第062話 仕事?
「あはは……あの、座りません?」
威圧感が……
俺のちっぽけなナイト心でジュリアさんとサクヤ様を庇いたいが、戦力(筋力)差がすごい。
「そうか……鍛えていたんだがな」
職員の方は椅子に座った。
すると、威圧感が一気に減る。
「すみません。あの、俺達はフロック王国の方から来た魔法使いです。俺がハルトでこちらがジュリア、そして、この方がサクヤ様です」
「ほう、フロックか。俺はハワードだ。よく来てくれたな。それで何しに来たんだ?」
「まあ、観光ですかね? 色んな国を回ったりしているんです」
ここが第一号だけど。
「なるほど。それでまずは隣国である火の国に来たわけだな?」
「はい。すごいところですね」
「そう言ってもらえると嬉しいな。観光客がウチに来たということは依頼か? それとも路銀稼ぎか?」
「路銀稼ぎの方です。まったくないわけではないですが、観光がてら仕事をしようかなと」
仕事も楽しみの一つ。
「ふむ。なるほど……では、ギルドカードを見せてくれ」
「はい」
財布から真っ赤なカードを取り出し、カウンターに置く。
ジュリアさんも同じように置いた。
「夫婦揃って魔法使いか」
あれ?
夫婦って言ったっけ?
「わかるんですか?」
「同じ指輪をしているだろ」
あ、そういうこと。
「そうなんです」
「新婚旅行ってところか? まあいい。ちょっと待ってろ」
ハワードさんが俺とジュリアさんのギルドカードをじーっと見る。
「変なこと書いてます?」
「いや……まあ、変ではない。ドラゴンスレイヤーらしいな?」
「幼体ですけどね」
「それでも立派だ。実力があるなら一番割の良い仕事を教えてやろう。冒険者ギルドが常時発注しているワイバーン狩りだ。肉が高く売れるんだよ」
あ、そっちか。
「冒険者ギルドには来週行こうと思っているんですよ」
「ふーん……」
「というか、ワイバーンって狩れるんです? 上の教区で遠くの山の方で飛んでいるのを見ましたが、あんな高いところのワイバーンはさすがに無理ですよ」
「狩り方っていうのがあるんだよ。もし、その仕事をするなら教えてやろう」
あ、そうか。
この人、そういうのを専門にしてた魔法使いだったんだ。
「頼むかもしれません」
「いいぞ。ワイバーンの肉はいくらでもあって良いからな。観光客なら知らんかもしれんが、ワイバーンの肉が獲れたらどこの店でも喜んで調理してくれるぞ。昔はそういうツアーもあったんだ。死傷者多数でなくなったが」
ワイルドなツアーだな……
「もし、受けるようでしたらマグマ亭に行ってみます」
「良いと思うぞ。あそこはまず間違いない」
やっぱり有名な人気店か。
「それでこっちで良い仕事がないですかね? 魔法を使いたいんです」
「良い心がけだな。まず大前提なんだが、ここで稼ごうと思ったら冒険者ギルドで魔物討伐の仕事を受けつつになるぞ」
「と言いますと?」
「ウチの仕事を説明しよう。まずは魔石だ。これはどこでもそうだが、年中受け付けている」
これは知ってる。
「魔物討伐のついでに魔石を売るんですよね?」
「そうだ。それと医者の手伝いの仕事。体調を崩す者が多いから回復魔法を使えるならおすすめだな。ただ拘束時間は長いし、医者がうるせーから俺は嫌い」
俺もちょっとお医者様の真似事は嫌だな。
「他には?」
「まあ、ウチと言ったらこれだな。採取だ」
「採取って? 専門的な知識はないですから薬草は無理ですよ?」
まず薬草を知らない。
「違う、違う。ここはルージュ石っていう特殊な魔石が採れるんだよ。それを採取する仕事がある」
「何ですか、それ?」
「真っ赤に輝く宝石みたいな魔石だ。火のエレメントが詰まった石で研究者共が重宝するんだよ。これが登山道や修験道で採れるんだが、ハンマーなんかで採れるし、特殊な技術はいらないんだ」
俺でもできそうだ。
「儲かるんですか?」
「魔石の10倍の値段だ。ルージュ石はこの辺でしか採れないんだが、魔物が多いんだよ。つまりこれを採りに行こうと思ったら自動的に魔物と戦闘になるわけだ。な? 討伐依頼と一緒に受けた方が良いだろ?」
確かに……
「となると、冒険者ギルドに行かないといけないわけか……」
仕事は来週?
「というか、今から山に行くのは勧めんぞ。暗くなる前に帰らないと危険度が平原や森の比じゃない。理由はわかるだろ」
魔物じゃなくて、暗くなると、足を踏み外しやすくなるから。
当然だろう。
とはいえ、ウチはサクヤ様の転移があるんだよなー。
「今から行っても無理ですかね?」
「ルージュ石があるのは奥だからな。近くのは採り尽くされている」
それはそうか。
「行くなら午前中からってことですね?」
「ああ。無理をすることはない。長年そういう仕事をしてきた俺のアドバイスだが、そういう心構えは大事なもので無理をする奴は死ぬ」
それはすごくわかる。
「わかりました」
「観光客だろ? この町を楽しんでくれ。おすすめは…………あ、いや、なんでもない」
ハワードさんは何かを言いかけたが、ジュリアさんをチラッと見て、言うのを止めた。
僕には止めた理由がこれっぽっちもわからない。
「観光を楽しもうと思います。では……」
話を終えたのでギルドを出る。
「ハルト、どうする? 別に転移があるからどうとでもなると思うが……」
「やっぱり冒険者ギルドで討伐依頼を受けてからの方が良いと思います。まだ、住居区を見回っていませんし、今日は観光にしませんか?」
「うーむ……そうじゃの。おぬしらは明日仕事じゃし、今日はゆっくりした方が良いかもしれん」
仕事……
「ハルトさん、私もそちらが良いです。夜に色々と下ごしらえをしないといけませんし」
あ、弁当……
やっぱり今日は仕事をしない方が良いな。
「じゃあ、そうしよっか。観光しようよ」
「はい」
俺達はまだ見ていないところを回ることにし、歩き出した。
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