第078話 休日にやきそばを食べる人生も良いじゃないか
翌朝の土曜日。
朝起きて時間を確認すると9時だった。
そして、隣の布団では少女が2人で仲良く寝ていた。
コンプライアンスかかってこい教のレベルが上がっている光景だ。
「サクヤ様、タマヒメ様、起きてください」
2人の肩を揺する。
「んー? 朝か……」
「眠い……」
2人は目をこすりながら上半身を起こす。
「おはようございます。お風呂の準備をしますので入ってください」
「おー……ウチの子は優しいのう」
お婆ちゃんか。
「私は帰る。邪魔したわね」
タマヒメ様はそう言うと、一瞬で姿が消えてしまった。
転移だ。
「タマヒメ様も使えるんですね」
「まあのー……」
「でも、また昼に来るんですよね?」
やきそばを食べに来るはずだ。
「そのままおればいいのにの。まあ、完全に寝ぼけておったんじゃろ」
かもしれない。
「まあ、いいですけどね」
風呂の準備をし、サクヤ様が風呂に入っている間に朝食を用意する。
そして、朝食を食べ終えると、洗濯や掃除をしていった。
「健診の後はどうするんじゃ?」
掃除をしていると、サクヤ様が声をかけてくる。
「ウチでゲームですね」
「ほーん、別に好きならそれでええが、社会科見学みたいなデートに家でゲームか。小学生みたいじゃの」
園児みたいなアニメを見ている人に言われてもね。
「逆に大人のデートって何ですかね?」
「うーん、ディナーとか? でも、それは普通にしておるの」
異世界でね。
「県庁所在地とはいえ、地方の田舎ですからね。家でまったりデートでも十分でしょ。それに異世界という刺激マックスのところに行ってますから。それぞれのやり方や過ごし方がありますよ」
オンリーワンすぎるけど。
「まあのー」
そのまま掃除をし、買い物に行くと、やきそばの材料を買う。
そして、家に帰った時にはいい時間だったため、サクヤ様にジュリアさんを迎えに行ってもらった。
その間に準備をし、やきそばを作ろうと思っていると、ノートパソコンを持ったジュリアさんとタマヒメ様がやってくる。
「こんにちは」
「お邪魔します……」
ジュリアさんとタマヒメ様が挨拶をしてくるが、タマヒメ様はジュリアさんの後ろに隠れている。
ぱっと見は娘か妹に見えた。
「こんにちは。タマヒメ様も一緒だったんですね」
「朝からウチに来てましたよ」
あー、ウチからジュリアさんの家に転移したんだ。
「おぬしがおるなら勝手に来ればよかったのに」
「迷惑でしょ」
迷惑ではないが、着替えてる時もあるし、一声は欲しいね。
「おぬしはそればっかりじゃの。いまだにハルトに慣れんか? 同衾したじゃろ」
「同衾はしてない。隣の布団で寝ただけ」
朝起きたら少女が2人も隣で寝てました。
コンプライアンスかかってこい。
でも、警察はノー。
「あのー、やきそばは4つでいいですか? ノルン様は来られないんでしょうか?」
「好きじゃのー。あやつは来らん。どっかに食べに行くって言っておった」
へー……
それがいつかはわからないが、まあ、4つ作るか。
俺は4人前のやきそばと目玉焼きを作っていく。
ジュリアさんも皿や飲み物を用意してくれ、手伝ってくれた。
そして、準備ができたので皆で食べだす。
「うん……美味しいわね」
やきそばを一口食べたタマヒメ様が頷いた。
「ありがとうございます」
「あんた達って仲良くやってるの?」
「まあ、ご覧のように」
何て言えばいいんだろう?
「そう……じゃあいいわ。今日は健診だっけ?」
「そうですね。月一のやつです」
「多分、魔力が上がってるって言われるわよ」
え?
「そうなんです?」
「うん。あんたもだけど、ジュリアの方も上がってる。まず聞かれるから一緒に魔法の練習をしたとかなんとか口裏合わせをしときなさい」
魔力は魔法を使えば上がっていくものだ。
もちろん、限度はある。
「わかりました。浅井の山で魔法を見せ合いっこしたということにします。ジュリアさんもそれでいい?」
「ええ。そうしましょう」
俺達はやきそばを食べると、洗い物をする。
もちろん、ジュリアさんも手伝ってくれた。
サクヤ様とタマヒメ様はジュリアさんが持ってきたノートパソコンを見ており、多分、昨日の続きを見ているんだと思う。
「サクヤ様、それでは行ってきますので」
洗い物を終えたのでサクヤ様に声をかける。
「うむ。行ってこい」
「いってらっしゃい……」
俺とジュリアさんは部屋を出ると、車に乗り込み、駅前にある組合を目指す。
「なんか姉妹みたいだったね」
一緒にアニメを見ているのは子供の姉妹を連想した。
「そうですね。あの御二方は仲が良いのか悪いのか微妙にわかりませんよね」
昔から知っている仲なんだろうけど、俺達の家が犬猿の仲だったから微妙っぽい。
ただ、話せばケンカもせずに普通に話している。
「神様だからねー。考え方が俺達とは違うんでしょ。わかりやすく過去のことは根に持たない。現在の敵であるかどうかだと思う」
以前は岩見と浅井が敵対していた。
だから嫌いであり、敵。
でも、現在は敵対関係も薄れ、それどころか縁談まで出てきている。
だから敵じゃない。
シンプルなのだ。
「このまま仲良くしてほしいなと思います。もう争う時代ではないと思いますから」
それは俺もそう思う。
もはやいかに存続するか……それにかかっているのだと思う。
「正直に言うよ。組合がなんでできたかってさ、俺達みたいな魔法使いに滅んでほしいからだと思っている」
じゃなきゃ、魔法の使用はともかく、移動の制限はしないだろう。
「それは私も思っています。山中さんや秋山さん、それに村田さんなんかは私達に親身にしてくださっていますが、政府の考えはそれでしょう」
今の世で使えない魔法使いを管理する理由はそれしかない。
俺達魔法使いはもう現代では必要ないし、なんなら邪魔でしかないのだ。
そして、俺自身もそう思っている。
岩見家が爺さんの代から滅びを選んでいるのはわかっているのだから……
「でもね、サクヤ様を消滅はさせられないんだよ」
「ウチもタマヒメ様を消滅させられません」
両家の考えは一致している。
だからこそのこの縁談である。
「普通でいい?」
「はい。でも、異世界に行くことは普通じゃないですね。ものすごく楽しいです」
「そうだね」
俺達は俺達の選択をし、人生を歩めばいい。
それが最上であり、結果的には上手くいくのだと信じているから。
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