第086話 ワイバーンスレイヤー
「ハルトさん、すごいです!」
ジュリアさんが拍手してくれる。
「ようやったのう」
「一瞬、噴火が起きたのかと思いましたよ」
「ドラゴンスレイヤーどころじゃないな……」
隠れていた3人もやってきた。
「1匹はジュリアさんが仕留めてくれましたよ」
「ジュリアもすごいのう」
「人間の動きに見えませんでしたね。あ、良い意味ですよ?」
「見事だった。俺はワイバーンの処理をするからちょっと休んでろ」
ハワードさんはそう言って、倒れているワイバーンのもとに向かう。
「食べられますかね?」
「綺麗に仕留めておったから大丈夫じゃろ」
俺達はその場でハワードさんを待つ。
すると、ハワードさんがワイバーンを担いでこちらにやってきた。
「一撃で仕留めているからかなり状態が良い。これは良い肉が食えるぞ」
おー! さすがはジュリアさん!
そして、ワイバーンを軽々と担いでいるこの人、やべー。
「サラさん、やったね」
「はい。早く帰りましょう。お腹が鳴ってます」
「それもそうだね」
俺達は帰ることにし、来た道を引き返していく。
「ハルト、このワイバーンはマグマ亭に卸すってことでいいか?」
歩いていると、ハワードさんが確認してくる。
「冒険者ギルドを通さなくてもいいですか?」
「娘のことを思えば通してほしいな。でも、マグマ亭の主人がすべて買い取ると言えば、そのまま買い取ってもらえ。全部じゃないなら冒険者ギルドを通した方が良い」
冒険者ギルドを通せば手数料を取られるんだろうな。
でも、卸先を探してくれるから楽でいいんだ。
「わかりました。まずはマグマ亭に行って、店主に聞いてみましょう」
「それでいい」
俺達は歩いていき、夕方に神殿に帰ってくる。
そのまま神殿の中を進んでいき、外に出て、駅に向かっているのだが、通りすがる人は皆、ハワードさんが担いでいるワイバーンを二度見していた。
「皆さん、こちらの車両を使いましょう。他のお客さんに迷惑になります」
サラさんがそう言って、多分、巫女様専用車両を指差したので皆で乗り込む。
「さすがにこのワイバーンを町中で運んでいると目立ちますね」
「最近はワイバーンを狩るような冒険者がおらんからな」
いや、最近というか、あんたが引退したからでしょ。
あの冒険者ギルドの利用客の少なさから考えても他にいるとは思えない。
そのままトロッコに揺られながら到着を待っていると、繁華街に到着した。
そして、町人や観光客の視線を浴びながらマグマ亭にやってくる。
「ちょっと待ってろ」
ハワードさんは店先でワイバーンを下ろすと、店の中に入った。
「いらっしゃいませー」
「店主はいるか? 魔法ギルドのハワードが来たと伝えてくれ」
「少々お待ちをー……てんちょー! ハワードさんですよー!」
ウェイトレスが厨房に声をかける。
すると、奥から白衣を着たおじさんが出てきた。
「どうした、ハワード? ワイバーンでも狩ってきたか?」
店長さんが笑いながら聞く。
「俺ではないが、ワイバーンを狩ってきたのは事実だ。ほれ、外だ」
「あーん?」
店長が外に出てくると、ワイバーンを見る。
「どうだ?」
「マジでワイバーンかよ……お前じゃないのか?」
「ああ。処理をしたのは俺だが、仕留めたのはこいつらだ」
ハワードさんはそう言って、俺とジュリアさんを見る。
「こいつらか? 弱そうな兄ちゃんと花を愛でるしか能のなさそうな姉ちゃんじゃねーか」
やっぱり弱そうに見えるのか……
そして、ジュリアさんはお嬢様か。
「魔法使いを見た目で判断するな。フロック王国の王都ではドラゴンスレイヤーで名を馳せるバケモノ魔法使いだ」
バケモノはいらないなー。
「マジかよ……俺は魔法使いといったらお前ぐらいしか知らんが…………まあ、よく考えたら魔法使いに筋肉はいらねーわな」
ハワードさんと比べられたら弱く見えても仕方がない。
「当たり前だ。それでこのワイバーンを買い取るか? 全部じゃないならギルドを通すぞ」
「全部買い取るに決まってるだろ。ワイバーンが市場に出るなんて何ヵ月ぶりだってんだ。兄ちゃん、金貨50枚で買い取ろう。もちろん、魔石は返す。いらねーからな」
店長さんがそう言ってくるが、相場がわからん。
「そんなものだ」
ハワードさんが頷く。
「じゃあ、それで。あ、でも、夕飯を5人で食べようと思っているのでそれは引いてください」
「さっきも言ったが、俺はいらんぞ」
「もう一人、いるんですよ」
タマヒメ様ね。
「そうか……店主、それくらいはサービスしてやれ」
おー、良いことを言う。
「当たり前だ。悪いが、1時間後に来てもらえるか? ちゃんと席も用意しておく」
店長さんも若干、口が悪いが、良い人だな。
「わかりました。それでお願いします」
「よし! ちょっと待ってろ」
店長さんがそう言って、店の中に入った。
「じゃあ、俺は帰るからな」
ハワードさんは軽く手を挙げて、去っていく。
「あ、お疲れ様です」
「ありがとうございました」
「お気をつけてー」
「娘とは違い、好感が持てる男じゃな」
シンディーさんも可愛いけどね。
まあ、男の意見だろうけど。
俺達が待っていると、小袋を持った店長さんが戻ってきた。
「ほれ、金貨50枚だ」
店長さんが小袋を渡してくる。
「ありがとうございます」
「礼を言いたいのはこっちだぜ。さっきも言ったが、準備をしておくから1時間後に来てくれ」
「わかりました」
「じゃあ、最高の料理を作って待ってるぜ」
店長さんがそう言って、サムズアップしてきたのでこの場をあとにし、駅に向かう。
そして、駅でサラさんと別れると、住居区へ行くトロッコに乗り、別荘に戻ることにした。
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