第065話 ぐつぐつ
昼食を終えると、ノルン様とタマヒメ様と別れ、会社に戻る。
そして、午後からの業務をこなし、帰りにスーパーに寄ってから家に帰った。
「サクヤ様、神様とお会いになられるということでしたが、夕食はどうします?」
「あー、飯もいいかな。冷凍のカレーを食べる。おぬしらは火の国で食べるといい」
せっかくだし、そうしようかな……
「では、ジュリアさんに連絡します。それで別荘に飛んでもらえますか?」
「うむ。我も話が終わったら行く」
「わかりました」
すぐにジュリアさんにメールをすると、OKをもらえたので準備をし、転移でジュリアさんの部屋に飛ぶ。
「お疲れー」
「お疲れ様です。1週間、大変でしたね」
ジュリアさんが苦笑いを浮かべた。
「ホントにね」
「それがお酒です?」
ジュリアさんが俺が持っているクーラーボックスを指差す。
「そうそう。サクえもんがいれば冷蔵庫から取ってくれるんだけど、今日は途中から来るらしいから冷やす用に持ってきた」
「誰がサクえもんじゃい。押し入れもない家に住んどるくせに」
クローゼットがある!
「いつも手助けしてくれるって意味ですよ」
「そうかぁ?」
「そうです。ほら、ちゃんとハイボールも買ってきましたよ」
クーラーボックスを開ける。
「ホントじゃの。しかし、たくさん買ったのう」
帰りにスーパーで買ったのだ。
重かったが、そこは車通勤の便利なところ。
「ジュリアさんのお試しですからね。アルコール度数の低く甘いやつを中心に種類を揃えました。まあ、余ったらちびちび飲めばいいじゃないですか」
「まあ、保存が利くしの」
「ですです」
俺だって毎日飲むわけではないが、たまには飲む。
「よし、では、別荘に飛ぶぞ。ジュリア、準備はいいか?」
「はい。バッチシです」
ジュリアさんは今日もコロコロのキャリーバッグを持っている。
「よし、行くか」
サクヤ様がそう言うと、聖都にある別荘のリビングに飛んだ。
「おー、ちょうど夕日が沈むところですね」
「ですね」
俺とジュリアさんは窓の外を眺める。
「1週間お疲れ様じゃったな。まあ、ゆっくりせい。では、我は戻るからの」
サクヤ様がそう言って、消えてしまった。
「行っちゃった……何気にサクヤ様がいない異世界は初めてだ」
「そうですね。ご飯はどこに行きます?」
うーん……
「マグマ亭?」
「ですよね?」
俺達は顔を見合わせて頷き、別荘を出ると、マグマ亭に向かう。
相変わらずの真っ赤な看板の店に入ると、すでに多くのお客さんがいた。
「多いねー」
「人気店ですもんね。空いてますか?」
「えーっと……」
空いている席を探していると、ウェイトレスがやってくる。
「いらっしゃい! 奥のテーブルが空いてますよ!」
ウェイトレスが言うように奥のテーブルが空いていたので席についた。
そして、ジュリアさんとメニューを見る。
「うーん、あの味が忘れられない……」
「ですよね。実はここに来る前に決めていました」
「俺も……飲み物はどうする?」
「ミルクで。お酒は後で飲みます」
俺もそうしよう。
「すみませーん、ぐつぐつ定食とミルクを2つずつー!」
「かしこまりましたー! ぐつぐつ2つー!」
ウェイトレスが頷き、厨房に声をかけた。
「やっぱりぐつぐつですよね」
「だよね。米と合うのが良い」
ジャパニーズはライスよ。
「パンも美味しいですけど、ご飯ですよね。それにあの辛さは病みつきになります」
「この世界ってそういう料理が多い気がする。俺、最初に食べたボアのバター焼きが忘れられないもん」
だから定期的に食べている。
「あれも美味しいですよね。まだ2ヶ国なのにハマっちゃった料理が多いです」
「ホントだよねー」
俺達が話をしながら待っていると、1人のお客さんが入ってくる。
「すみませーん、いっぱいなんですよー」
ウェイトレスが入ってきたお客さんに謝る。
