第053話 観光案内
俺達が眺めに感動していると、トロッコが駅に止まった。
「ここが住居区になります。住居区はかなり広く、駅が複数ありますが、ハルト様達が利用するのはここになると思います」
「何かあるんですか?」
「各ギルドがあります。この駅が最寄り駅になります」
なるほど。
確かに利用するならここだ。
もう着いたし、フロック王国の冒険者ギルドに行って、配達依頼を受けても良いな。
「お金を稼ぐために仕事をしようと思っているのですが、何がありますかね?」
「そこはちょっとわかりませんね。でも、他の町のギルドとそうは変わらないと思いますよ」
巫女さんはわからんか。
まあ、直接行って話を聞けばいいな。
「住居区はそれくらいです?」
「いえ、色んなお店もありますし、温泉施設がそこら中にあります。もちろん、繁華街にもありますし、そちらを利用しても良いです。中には温泉巡りをする方もおられますね」
良さそう。
「ジュリアさん、温泉好き?」
「好きですね。お風呂が好きですし」
俺も好き。
巡るのもいいかもしれないな。
「では、次は繁華街を飛ばして、教区に向かいます」
サラさんがそう言うと、トロッコが動き出す。
「繁華街は後ですか?」
「はい。そちらを最後に致します。それとですが、ここからは標高が上がります。人によっては体調を崩す人もおられます。ただ、ノルン様が御三方は大丈夫っておっしゃられていましたが、本当でしょうか?」
高山病のことだろう。
でも、大丈夫って何が?
「サクヤ様、何か聞いてます?」
「いや……ワクチンか?」
ワクチンってそういうものじゃなくない?
「うーん……」
「ノルン様が大丈夫っておっしゃられるくらいですし、何かしらの対策をしてくださっているのではないでしょうか? 神様ですし……」
そうかも……
優しい方だし、こちらに配慮してくださったのかもしれない。
「薬があるんじゃろ? 体調が悪くなったら薬を飲めばよかろう。もしくは、帰ればいい」
それもそうだな。
「サラさん、多分、大丈夫です」
「そうですか? もし、何かあれば各区に病院がありますし、駅にも医者がおりますのでご利用ください」
「わかりました」
「では、引き続き、景色をご覧になってお待ちください」
完全にガイドさんだな……
俺達はその後も眺めを堪能しながら到着を待つ。
しばらく経つと、おそらく繁華街であろう駅をスルーし、さらに登っていった。
そして、トロッコが駅に到着した。
この先には線路がないのでここが終点だろう。
「到着しました。では、降りましょう」
サラさんが立ち上がったので俺達も立ち、トロッコから降りる。
「ジュリアさん、体調の方は?」
かなり高いところまで来ている。
軽く見積もっても標高1000メートルは余裕で超えているだろう。
「大丈夫です。ハルトさんは大丈夫です?」
「俺も大丈夫。空気が薄いって感じもしないよね?」
スナック菓子でも持ってくれば良かったな。
高いところに行くと、袋がパンパンになると聞いたことがある。
「ですね。普通です」
「サクヤ様も大丈夫ですよね?」
「そりゃな」
神様だもんね。
「問題ないなら良かったです。少しでも異変を感じたらすぐに医者を呼んでくださいね。では、こちらです」
サラさんは頷くと、近くの階段を昇っていったので俺達も続く。
そして、階段を昇り終えると、少し強めの風を感じた。
だが、そんなことが気にならないくらいのものが正面にある。
「こちらが火の国の神殿です。まあ、教会です」
目の前には巨大な石造りの建物がある。
まさしく神殿だろう。
「サラさんはここに住んでいるんです?」
「そうですね。ここが私の住まいであり、職場です」
職場って何をしているんだろう?
ガイドさんじゃないだろうし、修行かな?
「大きいですねー……」
「作られたのは数百年前になります。当時はこれを作るのに莫大な予算と人が必要だったらしいですね。各国の協力のもとで作られたと伝わっております」
へー……
「標高も高いし、資材を運ぶのも大変でしたでしょうね」
「それはもう。当時は今のようなトロッコもなく、馬や人力だったそうです。それでこの神殿が建ち、門前町が徐々に発展していったのです」
「なるほどー」
「勉強になります」
そういう資料館とかないのかな?
「おぬしらは真面目じゃのー……」
「いや、楽しいじゃないですか」
「まあ、そういうのも観光の醍醐味かの?」
そうそう。
「私で良ければいくらでも説明致しましょう。私は基本的にはそこの神殿におりますのでいつでも訪ねてきてください。歓迎致します」
「ありがとうございます」
「すごく興味がありますのでよろしくお願い致します」
俺とジュリアさんが軽く頭を下げた。
「いえいえ。では、こちらにどうぞ」
サラさんはニッコリと笑うと、神殿の右の方に向かう。
俺達もついていくと、崖から張り出すように作られた木製の展望台があった。
「こちらから火山が見られます。あそこの大きな山が火山になりますね」
ちょっと怖かったが、張り出し構造の展望台に行き、サラさんが指差した方向を見る。
そこには大きな山々がさらに連なっており、その奥にはひときわ大きな山があった。
「あれが火山ですか……大きいですね」
「はい。この聖都に来るまでに見えていたと思いますが、あれがこの山脈で一番高い山になります。通称、神の山と呼ばれる火山ですね。昔の人々はあそこにノルン様がおられると信じていたようです」
多分、ノルン様はウチでゲームしてるよ。
「あそこまで行けるんですか?」
「行けますよ。実は神殿の裏に道がありまして、そこから火山まで繋がっています。昔から使われている修験道です。今でも教会の許可を得られれば行けます。興味があればお声がけください。ただ、所々で険しい場所もありますし、魔物が出てきますのでお気を付けください」
魔物もいるのか……というか……
「あの飛んでいるやつは何ですかね?」
話を聞きながらずっと気になっていたが、遠くの山の方で鳥みたいのが飛んでいる。
でも、どう見てもでかい。
「あれはワイバーンですね」
ワイバーン……
「ハルト、狩ってこい。美味いらしいぞ」
「いや、どうやってあそこまで行くんですか……」
遠いし、めっちゃ高いところを飛んでるじゃん。
「あの……ワイバーンがここや町を襲ってこないんですか?」
ジュリアさんがサラさんに聞く。
「それは大丈夫です。ちゃんと結界が張ってありますし、ドラゴンが来ても大丈夫です」
「ドラゴンもいるんですか?」
「いますね。夕方や朝方になるとたまに見えます。とはいえ、ワイバーンもドラゴンもここまで近づいてこないので遠目に見える程度です」
見ようかなと思ったが、よく考えたら至近距離で見たわ。
「カーティスさんが好きそうですね」
「じゃろうな」
魔物の生態を研究している人だもん。
来たことあるって言ってたけど、修験道にも行ったのかな?
「では、ここは以上です。次に繁華街に向かいます」
俺達はこの場をあとにすると、駅まで戻り、トロッコに乗り込んだ。
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