第080話 お城デート
健診も終わり、家に帰ると、勇者ジュリアの最後の冒険を眺める。
勇者ジュリアもレベル45になっており、このまま魔王も倒せるだろう。
「なんかいけそうですね」
ジュリアさんは順調に回復しながらも魔王に攻撃を与えている。
「いける、いける」
その後、ジュリアさんは最後まで危なげなく戦い、魔王を倒した。
そして、エンディングを迎える。
「おー……何気に初めてゲームをクリアしました」
ソシャゲは終わりがないからな。
「良かったね。また、何かやる? 色々持ってるし、ノルン様が買ってきたのもあるよ」
「一緒にカー〇ィー、やりましょうよ」
「良いねー」
俺達は2人でゲームをすることにし、この日は家で過ごした。
翌日、俺達は朝から出かけ、町の観光地でもあるお城にやってくる。
「人が多いね」
駐車場に車を止め、城郭の中の広場を歩いているが、観光客が多く、子供達もたくさんいた。
「ですね。でも、どこか懐かしいです。小学校の頃の遠足で年に1回は来てたような気がします」
俺もそれくらいの頻度で来てた気がする。
それに春になると、親と花見にも来ていた。
「俺、ここで鬼ごっこしてた」
「男子はしてましたね」
ジュリアさんが笑う。
「お城に上がってみる? 俺、実は1回しか上がってない」
疲れるもん。
「私も1回ですね。せっかくですし、上がってみましょうか」
「そうしよっか」
「はい。あっちですね」
俺達は結構広い敷地を歩いていき、お城までやってくると、異様に急で狭い階段を昇っていく。
「こんなんだったっけ?」
大変だった記憶はあるが、こんなに登りづらかっただろうか?
「当時は小学生ですしね。私達が大きくなったんでしょう」
「そういや当時はサクヤ様と同じくらいの背だったわ」
多分、兄弟姉妹に見えただろう。
「私もタマヒメ様と同じくらいでしたね」
「どんな子供だったの?」
絶対に可愛いと思う。
「どうでしょう? 大人しかったとは思いますけど……ハルトさんはどうだったんです?」
「下の広場で走り回っていた子供みたいな感じかな?」
小学校の頃は素直な子供だったと思う。
中学は…………まあ、ね。
「へー、気になります」
ジュリアさんって好奇心旺盛だよな。
「クローゼットにアルバムがあったかなー? 見る?」
「見たいです」
「ジュリアさんはないの?」
俺はジュリアさんが見たい。
「ありますよ。実家にあるんで今度、取ってきます」
俺達が話をしながら急で狭い階段を昇ると、一番上の天守閣までやってきた。
「おー、眺めが良いね」
城は高いところに建っており、その一番上だからかなり遠くまで見える。
まあ、そもそもこの町に高い建物はそんなに多くないのだ。
「ええ。火の国の聖都もすごかったですけど、こっちはこっちで別のものがこみ上げてきます」
それは俺もそうだ。
生まれ育ち、一度離れたものの、今も住んでいるこの街並みは何か感じるものがある。
「ウチはあの辺」
自分のアパートの方を指差す。
「私はあっちですね」
ジュリアさんも自分のアパートを指差した。
「こうやって見るとさ、悪くない町だと思うよ」
「そうですね。緑も多いですし、住みやすい街なんだろうなとは思います」
ジュリアさんはこの町から出たことがないから都会の住み心地がわからない。
「ジュリアさん、都会の方の大学に行ってたらギャルになってたかもね」
「いやー、さすがにないと思いますよ。東京はどうでした?」
東京か……
最初は興奮した。
そして、その興奮はすぐに冷めた。
「まずびっくりなのは人が多いこと。あと家賃がめっちゃ高い。俺の部屋程度でも向こうなら倍近くはすると思う」
「すごいですね」
「まあ、あっちは地下鉄なんかの交通機関がすごいから車が不要なんだよ。だからどっこいどっこいなところはある」
物価も高いけど、給料も高い。
本当にどっちが良いか俺にはわからない。
ただ、帰ってきて良かったとは思っている。
「私、地下鉄に乗ったことがありませんね」
「トロッコはあるね」
「ふふっ、そうですね。そう思うとすごいです」
ホントにねー。
「地下鉄は人が多くてすごいよ。駅は迷路みたいだし、本当にびっくりする」
「一度、乗ってみたいです」
田舎の人間あるあるの一つだな。
他には都会にしかない名前だけは聞いたことがあるチェーン店ができると行きたくなる。
「良いんじゃない? 組合に申請して旅行にでも行こうよ」
「通りますかね?」
「大丈夫。当主パワーを見せてあげる」
さすがにそれくらいのわがままを言えるだけの力はある。
問題は旅費だな。
東京に行くには飛行機になっちゃうし、ボーナスに期待……できるかなー?
「ありがとうございます」
ジュリアさんが嬉しそうに微笑んだ。
「東京もそうだけど、次は水の国でいい?」
「ええ、先週のサラさんの話を聞いていると、行きたくなりましたね」
俺もそう。
「来週のサラさんの護衛の仕事が終わったらまた相談しようか。カーティスさんとか詳しいと思うしさ」
「そうですね。それに本を返さないといけません」
だよねー。
そろそろフロック王国の王都に戻ってもいいだろう。
あとドラゴンの素材の売却話も聞きたい。
「サクヤ様の転移があるから聖都にはいつでも行けるしね」
「ええ。マグマ亭のぐつぐつも食べられますし、別荘でゆっくりもできます」
「だね。せっかくだしさ、お堀の周りを歩いてみない?」
まだ時間はあるのだ。
「良いですね。亀がいましたよね?」
「いたねー。懐かしい」
釣ろうとして失敗した記憶がある。
「ええ。行きましょう」
ジュリアさんが俺の手を取る。
「そうだね」
俺達は恋人らしく手を繋いで歩いていく。
そして、階段手前で手を離し、降りていった。
さすがに狭くて急な階段は無理だもん。
お読み頂き、ありがとうございます。
これが今年最後の更新となります。
来年も更新していきますので引き続きよろしくお願いいたします。
良いお年を(@^^)/~~~