先程から何人か入ってきているのだが、もう満員なため入れないのだ。
「ジュリアさん」
「はい?」
ジュリアさんが首を傾げる。
「あれ、サラさんだよね?」
「あ、ホントですね」
今、店に来た新規のお客さんは教会の巫女であるサラさんだった。
「入れないみたい」
「呼びましょうか? ここ、4人席ですし」
「そうだね。サラさーん」
サラさんを呼ぶと、店員さんと共にこちらを見てきたので手招きをする。
すると、サラさんがぱーっと笑顔になり、こちらにやってきた。
「こんにちは。デートでしたか?」
「まあ、どう呼ぶかはわかりませんが、夕食を食べに来たんですよ。空いてますし、どうぞ」
「一緒に食べましょう」
俺達が誘うと、サラさんが祈るように両手を握り合わせる。
「おー、主よ。この心清らかな夫婦に祝福を」
それは頼まれなくてももらう予定。
「そこまでのこと?」
「これができる人間はそうはいません。普通は2人で楽しみたいと思うものですから。あ、ジュリアさん、旦那さんのお隣にどうぞ」
サラさんはジュリアさんを俺の隣に行かせ、対面に座った。
「皆で食べた方が美味しいですよ」
「良き奥様をもらいましたね。あ、ぐつぐつー!」
「はーい!」
メニューも見ずに頼んだことからよく来ているのがわかる。
「やっぱりぐつぐつです?」
「私はこの町で生まれ、この町で育ちましたが、この店ではぐつぐつ以外に頼んだことがないほどにぐつぐつ信者です」
ノルン様の巫女なのにぐつぐつ教に入信したのかー。
俺達が話をしながら待っていると、ぐつぐつ定食がやってきたので食べだす。
一口食べただけでも熱さと辛さ、そして、魚介の旨味が白米を求めてしまうほどに美味かった。
「これですよねー、これ、これ」
サラさんも満足そうに食べている。
「よく来るんですか?」
「ええ。美味しい店は他にもありますが、ここが一番ですね。御二方は……あれ? イワミノサクヤヒメ様がおられませんがどうかしたんですか?」
「ちょっと用があるみたいで夕食は俺とジュリアさんだけですね」
サクヤ様、本当に冷凍カレーを食べているんだろうか?
あれ、カレーうどん用なんだけどな。
「あ、そうなんですね。観光はどうです?」
「見たことがない光景ばかりですごいですよ」
「ええ、感動です。それにあのお借りした家からの眺めも最高です」
ホント、ホント。
「満足して頂けたのなら良かったです。歴史ある町ですのでたくさん見てください」
「あ、ちょっと気になったんですけど、地震とか大丈夫なんです?」
「私もそれが気になりました。実は私達の国は有数の地震大国なんですよ」
何度も震災に遭ってるね。
「そうですねー……もし良かったら神殿にいらしてください。歴史の資料とかもありますし、説明しましょう」
「いいんですか?」
「暇なんで……あ、いや、それも巫女の仕事です」
暇なんだ……
ノルン様もそう言ってたな……
「でしたら明後日でもいいですか? 明日はギルドで仕事をしようと思っているんです」
「構いませんよ。ぜひ、いらしてください。歓迎いたします」
歓迎……
なんか怖いな。
「あの、過度な歓迎はいいですよ、お忍び旅ですし」
「ええ。遠慮しちゃいます」
ただでさえ、至れり尽くせりだもんね。
「そうですか? では、お茶くらいに留めておきます」
「お願いします」
俺達はその後も話をしながら食事を続けた。
そして、食事を終えたのだが、混んでいるのでさっさと店を出る。
「今日はありがとうございました。明後日、神殿にて、お待ちしております」
「はい。こちらこそありがとうございます」
「いえいえ、では……」
サラさんが深々と頭を下げ、駅の方に向かったので俺達も帰ることにした。
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