第055話 セーフ!
俺達はお風呂場からリビングに戻ると、ソファーに腰かけ、景色を眺める。
「前にこっちの世界で儲けて、豪邸でも買えと言ったが、なんかもらったの」
「もらってませんよ。ニュアンス的に永久に貸し出してくれる感じです」
「一緒じゃい」
まあ……
「しかし、すごい家ですね……ここも寝室もお風呂もすごいです」
「ホントにねー」
「いっそここに住むか? あのアパートより住みやすいぞ?」
あそこと比べないでほしい。
「テレビがないですよ? あとネットも繋がりませんからサブスクのアニメも見られません」
「そういやそうじゃったの」
「別荘として来る感じですかね? サクヤ様の転移ですぐに来られますし」
「そんな感じじゃの。一気にブルジョアになったわい」
どこでそんな言葉を覚えてくるんだろう?
まあ、テレビか……
「ジュリアさんもいつでも来ていいからね。温泉とかすごかったし、休みの日に泊まるのも良いと思う」
「そうですね……ちょっと気が引けますが……」
まあねー。
「サラさん……というか、教会の人はノルン様に言われたらこうなっちゃうんだろうね」
「あやつは軽い気持ちで案内でもしてやれって言ったんじゃろうがな。でも、よく考えたらこうなるわ」
神様だもんな。
「俺もサクヤ様に頼まれたら歓迎しますね。金銭的にここまでは無理ですが、できるだけのことをします」
「ウチの家もタマヒメ様に頼まれたら歓迎すると思います」
当然だろう。
「じゃろう? まあ、気にせずに満喫すればいいじゃろ。歓迎しているのに遠慮される方が良くない」
「それはそうですね」
「確かにそうです」
俺とジュリアさんが頷く。
「そういうわけで満喫せい。せっかくじゃし、今日はここに泊まるか?」
「夕食は外ですかね?」
「せっかく来たわけじゃしな。美味いもん食べて、温泉に入り、ゆっくりせい」
そうしようかなー……
テレビもゲームもないけど、本でも読もうか。
「ジュリアさんもそうする?」
「え? あ、いや……あのー、寝室にベッドが2つしかありませんでしたが、足りなくないですか?」
そういやそうだ。
届けてもらうか、持ってくるか……
「おぬしらがベッドを使え。我はベッドは好かん」
サクヤ様はそう言って、ソファーで横になる。
「家で寝るんです?」
「布団を持ってきて、どこぞに敷いて寝る。我は高いところで寝るのが嫌いなんじゃ」
さすがは万年床から出ない人だ。
「床で寝るんですか? なんか畏れ多いんですけど……」
まあ、わかる。
神様より高い位置で寝るのはちょっとね。
「我がそれを好んでいるのだから仕方がないじゃろ。昔はベッドなんかなかったし、違和感がするんじゃ」
昔の人はそうなのかねー?
「ジュリアさん、サクヤ様がこうおっしゃっているのでお言葉に甘えよう」
「そ、そうですね……では、一度戻っても良いですか? お泊まりにも準備がいりますし」
あ、俺もだ。
というか、サクヤ様も。
「そうじゃの……まだ時間はあるし、ちょっと繁華街を見て回るか。その後、夕食を食べて、一度家に帰ろう」
それがいいか。
「じゃあ、そうしよっか」
「はい」
俺達は立ち上がると、家を出て、町を巡ることにした。
まずは駅から出てすぐの大通りに戻り、露天商なんかを見ていく。
色んなものが売っていたが、なんか小さいように見えるドラゴンの鱗やただの石にしか見えないマグマの石は非常に胡散臭かった。
それでも楽しみながら見ていきつつ、夕食のための飲食店を探しているのだが、多すぎてどこに行くかを悩んでしまう。
「店が多いですね」
「観光地じゃからのう……サラにおすすめを聞けば良かったのう」
確かにそうだ。
よく来ているって言っていたし、詳しいだろう。
「こういうのも冒険では? 適当に入ってみます?」
「そうだねー……」
それはそれで楽しいかもな。
「いっそのこと、その辺の誰かに聞くか?」
「あそこに案内所ってありますよ?」
ジュリアさんが案内所と書かれている看板の下で立っている男性を見る。
その瞬間、周りに男性しかいないことに気が付いた。
「ホントじゃの」
え? いや、あの目立つ感じは……
「お、俺が聞きましょう」
「任せる」
仕方がないので案内所の男性に近づく。
「すみませーん……」
若干、小声なのは許してほしい。
「はいっ! どうしましたー? お兄さん、どういう子が……」
案内所の人は笑顔100パーセントで答えてくれたが、途中で言葉が止まり、俺の後ろにいるジュリアさんを見た。
そして、その隣にいる見た目少女のサクヤ様をじーっと見続ける。
「あー……お兄さん、ウチは女連れNG……」
「……良いところのお嬢さんなんです!」
小声だが、めちゃくちゃ早口で遮った。
「あ、はい……」
「すみません……実は今日ここに着いたばかりなんですけど、おすすめの飲食店とかないです?」
「え、えーっと、飲食店ね。色々あると思うけど、ここから奥はちょっと治安が良くないからおすすめしないな」
紳士しかいないけどな。
あとお姫様。
「そうですか。どの辺が良いんですかね?」
「やっぱり大通りに近いところが良いと思うよ。その辺りはまずハズレがない。辛いものは大丈夫?」
「ええ。大丈夫です」
サクヤ様もジュリアさんも大丈夫。
「だったら一番のおすすめはマグマ亭だね」
「マグマです?」
熱そう。
「辛い物専門のお店。辛いものを食べたかったらここだね。他にもあるけど、まあ、おすすめと言われたらそこかな? ここから引き返して駅の方に歩いていけば見つかると思うよ。真っ赤な看板でマグマ亭って書いてあるから」
確かに真っ赤な看板は見かけた気がする。
「ありがとうございます」
「いえいえー。聖都を楽しんでねー」
案内所の人がそう言って、手を振ってくれたので引き返すことにした。
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