第076話 歴史の勉強
左奥にある通路を歩いていくと、赤い扉がある部屋の前に来る。
「ここは?」
「私の私室兼、資料室になります」
私室と資料室が一緒なの?
サラさんが扉を開け、中に入ったので俺達も続く。
部屋の中はかなり広いうえに天井も高い。
そこに何段にもなっている本棚があり、資料室というよりも図書館と言っていいほどに本があった。
「すごいのう……」
「ええ……」
「これだけの資料があるんですね」
俺達は部屋を見渡し、感嘆の言葉を漏らす。
「こういう書物を管理するのも巫女の仕事なんですよ。実はちゃんと私室もあるのですが、面倒なんでそのままここに住んでいます。あ、テーブルへどうぞ。今、お茶を淹れます」
サラさんがお茶の準備を始めたのでテーブルにつく。
「これ、全部が歴史資料ですよね……」
「だと思うよ。すごいね」
観光の目玉になると思うんだけどなー。
「お待たせしました」
サラさんがお茶を持ってきて、テーブルに置いた。
「ありがとうございます。ここにある資料はどういうものなんですか?」
お茶を一口飲み、聞いてみる。
「この町ができた時からの歴史資料ですね。始まりは1000年以上前です」
それだけ前の資料が残っているのか……
「ものすごい価値のある資料では?」
「そうですね。実はここだけでなく、他の聖都にも同じような歴史資料は残っていますし、そういう資料館を作っているところもあります。ですが、皆さん、興味がないようで盛況とは言えませんね。やはりわかりやすい食や観光スポットに集まります。実際、この教区には朝日を見に来るくらいであまり観光客は来ませんしね」
もったいないなー。
「興味あるよね?」
ジュリアさんに聞く。
「あります。その地の歴史に触れるのはとても大事なことだと思います」
ねー。
「おぬしらは本当に真面目じゃの……」
真面目でいいじゃん。
「あはは。まあ、興味がないのが大半なのは仕方がないことです。旅行も時間が限られていますし、優先すべきはどこかと言われたら食やわかりやすい観光スポットになりますからね。こうやって、興味がある人が来てくださるだけで嬉しいですよ」
確かに時間のことはあるか。
すべてを見るわけにはいかない。
「まあ、これだけの資料があれば、何日かかるかわかりませんもんね」
「ですね。えーっと、地震でしたね? 実はこの地の歴史は地震との戦いの歴史でもあります。昔は神の怒りと恐れられ、家の倒壊や土砂崩れなんかも起きていたようですね」
その辺は日本と一緒だな。
ウチはナマズだけど。
「今はそんなことないんですか?」
「この神殿もですが、建物の基礎構造に揺れを軽減させる魔道具が設置されているのです。それから被害はぐーんと下がりましたね。実は昨年も地震がありましたが、被害はほぼゼロです」
すごっ。
「我は地味に借りている別荘が気になっておったの。あれ、地震や崩れがあったら下に崩落するじゃろ」
まあ、それは思わないでもなかった。
「そういうのを防ぐ工事も斜面に行っています。まあ、建物の下部にありますから見ることはできませんね」
本当に色々やっているんだな。
「工事とか大変だったのでは?」
「それはもう……そういった工事、この神殿の建造、トロッコ列車の整備……これらは莫大な予算と共に多数の犠牲者も出ています。ですが、聖都のためにと皆が集まり、力を合わせて、ここまでできたわけです」
すごいな……
「本当に大変だったんですね」
「煽るつもりはないが、そこまでするか?」
こら、サクヤ様!
「そう思われるかもしれませんね。ですが、これは信仰なのです。この世界はノルン様がお作りになられ、先ほど言った聖都の象徴である火、水、土、風がこの世界を作る要素となっているのです。そして、その自然は時に人に罰を下します。だからこそ、この自然を崇め、制御していくのが聖都の役目なのです」
「それで火山の麓という危ないところに聖都があるんですね」
「そういうことです。ここだけでなく、水の国は水害、土の国は砂漠、風の国は竜巻といった試練とも言える地域にあります。それぞれがその自然を治め、ノルン様への信仰を表しているわけですね」
なるほどー……
「あ、あの、地震はわかりましたけど、火山は大丈夫なんですか?」
ジュリアさんがおずおずと聞く。
「俺もそれが気になります。フロック王国の人から予測しているらしいとは聞きましたけど」
カーティスさんに聞いた。
「そうですね。噴火もします。少々お待ちを……」
サラさんは立ち上がると、本棚の方に行き、2冊の本を持ってくる。
「それは?」
「今から700年前と400年近くも前に起きた火山の被害が載っている本です。こちらが700年前になります」
サラさんは一冊の本を開く。
そこには絵付きで当時の状況や噴火からの経緯が書いてある。
「詳しいですね……」
「ええ。ですが、これはあまり読まない方が良いです。細かく描きすぎており、かなり悲惨な情景まで書かれていますので。結論から言えば、この時の被害は1000人を超えます。当時、ここに住んでいた人は2000人から3000人と言われていますから半分近くが亡くなったわけです」
その情景が事細かく書いてあるのか。
「噴火はそこまでの大規模だったんです?」
「いえ……ただ、ここは山です。当時は今のように下水道の整備も完全ではなかったですし、火事が起きると消すすべがほぼありませんでした。さらには逃げる際に狭い山道を通りますのでパニックが起き、雪崩のように下に落ちたと記録に残っています」
こういうことは言ってはいけないんだろうが、よく住むな……
信仰なのはわかるんだが……
「怖いですね……」
「ええ。そして、それから300年後にまたもや噴火が起きました。この時の被害は数十名です」
めっちゃ減ってる。
「何があったんですか?」
「それが予測です。まあ、私の仕事なんですが、噴火の時期を予測するわけです」
「そんなことができるんですか?」
「はい。修行をし、ノルン様への祈りを捧げ、天からの声を聞くのです」
家でゲームをしているノルン様に噴火っていつって聞けば教えてくれそうだ……
「それで事前に逃れたわけですか?」
「ええ。ここに来る際に国境の施設を通ったでしょう? あそこからフロック王国が軍を派遣してくれ、住民を避難誘導してくれるのです」
あー、そういやそうだったわ。
「ちなみに、次の噴火はいつです?」
「さあ? 何もないということは当分はないのだと思います」
じゃあ、安心、かな?
俺達はその後もサラさんから歴史の話を聞いていった。
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