第085話 これぞ滅ぶべき現代の魔法使い
来た道を引き返していくと、ハワードさんが時折り、上空を見上げながら何かを確認する。
「ワイバーンですか?」
「ああ。ワイバーンも面倒な相手でな。警戒心も強くて、見える相手は狩れないんだ」
「へー……」
見える魚は釣れないって聞いたことがあるな。
「まあ、任せておけ。行きに当たりは付けておいた」
さすが歴戦の戦士。
「お任せします」
俺達はその後も歩いていき、1時間半は歩いたと思う。
開けたところに出ると、ハワードさんの足が止まった。
「ここでいいか……」
「何が違うんです?」
これまでも何度か開けたところを通ってきたが、ここと変わらないように見える。
「では、ワイバーン狩りを教えてやろう。ワイバーンはさっきも言ったが、警戒心が強い。一方で獰猛なハンターでもあるから一度相対したら襲ってくるんだ。だから一番有効な狩りの方法はエサで釣ることになる」
エサ……
本当に釣りだな。
「エサは何を使うんです?」
「生肉なら何でもいい。持ってきているが、自分達で狩る時はちゃんと用意しておけよ」
スーパーで買えばいいのかな?
「わかりました」
「次に場所だが、ここが良いのはまず広さだな。ワイバーンは狭いところには降りてこない」
そう言われて周りを見てみると、確かにこれまでの開けた場所の中では一番広いかもしれない。
「なるほど。確かにここなら余裕がありますね」
「そういうことだ。流れを説明するぞ。あそこに岩があるだろう?」
ハワードさんが指差した先には1メートルくらいの楕円型の岩がある。
「ありますね」
「あそこに生肉を置き、俺達は隠れてワイバーンが来るのを待つわけだ。そして、ワイバーンが肉を狙って降りてきたら突っ込む」
「ワイバーンが逃げないですかね?」
「そこまで来たらワイバーンは逃げずに襲ってくる。そこを仕留めるわけだ」
なるほど。
「やりましょう」
「そうか。それで突っ込む際の手伝いはいるか?」
「いえ、サラさんをお願いします」
「わかった。では、早速、肉を置くぞ」
サラさんは朝から何も食べていないし、早い方が良いだろうな。
「お願いします」
「よし」
ハワードさんが頷くと、岩の方に行き、カバンから出した生肉を置く。
「あのカバン、大丈夫なんですかね?」
「臭そうじゃの」
パンも入ってなかったか?
「あれは魔法のカバンですよ」
サラさんが教えてくれる。
「何ですか、それ?」
「物がいっぱい入るマジックアイテムです。といっても容量的には見た目以上に入るってだけでそこまでですが……」
そんなんあるんだ……
ちょっと欲しい。
「どこで売っているんです?」
「そういうマジックアイテムは魔導帝国ですね。たまに輸入されますが、マジックアイテムが欲しければ魔導帝国です」
魔法使い第一の差別国家だっけ?
なんか興味が出てきたな。
「――どうした?」
ハワードさんが戻ってくる。
「魔法のカバンや魔導帝国についてです」
「ああ、これか……とりあえずは下がるぞ。ワイバーンは人がいたら肉を取りに降りないからな」
「わかりました」
俺達は下がっていき、高い岩山に囲まれている道まで戻った。
「それで魔法のカバンと魔導帝国がどうかしたか?」
ハワードさんが肉の方を眺めながら聞いてくる。
「魔法のカバンが欲しいなって話をしていたらサラさんからそういうのは魔導帝国で売っているという話を聞いたんです」
「ああ、そういうことか。確かにこういうマジックアイテムは魔導帝国だ。実際、このカバンも魔導帝国産だな」
「買えます?」
「これはたまたま輸入していたのを買ったんだ。だが、正直、割に合うかは微妙だぞ? 弁当や水、それにさっきの生肉や武器を入れたら満杯だ。それで金貨300枚もする」
高っ!
