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第087話 ワイバーンを食べちゃうぞ


 別荘に戻ると、一度、俺の部屋に戻る。

 すると、ノルン様はいなかったが、タマヒメ様が一人で漫画を読んでいた。


「ただいま戻りました」

「おかえり……」


 タマヒメ様はぼそっとつぶやき、俯く。

 まあ、理由はわかる。

 タマヒメ様はいつもの和服ではなく、フード付きの白いローブを着ているからだ。


「タマちゃん、どうしたんじゃ?」


 サクヤ様がタマヒメ様に聞く。


「負けた罰ゲームでこれを着て、3人の帰りを待ってろって……」


 ノルン様だな。

 そして、やっぱり負けたか。


「大変お似合いですよ」

「すごく可愛いです」


 俺とジュリアさんが褒めると、タマヒメ様がフードを被った。

 まあ、恥ずかしいんだろう。


「タマちゃん、異世界に行くぞ。美味と評判のワイバーンを食べにいこう」

「ハァ? 空飛ぶ竜が美味しいの?」


 顔を上げたタマちゃんが訝しげな表情になる。


「めっちゃ美味しいらしい。美味いもん食って、眺めの良い風呂に入ろうじゃないか」

「えー……」


 タマヒメ様は嫌そうだ。


「タマヒメ様、せっかくですし、行ってみましょうよ。町中は治安も良いですし、危険はないです」


 一族のジュリアさんも誘う。


「邪魔じゃない? サクヤのバカはあれだけど、2人の方が良くない?」


 俺とジュリアさんか。

 気を遣っておられるんだな。

 ここは俺が言った方が良いだろう。


「タマヒメ様、皆で食べましょうよ」


 サラさんもいるしね。


「じゃあ、まあ……」


 なんとなくだけど、浅井の一族が敵対するウチに縁談話を持ち込んでまでタマヒメ様を消滅させまいとする気持ちが少しわかる気がした。


「では、あっちの世界の別荘に行きましょうか。夕食は1時間後ですのでゆっくりしてください」

「う、うん……」

「行くぞー」


 サクヤ様がそう言うと、タマヒメ様と共に転移で別荘のリビングに戻る。


「あ、ホントに眺めが綺麗ね」


 タマヒメ様が窓から外を見始めた。


「ノルン様の巫女であるサラさんが半永久的に貸してくれる別荘になります」


 ジュリアさんがタマヒメ様の横に行き、説明する。


「太っ腹ね」

「良い人ですよ。さらにはここの下に露天? 露天じゃないですけど、外が見えるお風呂もあります」

「へー、すごいわね。ちょっと見てみたいわ」

「こっちです」


 ジュリアさんがタマヒメ様を連れて、階段を降りていったので俺とサクヤ様はソファーに腰かけた。


「どことなく嬉しそうでしたね」

「遠慮しがちじゃし、ビビっておったが、興味はありそうじゃったしのう。座敷わらしみたいに引きこもっているより良いじゃろ」


 浅井さんはどう思っているんだろうか?


