第081話 子守歌はアニメのBGMに限る
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
お堀を散歩し、喫茶店で休憩すると、家に戻る。
この日の夕食はジュリアさんが作ってくれたのでそのまま一緒に過ごした。
なお、2人の神様はずっとアニメを見ていた。
この土日は久しぶりに異世界に行かずに過ごし、また1週間が始まった。
相変わらずの祝日のない期間が続いているが、もう5月も終わる。
幸い、繁忙期ではないため、特に残業はない。
それに以前と同じような家と会社の往復だが、今はジュリアさんが来てくれるし、異世界に夕食を食べにも行けるから全然違った。
そして、金曜日になり、今日もジュリアさんがウチに来てくれたので皆で素麵を食べた。
「暑いのう……」
扇風機の前に陣取っている風呂上がりのサクヤ様がぼやく。
「夏は暑いものでしょ。というか、スイングを止めないでよ」
今日もいるタマヒメ様が扇風機を独占しているサクヤ様に文句を言う。
「いやー、暑すぎじゃろ。まだ5月じゃぞ」
「明日から6月よ」
「どっちみち、暑いわい。昔はこんなんじゃなかったろ」
この人達の昔っていつだろ?
「まあ、ここ最近で急激に気温が上がったのは確かね。あれじゃない? 地球温暖化ってやつ」
「温室効果ガスがどうちゃらこうちゃらか? 外のカエルの声を聞いてみい。我には人間への抗議に聞こえる」
俺には聞こえないなー……
「なにを詩人みたいなことを言ってんのよ。昼間はノルンと一緒にクーラーをガンガンにつけてたくせに」
仕方がないことではあるのだが、夏は電気代が高い。
「おぬしもじゃろ」
「私は文句を言ってないわ。我慢できるもの」
我慢……
「サクヤ様、エアコンをつけていいですよ」
「そうか? 悪いのう……さらばじゃ、デモガエル共」
サクヤ様が窓を閉めると、カエルの声が聞こえなくなる。
そして、エアコンをつけると、涼しい風を感じた。
「あんたって好き勝手するわね。家の子に迷惑じゃないの。掃除もしないし、家事もしない。ただ布団の上でゴロゴロ……あんた、ペット?」
「チャーミングな笑顔を振りまくのが仕事だからその認識でええぞ」
良くないわ。
あんたはウチの神様じゃい。
「タマヒメ様、ウチは大丈夫ですんで」
ずっとこれだし、サクヤ様に仕事はさせられない。
「そう? まあ、好きにしたらいいけど……」
「というか、おぬしは浅井の家でどう過ごしておるんじゃ?」
「どうって……邪魔にならないように倉庫にいたり、屋根裏にいたり……」
いや、そっちの方がなんか……
「見た目通り、座敷わらしなんじゃの」
「誰が座敷わらしよ!」
「いや、かなり良いように言ってやったぞ。やってることが妖怪じゃろ」
俺も神様よりも妖怪みたいって思った。
「うっさいわね。狭いところが好きなの!」
「それでウチにおるんか……」
おーい。
「……ジュリアさん、実家ではあまりタマヒメ様を見ないの?」
隣に座っているジュリアさんに小声で聞く。
「……滅多に見ませんね。食事もコソコソ食べていますし、たまに話しかけてくる程度です。受験の日に見送りに来てくださって、『頑張って』って言ってもらいました」
良い人ではあるんだよな。
多分、あまり表に出るのを好まないのだろう。
今はアニメを見るために来てるけど。
「……優しいね」
「……ええ。とても優しい方です」
顔が真っ赤だけど。
「タマちゃん、どうしたー?」
「う、うっさいわね! 早く続きを見るわよ!」
「ツンデレみたいなことを言うのう……そのキャラは古いぞ」
「あんたよりマシ」
まあ……
「ああ言えばこう言う奴じゃなー。明日、修験道に行くが、おぬしも行くか? ワイバーン狩りじゃぞ」
「何よ、ワイバーンって?」
タマヒメ様は知らないだろうな。
「飛んでいる竜」
「行くわけないでしょ! 私なんかペロリよ!」
「別に死なんじゃろ。神なんじゃし」
「関係ないわよ。怖いもんは怖いの。私は異世界なんか行かない。ここでノルンとゲームしてる」
あ、明日も来るんだ。
この安アパートの一室が神々が集まる場になってる。
「ボコボコにされるだけじゃろうに……」
「ようやくコツを掴んだところなの」
「そうかい……」
俺、ノルン様は素晴らしい女神様だと思ってるけど、多分、性格の差でタマヒメ様が負けると思うな。
「タマヒメ様、温泉くらいは行きませんか? 眺めも良いですし、気持ちいいですよ」
ジュリアさんが誘う。
「温泉ねー……でも、邪魔になるし」
「邪魔になんかなりませんよ」
「そ、そう……? じゃあ、今度行こうかな……」
遠慮する方だなー。
神様ってもっと図太いのかと思ってた。
「我が髪を洗ってやろうか?」
「結構よ。自分で洗えるわ」
一緒に入るのかな?
ケンカしないでほしいが……
「ジュリアさん、お願いね」
俺が入るわけにはいかないからな。
さすがにそこでコンプライアンスかかってこいとは言えない。
「はい。ハルトさんもお風呂に入られたらどうでしょう? 私も明日のことがありますのでもう帰ろうと思います」
明日は朝からなのだ。
「そうする。じゃあ、明日、迎えに行くね」
「お願いします。タマヒメ様、ちょっとウチまで送ってもらえないでしょうか?」
「うん、わかった」
タマヒメ様がジュリアさんと共に帰っていったので風呂に入る。
そして、風呂から上がると、タマヒメ様が戻っており、サクヤ様とアニメを見ていた。
「サクヤ様、明日は早いですよ?」
「わかっておる。この話を見たら我も寝る」
「わかりました。俺は先に寝ますねー」
「うむ」
布団を敷き、横になる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
サクヤ様と消え入りそうなタマヒメ様の声、そして、女児アニメの音を聞きながら眠りについた。
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