にレモンとリンゴの酎ハイが現れる。
そして、レモンの酎ハイを俺達の間にあるローテーブルに置いた。
「もらいます」
「あんたのだけどね」
酎ハイを手に取ると、ブルタブを開ける。
「乾杯でもします?」
「か、乾杯……」
タマヒメ様がおずおずと缶を持った手を伸ばしてきたので乾杯をする。
「乾杯」
「うん……」
俺達は酎ハイをそれぞれ一口飲んだ。
「………………」
「………………」
なんか気まずいな。
「湯加減はどうでした?」
「よ、良かった……あ、あの、ありがとうね」
何が?
「お風呂ですか?」
「それもだけど、誘ってくれて……ご飯も美味しかったし、お風呂も良かった。あ、あと、なんだかんだでいつもお邪魔しちゃってるし……」
タマヒメ様は缶を持ちながら手をもじもじさせる。
「いえ、いつでも来てください。狭い家ですが、タマヒメ様が来てくださると、嬉しいです」
なんだかんだでサクヤ様も楽しそうだし。
「そ、そう? そっかー……」
タマヒメ様が手をもじもじさせたまま頬を染める。
「もちろんですよ」
この人、この容姿で神様じゃなかったら俺のことが好きなんじゃないかと勘違いするな。
「う、うん……あんたもジュリアと仲良くね」
ジュリアさんか……
浅井の子だ。
そして、タマヒメ様の子でもある。
「タマヒメ様、ジュリアさんをもらいます」
そう言うと、タマヒメ様がまっすぐ俺の目を見る。
「うん……あんたとつり合いが取れるかは微妙だけど、どこに出しても恥ずかしくない子だから……」
どこに出しても恥ずかしくないは同意する。
「不幸にはしないことだけは約束します」
「こんな世界で遊んでいるもんね。そりゃ幸せだわ」
まあね。
楽しい。
「岩見はもう俺しかいません。ジュリアさんとの子が次の当主になります。それもよろしいですね?」
浅井に子をやるわけにはいかない。
「うん。あんたもジュリアもウチや私のことなんか考えなくていい。ただ、自分と相手のこと……そして、生まれてくるであろう子供のことを第一に考えなさい。あんたは当主であり、家長になるんだから家族のことだけを考えればいい」
「わかりました。では、そのように致します」
俺とタマヒメ様が話をしながら飲んでいると、サクヤ様とジュリアさんが上がってきた。
「んー? おぬしら、もう飲んでおるのか?」
「風呂上りが良いでしょ」
「ふーん……我も飲むかの。ジュリアも飲むか?」
サクヤ様がジュリアさんを誘う。
「あ、私はハルトさんを待ちます」
「我はこれが大和撫子じゃと思うのう……」
「うっさい。私はハルトに付き合ってあげたの」
そうだっけ?
「ハルトさん、サクヤ様の髪を乾かしておきますので入ってください」
「うん。お願いね」
残っている酎ハイを一気に飲み干すと、着替えを持って、階段を降りていった。
そして、服を脱ぎ、風呂に入る。
「今日も夕日が落ちているところが見えるな……」
湯船に浸かりながらぼーっと夕日を見る。
「もういいな……」
答えは出ている。
逆にここから断るビジョンが見えない。
「結婚するか……」
タマヒメ様にもああ言ったし、タイミングを見て、ジュリアさんにも正式に伝えよう。
一緒に行動していて、これほどまでに楽しいのは異世界だけじゃなく、ジュリアさんが隣にいてくれたおかげだということはもうわかったのだから。
ここまでが第2章となります。
これまでのところで『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると今後の執筆の励みになります。
明日からも第3章を投稿していきますので、今後もよろしくお願いいたします。