「サクヤ様、この前、ジュリアさんと話したんですが、そろそろ本格的に暑くなる時期ですし、水の国を目指してみませんか? ジュリアさんが推しているんですよね」

「いいんじゃないか? ここも一通り回ったし、転移でいつでも来られるから次の国を見に行くのも良いと思う。明日にでもその相談をしようぞ」

「そうしましょう」


 俺とサクヤ様は予定を決めると、夕食まで休むことにした。

 そして、ジュリアさんの案内で別荘内を探検するタマヒメ様を眺めながら待っていると、約束の時間前になったので別荘を出て、マグマ亭に向かう。


「だ、大丈夫? 私、変じゃない?」


 ジュリアさんの服を掴んでいるタマヒメ様が伏し目がちに聞いてきた。


「大丈夫ですよ。周りにもファンタジーみたいな格好をしている人もいますし、ちゃんと馴染んでいます」

「そ、そう? ちょっと見られてない?」


 それはジュリアさんに引っ付いているあなたが微笑ましいだけ。


「堂々とせんかい。それでも神か?」

「私はあんたみたいに図太くないの。古より美とされる奥ゆかしき大和撫子なの」


 いや、神様でしょうが。


「座敷わらしが何か言っておるぞ?」


 こっちに振らないでほしいな。


「仲良くしてくださいよ。ほら、マグマ亭に着きましたよ」


 マグマ亭にやってくると、店の前にサラさんがいた。


「お待たせしました」


 サラさんに声かける。


「いえいえ、私も今来たところですよ」

「あ、こちら、タマヒメ様です」


 タマヒメ様を紹介すると、ジュリアさんの後ろに隠れ、顔だけを出す。

 どう見ても子供だ。


「ど、どうも……」

「お会いできて光栄です。私はノルン様の巫女を務めますサラです」


 サラさんが深々と頭を下げる。


「挨拶は終わったな? じゃあ、店に入るぞ。サラは朝から何も食べていないわけじゃしの」


 サクヤ様がそう言って店に入ったので俺達も続く。

 すると、まだ5時前だというのに店の中は多くのお客さんで賑わっていた。


「いらっしゃいませー。すみません、本日は予約でいっぱいですー……あ、ご予約のお客様ですか。奥のテーブルへどうぞー」


 ウェイトレスが奥の空いているテーブルに案内してくれたので席につく。

 俺、ジュリアさんが並んで座り、サラさん、サクヤ様、タマヒメ様が対面に並んで座った。


「お客さんが多いですね」


 この時間はまだ人が少ないはずだと思って、ウェイトレスに聞いてみる。

 

「ほらー、お客さんがワイバーンを卸してくださったでしょ? あれがすぐに噂になったんですよ。ワイバーンが出るのは数ヶ月ぶりですからね。もう数日先まで予約でいっぱいです」


 ワイバーンを担ぐハワードさんは目立ったからなー。


「それでですか……」

「ありがたい限りですよ。お客さん、店長のおすすめ定食でいいですか?」

「それで」

「では、少々お待ちください…………おすすめ、5つー!」


 ウェイトレスが厨房に戻り、声をかけた。


「おすすめって何ですか?」


 マグマ亭の常連であるサラさんに聞いてみる。


「唐揚げ定食ですね、マグマソースに付けると絶品です」


 唐揚げがあるのか。


「良いかもしれんの。ドラゴンは鶏肉に近かったし、合うと思う」


 ワイバーンもドラゴンの一種らしいしな。


 俺達がそのまま待っていると、ウェイトレスが定食を持ってきてくれる。

 定食は唐揚げにスープ、サラダ、パンであり、さらには小さな小皿に真っ赤なソースがついていた。


「真っ赤じゃないの……」

「マグマじゃな」

「マグマというより死のソースですね……」


 確かに赤いがそれがこの店の売りだろう。


「これがマグマソースですか?」


 サラさんに確認する。


「はい。おすすめの食べ方を紹介しましょう」


 この人、本当にガイドだな。


「お願いします」

「まず唐揚げにこのマグマソースを付けて食べてください。量はお好みで。半分ほど楽しんだら残りの唐揚げにたっぷりとマグマソースを付け、パンに挟むわけですね。それを一気に食べるわけです。サラダとスープは適宜ですね」


 唐揚げパンにするわけだ。


「わかりました」


 俺達はサラさんが勧めるように唐揚げを取り、マグマソースに付けて食べてみた。


「おー……」


 唐揚げというのは美味い食べ物だと思う。

 だが、ワイバーンの唐揚げはそれ以上であり、脂の旨味も柔らかさも鶏とは段違いだ。

 それでいて、ピリッと辛いマグマソースが良いアクセントになっている。


「美味いの……」

「確かに美味しいわ。この前食べた中華屋の唐揚げより美味しい」


 神様2人も満足しているようだ。


「すぐに埋まっちゃう理由もわかりますね」


 ジュリアさんも一口食べて、深く頷く。


「それだけ美味しいんですよ。前回は予約競争に負けちゃいましたが、今回はおこぼれで食べられて満足です」


 俺達はその後も食べ続け、半分を食べたのでサラさんに言われた通りにマグマソースをたっぷり付けた唐揚げをパンに挟んで食べた。

 まあ、外れるわけがない組み合わせだからめちゃくちゃ美味い。


「すごいっすね」

「うむ。これはええの」


 俺達はその後もぐもぐと食べ続けていく。


「サラさん、水の国にも行ってみようと思っているんですけど、注意点とかあります?」


 サラさんも詳しそうなので聞いてみる。


「注意点ですか? 海で泳ぐ際は溺れないでくださいね。あと湖は遊泳禁止です。釣りならいいですけど。他は……どうでしょう? 私も仕事で行っただけで観光ではないですからね」


 巫女関係の仕事かな?


「そうですか。ありがとうございます」


 カーティスさんに聞いてみるか。


「水の国に行くなら紹介状を書きましょう。それを水の国の巫女に渡してください。観光案内はしてくれるでしょう」

「え? 良いんですか?」

「もちろんです。ノルン様のお客様ですし、水の巫女もお客様がせっかく観光にいらしてくださっているのですから水の国の良さを感じてほしいでしょう」


 至れり尽くせりだなー。


「ありがとうございます」

「いえいえ。後日、今回の護衛依頼料と共に届けますので」


 届けてもらってもあそこにいないことの方が多いな。

 平日の昼間は確実にいないし。


「あの、リビングのテーブルに置いておいてもらえますか?」


 掃除に来てもらっているし、その時でいいだろう。


「わかりました。では、そうしましょう」


 俺達はその後も話をしながら食事を続け、ワイバーンの唐揚げを堪能していった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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