第056話 それが私の人生
引き返した俺達はすぐに真っ赤な看板のマグマ亭を発見した。
「ここがさっきの人が言ってた店ですね」
「辛そうじゃの」
「マグマですしね。どうします? 夕食はここにしますか? 大通り近くならハズレはないって言ってましたけど」
「まあ、初日だし、名物かつおすすめで良かろう。ジュリアはどうじゃ?」
サクヤ様がジュリアさんに確認する。
「私も辛いものは好きですから大丈夫です。でも、まだ4時半過ぎですね」
「確かにちょっと早いか? 開いてはいるようじゃが……」
「人気店っぽいですし、逆に今じゃないですかね? 私は食べられますよ」
「それはあるの。我も食べられる」
良い時間に行ったけど、混んでて入れなかったら嫌だしな。
「俺も食べられます。じゃあ、ちょっと早いですけど、夕食にしましょう」
俺達が店に入ると、カウンター席に2人の男性客が座っているだけでテーブル席には誰も座っておらず、空いているようだった。
「いらっしゃいませー。空いている席にどうぞー」
ウェイトレスがそう言うので空いている奥のテーブル席に座り、3人でメニューを見る。
「すごいっすね……」
「マグマじゃの……」
「でも、色んなものがありますね……」
メニューには様々な料理が書いてあるが、全部頭にマグマと付いていた。
「どうします?」
「我はマグマステーキセットにする」
「私はこの定番って書いてあるマグマぐつぐつ定食ですね」
何それ?
「えーっと、じゃあ、俺はマグマパスタセットにしようかな」
なんか惹かれるし。
「辛い食べ物だし、飲み物も付けた方が良くないか? 我はミルクにする」
「あ、私も」
「俺もそうするかな……すみませーん」
決まったのでウェイトレスさんを呼ぶ。
「はいはーい。お決まりでしょうか?」
「えーっと、マグマステーキセットとマグマぐつぐつ定食とマグマパスタセットとミルクを3つください」
「ステーキセットとぐつぐつ定食とパスタセットとミルクを3つですね! 少々待ちください!」
ウェイトレスは注文を取ると、厨房の方に歩いていった。
「マグマ、付けないのかよ……」
「たまにあるの……」
「ふわふわオムライスを頼んだらオムライスですねって聞き返されるあれですね」
そう、それ。
俺達が話をしながら料理を待っていると、空いているからか、割かし早く持って来てくれた。
俺の目の前にはミートソースみたいなのが乗っているパスタであり、それにスープとサラダが付いている。
「ミートスパですね」
「ボロネーゼって言うんじゃぞ?」
「へー……サクヤ様はステーキですね」
サクヤ様の料理は焼いた何かの肉であり、パンとスープ、そして、サラダが付いていた。
「牛かの? ようわかんらん。ジュリアのは……ぐつぐつじゃの」
「ぐつぐつですね」
ジュリアさんの料理は何かの煮込み料理なのだろうが、鉄板の上に乗っており、ぐつぐつと煮立っている。
「名に偽りなしです。それと米があるんですね」
煮込み料理の他にサラダとどう見ても白米が置いてあった。
「みたいじゃの……しかし、赤いのー……」
俺が頼んだメインのパスタのソースもサクヤ様のステーキのソースも赤い。
そして、ジュリアさんの煮込み料理に至っては真っ赤だ。
「ジュリアさんの分は本当にマグマに見えてきた」
それくらいに赤いし、煮立っている。
「見るだけで唾液が出ますね……いただきましょうか」
「そうだね」
「いただきまーす……なのじゃ」
パスタをソースに絡め、一口食べる。
「あ、そんなに辛くはないかな……」
ピリッとする程度だ。
でも、それがアクセントになってすごく美味しい。
「我もそこまでじゃな。しかし、このソースは肉に合うの。これは美味いわ」
俺とサクヤ様のマグマはそこまでではなかったようだ。
一方でジュリアさんはスプーンで一口飲んだのが、すでにミルクを飲んでいた。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です……これはマグマですねー。熱さと辛さが絶妙です。それでいて、魚介の出汁がバッチシですね。ふう……」
ジュリアさんは汗をぬぐうと、もう一口飲み、何かの貝っぽいものを食べた。
そして、白米を食べる。
「うん……これは米ですね。絶対に米です。辛いけどすごく美味しいです」
ちょっと気になる。
「我のステーキを一切れやるから一口くれ。気になる」
サクヤ様がナイフでステーキを切ると、小皿に乗せ、ジュリアさんの前に置く。
「どうぞ」
サクヤ様は許可を得たので煮込み料理を一口食べた。
「おー……定番の意味がわかるの。これはマグマじゃ。すまん、米ももらう」
サクヤ様は米もちょっとだけ取って、食べる。
「うん、これじゃな。この店はこれが当たりじゃ。美味いわ」
そんなに?
「ハルトさんも食べてみませんか? 美味しいですよ?」
「あ、じゃあ、もらう。パスタも食べていいよ」
パスタをジュリアさんの前にずらすと、煮込み料理を一口食べた。
「確かに魚介の旨味と辛さが絶妙に合うね……ごめん、俺も米をもらう」
やはり米が欲しくなったので米を一口食べる。
「これは美味しいね。日本人が好きなやつだわ」
うん、美味い。
「ステーキもパスタも美味しいですね」
「この店は勧められるだけのことはあるの。あの案内所の男もわかっておる」
無料案内所の人、ありがとー。
俺達はその後もシェアしながら食べ、ミルクをおかわりしつつ、食べていく。
そして、食事を終えると、辺りは茜色に染まり始めていたので別荘に戻ることにした。
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