「よく買いましたね」
「買った時は俺が全盛期の時で景気が良かったんだよ」
つまりそれを買うくらいには儲けてたわけだ。
やっぱりこの人、相当だな。
「ちょっと考えてみます」
「そうしろ。それにそろそろ来るぞ」
「わかるんです?」
「ここを選んだ最大の理由を教えてやる。あの岩の近くにまだ乾いていない血があったんだ。多分、ここでベビードラゴンを狩って、食べたんだと思う。となると、また来るぞ」
そういうのを見つけるのもプロフェッショナルか。
俺達にできるかねー?
「では、いつでも出られるようにしておきます」
俺達はその場でしゃがみ、じっと待つ。
そのまま待ち続け、20分くらい経つと遠目にワイバーンらしき姿が見えた。
ただ、数が多く、10は余裕で超えている。
「ツイてないな。1、2、3……13匹はいる。群れだな」
そういやワイバーンは群れるってカーティスさんに聞いたな。
「こっちに来てるんですよね?」
「だな。どうする? これだけ多いと厄介だぞ。俺なら撤退する」
それも1つの手だ。
「ハルト、行け。お前ならやれる」
「あれだけの数がいますけど……」
「イオナズ〇でぶっ飛ばせ」
まあ、それならやれるが……
「肉が残りませんけど?」
「1匹を先に落としてからイオナズ〇を使えば良かろう」
確かにそうだ。
実戦経験がほとんどないからそういう知恵が回らんな。
「わかりました。では、岩見家第80代当主であるこの私が仕留めましょう」
「かっこいいぞ!」
よし!
「ハワードさん、行きます。タイミングだけ教えてください」
「わかった。あれだけの魔法が使えるならその実力を信じよう。ちょっと待ってろ」
俺達はワイバーンの群れが来るのをしゃがんだ体勢のまま、じっと待つ。
すると、ワイバーンの群れがやってきて、上空で旋回しだした。
「まだだ。1匹が降りて来るからそれを狙え」
「わかりました」
「ハルトさん、降りてきたワイバーンは私が仕留めます。ハルトさんは上空の群れをお願いします」
ジュリアさんが俺の背中に触れ、立候補する。
「大丈夫? 危ないよ?」
「あれくらいなら問題ありません」
まあ、ジュリアさんは強いから大丈夫か。
「じゃあ、お願い」
「はい」
ジュリアさんが頷くと、1匹のワイバーンがゆっくりと降りてきた。
「今だ! 行け!」
ハワードさんの合図と共に俺とジュリアさんが立ち上がり、駆けだした。
俺はある程度の位置で止まったのだが、ジュリアさんはそのまま突っ込んでいく。
すると、ゆっくりと降りてきたワイバーンがジュリアさんに方向を変え、突っ込んできた。
ジュリアさんも速いが、ワイバーンも速く、両者の距離はあっという間に縮まる。
「秘剣! つばめ返しっ!」
ジュリアさんが飛び上がると、居合切りのように剣を抜き、振り抜いた。
すると、ジュリアさんは綺麗に着地したが、ワイバーンの方は地面に激突し、ぴくりとも動かなくなった。
相変わらず、まったく剣筋がわからなかったが、仕留めたようだ。
「ハルト、出番じゃぞー」
サクヤ様の声で上空を見上げると、旋回していた群れの方も動きを変え、降下の体勢に入っていた。
「ジュリアさん、こっちに来て!」
そう叫ぶと、ジュリアさんがすぐにこちらにやってきて、俺の後ろに回ったので手を上空のワイバーンの群れに掲げる。
「イグニッション」
群れに向けて魔法を放つと、まばゆいまでに光り輝き、一気に大爆発が起きた。
こちらにも爆風が飛んでくるが、結界で防ぐ。
そして、光と爆発が収まると、上空には何一つ残っていなかった。
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