第057話 異世界温泉
「おー、綺麗だ!」
「絶景じゃの」
「サラさんがこの辺りが一番眺めが良いっておっしゃっていた意味がよくわかりますね」
別荘のリビングでは窓一面に夕日が差し込んでおり、外の景色はものすごく綺麗だった。
「よし! 一度家に戻り、お泊まり準備じゃ! 風呂は今がチャンスぞ!」
確かにこの夕日を見ながらのお風呂は最高だろうな。
「お願いします」
「うむ!」
俺達はサクヤ様の転移で一度、俺の部屋に飛ぶ。
「ハルト、我はこのままジュリアの部屋に飛ぶ。準備は頼んだぞ」
「わかりました」
頷くと、サクヤ様はすぐにジュリアさんと共に消えていったのでテレビの前に座っているノルン様を見る。
ノルン様はまだゲームをしていた。
「まだおられたんですね?」
タンスを開け、サクヤ様の着替えを用意しながら聞く。
「今日はあちらに泊まるのでしょう? ですので、私もゲームを延長です」
そういうことか。
「別に俺達がいる時に来てもいいんですよ?」
「それは遠慮しておきます。あなた達だってテレビは見るでしょうし、ジュリアさんもゲームをします」
まあね。
「なんか別荘をもらっちゃいましたよ」
しかも、掃除なんかの管理付き。
「良いことではありませんか。サクヤも含めて、家族で楽しんでください……あの、この洞窟、行き止まりなんですけど」
あー、それか。
「下の茂みを調べてください」
「下……あ、階段……」
そこは俺も友達に聞くまでわからんかった。
「サラさんに何を言ったんです?」
「特には……まあ、詮索するなとは言いました。転移とか理解できないでしょうしね。ウチの巫女達は素直なので大丈夫でしょう」
「ありがとうございます」
「いえいえ。せいぜい楽しみなさい。人の人生は短いですから」
神様からしたらそうだろうな。
「本当に感謝しています。ノルン様の世界に行けてから人生が変わりました」
「そうですか。自分の人生を……そして、ジュリアさんの人生を大切にしなさい」
「はい。そうします」
サクヤ様のお泊まり準備を終えると、自分の準備をする。
「祝福がいりますか?」
ん?
「何のです?」
「2人の愛のです」
あー、そういうのか。
ジュリアさんのことを時間の問題の奥様って言ってたしな。
「今はいいです。でも、近いうちに頂ければと思います」
「なら結構。この期に及んでまだわからないとほざいたらどこぞの神が怒りますよ?」
サクヤ様……か?
「気を付けます」
自分の準備を終えたのでカーティスさんに借りた本を持って行こうと思い、本を紙袋に詰めていると、サクヤ様とジュリアさんが現れた。
ジュリアさんは荷物が多いようでコロコロのキャリーバッグを持っている。
「お待たせしました」
「ハルト、準備はできたか?」
「ええ。行きましょう」
頷くと視界が夕日が差し込む別荘のリビングに変わった。
「サクヤ様、こちらが着替えですのでお先にどうぞ」
サクヤ様に着替えとお風呂セットが入った手提げバッグを渡す。
「うむ。ジュリア、行くぞ」
「あ、ちょっと待ってください」
ジュリアさんはその場でキャリーバッグを開ける。
中には着替えなんかもあったが、それよりも漫画やラノベなんかが半分以上を占めていた。
荷物が多いなーと思っていたが、これのためらしい。
「ハルトさん、良かったら読んでください」
ジュリアさんはそう言って、漫画やラノベをローテーブルに置く。
「うん、ありがとうね。俺もカーティスさんに借りた本を持ってきたから」
俺も本をローテーブルに置いた。
「ありがとうございます。では、サクヤ様、参りましょう」
「うむ」
ジュリアさんも着替えなどを持つと、サクヤ様と共に階段を降りていったのでジュリアさんが持ってきてくれた漫画を読みながら待つ。
ジュリアさんが持ってきた漫画はやはり面白く、スイスイと読めた。
「ジュリアさん、やっぱりファンタジー系が好きなんだな……」
持ってきてある漫画もラノベもファンタジー系だ。
例のお気に入りばっかりの本棚もほとんどがファンタジーであり、恋愛系なんかはなかった。
俺も色々なジャンルを読むが、やはり好きなのはファンタジーだ。
それも旅をして、色々なところに行くような冒険もの。
ジュリアさんもだが、そういう願望が強かったからだろう。
漫画の1巻を読み終え、2巻に手を伸ばしたところでサクヤ様とジュリアさんが上がってきた。
サクヤ様はいつもの浴衣だし、ジュリアさんは薄そうで涼しそうな生地だが、ゆったり目のルームウェアだ。
「あれ? 早いね」
「日が沈む前にハルトさんにも入ってもらいたかったですからちょっと早めに上がりました」
良い子だなー。
「そう? なんかごめんね」
「いえいえ。また、明日の朝にでも入ろうかと思っています」
確かに朝風呂も良さそうだな。
「ええ湯じゃったぞ。おぬしも入れ」
サクヤ様がソファーに座りながら薦めてきた。
「サクヤ様の髪を乾かしてから……あれ? ドライヤーがないな。一度帰ります?」
「あ、コードレスのドライヤーを持ってきています。私がやりますのでハルトさんはお風呂にどうぞ」
ジュリアさんがそう言って、キャリーバッグからコードが付いていないドライヤーを取り出した。
「そういうのがあるんだね……じゃあ、お願いね」
着替えを持つと、サクヤ様のことはジュリアさんに任せ、階段を降りていく。
そして、服を脱ぎ、風呂場に行くと、入り込んでくる外気が気持ち良かった。
「ホント、綺麗だな……」
茜色に染まった広大な平野は目を引くものがある。
絶対に日本では見られない光景だし、人生でこういうものを見られる機会があるとは思っていなかった。
俺は身体を流し、湯船に浸かると、落ち行く夕日を眺めながら何気にジュリアさんと初の外泊だなと今さらながらに思った。
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