第060話 ドラゴンスレイヤー!
王都に着き、裏道から出ると、時刻はまだ9時だというのに大勢の人が歩いていた。
「相変わらず、人が多いの」
「王都ですからね」
「多分ですけど、私達とは生活サイクルが異なるんじゃないでしょうか? 昔の人は日が沈んだら寝て、日が昇ったら起きると聞いたことがあります。そこまでではないでしょうが、私達と比べて、早い時間に起き、早い時間に寝るんだと思います」
それはあるかもな。
「テレビもないしね」
娯楽は本かお酒とかかな?
歓楽街は遅くまでやっているようだし。
「健康じゃの。我は不健康でいいが」
「俺もそれなら不健康でいいです。ゲームやアニメ三昧」
「わかります」
俺達は頷き合いながら歩き、冒険者ギルドまでやってくる。
そして、中に入ったのだが、そこまでの人はおらず、空いていた。
「ジュリアの言う通り、この時間は遅いのかもしれんの」
「ですね」
俺達は受付にいるネイトさんのもとに向かう。
「こんにちはー」
「これはハルト様、お久しぶりです」
ネイトさんが姿勢良くお辞儀をした。
相変わらず、礼儀正しい人だ。
「ええ。ちょっと色々ありまして」
「聞いております。ドラゴンを倒したとか……」
まあ、知ってるわな。
「ええ。魔法ギルドの繋がりでカーティスさんとご一緒させてもらったんですよ」
「左様ですか。ドラゴンスレイヤーの誕生と当ギルドでも話題になっていますよ」
大袈裟だな。
「幼体でしたし、そこまででしたよ」
「いえいえ、幼体とはいえ、ドラゴンはドラゴン。立派なことです。また、当ギルドからそのような冒険者が出たことは喜ばしい限りです」
この人、絶対に営業をした方が良いわ。
「ありがとうございます。恐縮です」
「えーっと、それでなんですが、数多くの冒険者や冒険者パーティーから勧誘が来ております」
はい?
「勧誘ですか?」
「はい。ドラゴンスレイヤーともなれば、実力は確かです。そうなると必然的に仲間になってほしいと思う者も増えます。そして、こういうのを仲介するのも我らの仕事です。いかがしますか?」
いかがもないわ。
「すみません。我々は家族でパーティーを組んでおりますし、道楽の旅をしています。誰かを加入させたり、逆にどこかのパーティーに入る気はありません」
絶対に無理だわ。
そもそもこの世界の人間じゃないし、転移を使いまくっているというのに。
「左様ですか。では、そのように処理しましょう」
「大丈夫です? 絡まれたりしません?」
サクヤ様とジュリアさんがいるからそういうトラブルは避けたい。
「大丈夫でしょう。ドラゴンスレイヤーほどの実力者ですし、ハルト様達は魔法ギルドにも所属しております。絡まれたり、強引な勧誘はないと思いますよ」
なら良かったわ。
「実際のところ、ドラゴンスレイヤーってどれくらいの人が知っているんですかね?」
「ほぼ全員? こういう情報は早いですから」
すぐに火の国に行ったのは正解だったっぽいな。
「ですかー……あ、今日は配達依頼を受けようと思ってきました」
「火の国ですか?」
「ええ。そちらに行ってみようかなと」
もう着いてるけどね。
「これからでしたか……てっきりもう向かったのかと思っていましたよ」
うん。
「色々ありまして」
「確かにありましたね」
ネイトさんが苦笑いを浮かべた。
「ええ。それで配達依頼はあります?」
「そうですね……2つほどあります。両方とも火の国の首都、通称聖都と言いますが、そこに配達してほしいという依頼が来ております」
ちょうどいいな。
「どこに運べばいいんです?」
「1つは聖都にある冒険者ギルドですね。もう1つは神殿と呼ばれる教会です」
冒険者ギルドはこれから行くところだし、教会もサラさんの家だ。
「ちなみに、依頼料っておいくらなんです?」
「配達依頼は荷物の量や重さ、そこに距離や難易度が加算されます。今回はそこまで大きな荷物ではありませんが、距離がありますので2つとも金貨5枚といったところです。合わせて金貨10枚ですね」
高いなと思ったが、ウチの国と比べてはダメだろう。
聖都にはトロッコ列車があったが、ここからだと歩きか馬車での移動になる。
料金が上がるのは必然だろう。
「ついでですし、やりますよ」
「左様ですか? では、少々お待ちください」
ネイトさんはそう言って奥に向かっていく。
「……ハルト、ハルト、ぼろ儲けじゃの」
サクヤ様がふししと笑っている。
「……そうですね。一応矛盾のないようにしたいですし、ほどほどにしておきましょう」
「……うむ。そうじゃの。宅配便業者ではなく、名門の魔法使いじゃからの」
そうそう。
俺達がそのまま待っていると、ネイトさんが2つの小包を持って戻ってくる。
「お待たせしました。こちらが冒険者ギルドに渡してほしい荷物です。係の者に渡してください。こちらは教会ですね。同じように教会の方に渡して頂ければ結構です」
ネイトさんがカウンターに小包を置く。
小包にはそれぞれ【火の国聖都冒険者ギルド行】、【火の国聖都教会行】と書かれていた。
「料金の方は?」
「こちらの紙にサインをもらってきてください。それがあれば各ギルドで依頼料を受け取れます」
ネイトさんがそう言って1枚の紙を渡してくる。
「1枚なのは冒険者ギルド行は不要だからです?」
「そういうことです。その場で料金を受け取ってください」
となると、先にあの神殿に行った方がいいかな?
「わかりました」
「よろしくお願いします。それと期限は共にひと月となります」
あ、期限があるのか。
「期限を過ぎるとアウトです?」
「アウトというのがどこまでの意味なのかはちょっとわかりかねますが、良くないのは確かですね。遅れれば減点になりますし、依頼料も減ります。さらにはギルドが悪質と判断すれば国に報告し、罰せられるので注意です。まあ、何かあればちゃんと報告や相談をしてくれれば大丈夫です。我々としても無連絡の場合はどうしても盗難と考えますので」
そりゃそうだ。
「わかりました。ひと月もあれば余裕です」
今日、渡そうかな。
「お願いします。一応、こちらからも先方のギルドに一報を入れておきますので」
あれ?
マズくない?
「一報ですか?」
「はい。こういうのはこちらと向こうで情報を共有する必要がありますので」
電話があるのか……
そうなると、さすがに今日はマズいな……
「承知しました。では、早速、行って参ります。多分、来週くらいには着くと思います」
「早いですねー」
「ドラゴンスレイヤーなんですよ」
これからはこれで乗り切ろう。
「さすがですね。では、1週間くらいと伝えておきます。これはボーナスが出るかもしれませんよ? 少なくとも、ギルドの評価は上がります」
「頑張ります。では……」
「いってらっしゃいませ。ハルト様一行のご活躍を祈っております」
ネイトさんが丁寧に頭を下げたので小包を手に取ると、ギルドをあとにした。
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