第084話 聞いてる、聞いてるー
俺達はその後も修験道を進んでいき、たまに開いたところに出るものの、基本的にはちょっと暗い崖の間の道を進んでいく。
その間もベビードラゴンが出てきたので俺とジュリアさんで倒していった。
「御二人とも、本当にお強いですね」
「ドラゴンスレイヤーですから」
そう言うと、ジュリアさんが笑顔で拍手してくれる。
ちょっと恥ずかしい。
「素晴らしいですね」
「どうも……かなり火山に近づいてきましたけど、そろそろですか?」
だいぶ歩いたし、出発してから2時間以上は経っていた。
「ええ。そろそろというか、もう着きますね」
そうなの?
ちょっと前から開けたところに出てきたから前方に大きな火山が見えているが、まだ距離があるように見える。
「まだ遠くないですか?」
「昔は本当に火山の麓にお祈りをする祭壇がありました。ですが、二度の噴火によってなくなり、それどころか火山への道が塞がってしまったんですよ。なので、現在は火山を登ることはできません」
火山の中を見たかったけど、無理か。
まあ、危ないわな、
知らんけど、ガスとか出てるかもしれないし。
「手前に新しいのを作ったわけですね?」
「はい。まあ、祭壇と言ってもご期待に沿えるものではないです。あれになります」
サラさんがそう言って、指差した先にあったのは高さが3メートルもない小さなピラミッドみたいな祭壇だった。
「生贄の祭壇みたいじゃの」
「サクヤ様、思っててもそういうことは言わないでください」
俺も思ったけど。
「あはは。いいんですよ。私も最初に見た時にそう思いましたもん。本当は立派なものがあったんですが、さすがに二度も噴火で壊れたのでやめることになったんです。祈りに祭壇の豪華さは関係ありませんから」
サラさんが笑って流してくれる。
「今から祈るんですか?」
「はい。申し訳ありませんが、ちょっと時間がかかります。お昼でも食べて、待っててください。あ、見張りだけはお願いします」
確かに昼時だが……
「サラさんも食べてからの方が良いのでは?」
「いえ、私は神殿に帰るまで水以外は一切、口にしません。ですので昼抜きです」
えー……あれだけ歩いたのに……
「大変ですね」
これが冬以外は月一であるらしい。
それは大量の退職金をもらわないとやっていけんわ。
「これも信仰です。まあ、慣れですよ。そういうわけで帰りのワイバーン狩りに期待しております」
「頑張ります」
「お願いしますね。では、行って参ります」
サラさんはそう言うと、祭壇に登っていく。
そして、一番上で前方の火山に向かって、膝をつくと、祈り始めた。
「なんかご飯を食べるのが気が引けるね」
「ですね……いいんでしょうか?」
「いいから食べろ。護衛の仕事はサラに付き合うことじゃない。サラを守ることだ。腹が減って、いざっていう時に助けられない方が問題だぞ」
ハワードさんがそう言って、パンを取り出し、食べ始める。
「それもそうだね。ご飯にしようか」
「そうですね」
「よし、昼じゃ」
サクヤ様がそう言って、リュックの中から敷物を取り出し、地面に敷いた。
そして、弁当を取り出したので3人で腰かけ、食べ始める。
「祈りって何を祈っているんでしょうかね?」
ずっと同じ体勢で祈っているサラさんを見ながらサクヤ様に聞く。
「ノルンへの祈りじゃろ。当の本人は今頃、タマちゃんをボコっているだろうが」
「タマヒメ様がボコってるかもしれませんよ?」
「ないじゃろ。あやつ、我と同じレベルじゃぞ」
じゃあ、ないわ。
「しかし、サラさんも大変ですね。他の巫女さんも同じようなことをしているんでしょうか?」
ジュリアさんが聞いてくる。
「じゃないかな? しかも、昔はもっと奥だったんでしょ? 一日で帰ってこれたのかな?」
「今は日が長いですから大丈夫でしょうけど、冬に近い春秋は難しいでしょうね」
そういう意味では道が潰れたのも良かったのかもしれない。
「確かにね。転移もないし……あ、サラさんの手前、言いにくいけど、弁当、美味しいよ」
ちょっと声を落として感想を言う。
「ホントにのう……綺麗だし、ちゃんと見た目も考えておる」
どうやったらこういう弁当が作れるんだろうね。
「いつもありがとうね。でも、無理はしないでいいから」
平日はいつも作ってくれるのだ。
「いえいえ。もう習慣ですし、一緒に作った方が捗るんですよ」
この子は本当にすごいな。
俺達はその後も美味しい食事を続け、食べ終わったのだが、それでもサラさんは祈りを続けている。
そして、祈り始めて30分以上経つと、ようやくサラさんが立ち上がった。
「ふう……お待たせしました」
サラさんは一息つくと、祭壇から降りてくる。
「お疲れ様です。結構、祈るんですね」
「そうですね。いつもこれくらいです。ノルン様への祈りに終わりはありませんが、最低限でもこれくらいになりますね」
ノルン様、聞いてるのかな?
ゲームしてたらマズいぞ。
「本当にお疲れ様です。では、戻りましょうか」
「ええ。お腹が空きました」
まあ、そうだよね。
俺達は祭壇をあとにし、来た道を引き返すことにした。
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