第067話 神々の晩餐 ★
「このカレー、びちゃびちゃじゃないの……」
タマちゃんが文句というほどではないが、呆れ顔になる。
「冷凍だからのう……」
「カレーって冷凍するものだっけ?」
「あやつはよーやっておるぞ。何でもかんでも冷凍する」
冷凍すれば日持ちするのは確かじゃし。
「ふーん……それでびちゃびちゃなのね」
「確かにちょっと水っぽいですが、美味しいではありませんか」
ハルトが絶賛するノルンがタマちゃんを窘めながらカレーを食べた。
「まあ、味はね……しかし、なんで私はサクヤと岩見の人間の家でカレーを食べているんだろう?」
そもそもおぬしと会うのも100年振りくらいじゃな。
「良いではありませんか。親戚になるんでしょう?」
親戚、か……
こやつと?
「こいつと親戚か……」
複雑なのはお互い様のようだ。
「おぬしの方が申し込んできたんじゃろうが」
「私じゃないわよ。ウチのキヨシ」
「キヨシって当主じゃったか?」
確かにテレビで見た。
「そうそう。ジュリアを岩見に嫁に出すって聞いた時はびっくりしたわ」
我もハルトから話を聞いた時はちょっとびっくりした。
「反対したのか?」
「別に反対はしない。でも、なんでかは問い詰めたわね」
「理由は一つしか浮かばんな」
「そうよね……ウチの子達は優秀だったんだけどね……」
過去形か。
「今でも議員を出しているし、町の権力者じゃろ」
「そっちの意味で優秀になっちゃったわ。おかげで他の魔法使いから嫌われた。あんたのところは良いわよね。優秀な魔法使いが生まれてるじゃないの……すごいわね、あの子」
ハルトはなー……
「ウチの最高傑作じゃ」
「ふーん、それでキヨシが目を付けたわけね」
「じゃろうな。おぬしの消滅を阻止するにはうってつけじゃ」
「ハァァ……別にいいのに……」
タマちゃんが深くため息をついた。
「浅井はそう思わなかったんじゃろ」
ウチのハルトもそうじゃ。
「それは嬉しいけどね。でも、浅井は浅井らしく生きればいいのに」
まあの……
「あなた方は死ぬのが怖くないんですか?」
話を聞いていたノルンが聞いてくる。
「怖いことじゃないでしょ。別れは辛い。でも、私達は人ではない。風が吹いたり、気温が上がったりする自然現象と同じようなものよ。私は浅井という魔法使いの家のためにある。でも、浅井がそうじゃなくなればただ消えるだけ」
「何故、それを許容できるのです? 浅井の魔法使いとしての能力を絶やさないように努力するべきでは?」
「人の人生も家のことも人に任せるべきよ。浅井は魔法使いとしては衰退したけど、浅井家という家も私の子もいまだに多くいる。それも他の家と比べたら成功している部類よ。これを喜びはしても悲しむことはしない」
浅井は大きいからのう……
「私には理解できませんね」
「しなくていい。私達とあんたでは神としての質が違う。私のすべては浅井にある」
我のすべても岩見にある。
だからこそイワミノサクヤヒメなのじゃ。
「ふーん……まあ、どちらにせよ、浅井の家は政治家として成功し、岩見にジュリアを嫁がせたことであなたも残る。良いではありませんか」
「そのためにジュリアが犠牲になっても?」
おい……
「ウチの子に嫁ぐことを犠牲とか言うな」
「私も犠牲とは思いませんよ。あの2人は仲良くやっていますし、負の感情は見えませんでした」
そうそう。
「そうなんでしょうね。ジュリアは楽しそうだし、ハルトに嫁ぐことも悪い意味で捉えていない。でも、ウチの連中はそう思っていないわけよ」
あー……
「浅井から見たらそうかもしれんな。特に上の世代の連中はそうじゃろ」
「そうなのよ。今日、ハルトに会った時に祖父母世代はウチをボロクソに言っていたって言ってたけど、それはウチもそうよ。そんな家に可愛い孫娘を嫁がせるなんて大反対に決まっている。ましてやジュリアは箱入りだしね。あんな性格だし、親戚からも可愛がられていた。それが岩見だもん」
あの世代はまだしこりが残っている世代じゃ。
いや、父親母親世代もじゃろうな。
「でも、反対はしなかったんじゃろ?」
「私のせいでね」
タマちゃんのせいかは微妙じゃのう……
「あなた達の家ってそんなに仲が悪かったんですね」
ノルンが呆れる。
「それはもう。同じ町に魔法使いの名門が2つもあれば必然よ」
「昔は特に過激じゃったからのう」
うん、ひどかった。
「ふーん、祖父母世代まではそれがあり、そんな祖父母に育てられた父母世代も微妙。でも、今の世代はそうでもないわけですか?」
「そうね。それが時代の流れ。あの子達は『争いって何?』って感じでしょう。まあ、当主であるハルトはちょっととげとげしかったけどね」
ハルトが?
「あれはあなたが悪いのでは? 目くらい合わせましょうよ。ハルトさんは気を遣われていただけですよ」
「わ、わかってる……優しい子だったわね」
「奢ってくれましたね」
「そ、そうね……」
奢ってくれたのに目すら合わせなかったのか?
ひどい神じゃの。
あ、いや、タマちゃんは人見知りする奴じゃったな。
「また会ったらちゃんと目を見て、話すんですよ?」
「わ、わかってる……って、あんたは私の母親か」
「いや、見た目的にはそんな感じでは? あなた達、小さいですし」
我は入れてほしくないのう……
「うっさい。私、帰る」
何しに来たんじゃろ?
「そうですか。私はゲームでもしますかね?」
好きじゃのー……
「あ、タマちゃん、洗い物してから帰れよ」
「え? 私がするの?」
「我はせん」
全部、ハルトがしてくれるし。
「ひっどい神様ねー」
「カレーをご馳走してやったんじゃからそれぐらいせい。我は異世界の別荘に行く」
もう8時を過ぎている。
「そういえば、ジュリアとハルトは異世界にいるんだっけ?」
「そうじゃの。ジュリアが酒を飲んでみたいということでハルトが付き合っておる」
「お、お酒!?」
何じゃい?
「変か?」
「別荘ってどんなところ?」
行きたいのかな?
「眺めが良くて、雰囲気があるところじゃの。風呂も絶品じゃし」
「へ、へー……え? あんた、今からそこに行くの?」
「そう言っておるじゃろ」
「よ、よしなさいよ」
あ、行きたいんじゃなくて、ふしだらなことを考えてたみたいじゃ。
「何を頬を染めておるんじゃ?」
見た目ロリのくせに。
「年頃の男女がお酒を飲んでいるんでしょ? 邪魔しちゃ悪いわよ」
そうは言うが、先週も一緒の部屋で寝てたのにそういうことがあった雰囲気はなかった。
「いやー、あの2人はクソ真面目じゃからなー。そういうのは遅いと思うぞ」
一回そういう関係になったらその後はアレじゃが……
「それでもよしなさいっての……よし、あんたも飲みなさい。付き合ってあげる」
なんで我がこやつと飲まないといけないんじゃろ?
「ノルンはどうじゃ?」
ノルンはすでにゲームを始めている。
「結構。操作性が落ちます」
こやつ、ゲームを始めると本当に冷たくなるのう……
ネグレクトな母親じゃな。
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