第049話 通行証があって良かった
翌朝、上司に急遽、用事ができたので休むことを電話で伝えると、そのまま横になり、二度寝する。
そして、再び、目が覚めた時はすでに11時だった。
「おはよう」
先に起きていたサクヤ様が挨拶をしてくる。
「おはようございます……あ、ノルン様もおはようございます」
ノルン様も普通におり、ゲームをしている。
「おはようございます。随分と遅い起床ですね」
「有休を取ることにしたんで夜更かしして、ゲームをしてたんですよ」
勇者ジュリアに抜かれそうになってたし。
「気持ちはわかりますが、正しい生活サイクルを築くべきです」
正論を言う神様である。
きっと俺のことを考えてくれているのだろう。
優しい女神様だなー。
「サクヤ様、朝食は?」
「インスタントのうどんを食べたぞ」
お湯をかけるだけのやつね。
「昼食を異世界で食べて、国境を越えましょうか」
こんな時間だし、朝食はいいや。
「そうじゃの。顔を洗って、その髪をどうにかしてこい」
「はーい……」
サクヤ様が言われた通り、洗面台に行き、顔を洗うと、髪を整えた。
ふと、30歳を超えたことを思い出し、髪の毛先を触る。
「サクヤ様ー、大丈夫ですかねー?」
「ウチの家系は大丈夫じゃ。お前の父親も爺さんもちゃんとあったじゃろ」
確かに爺ちゃんもふさふさだった。
「優秀な家系で良かったです」
「優秀なのはそこじゃないがな……」
ある意味、魔力よりも大事なことだよ。
「サクヤ様、着替えますんでサクヤ様も着替えてください」
「そうするかの」
脱衣所に行き、異世界の服に着替える。
そして、部屋に戻ると、サクヤ様も着替え終えていた。
「ノルン様も行きませんか?」
「おぬし、ノルンが好きじゃのー……」
それは仕方がない。
「私は結構です。今日の昼は知り合いとご一緒する予定なのです」
ありゃりゃ。
「知り合いって、他の神様です?」
「そうですね。こちらの世界は神が多いですからね。色々と付き合いがあるのです」
サクヤ様くらいしか知らんが、八百万の神々って言うくらいだからなー。
「へー……じゃあ、俺達で行ってきます」
「行くかの」
俺達は転移をし、王都にやってきた。
そして、適当な店で昼食を食べると、またもや転移を使い、昨日の夜に帰った場所まで飛ぶ。
「昼間に見ると、かなりの大きさですね」
「城みたいじゃの」
俺達の前方には砦が見えている。
「国境って厳重なんですかね?」
「いや、どうじゃろ? 聞いてみるか?」
「それが早いですね。行きましょう」
俺達は砦を目指し、街道を歩いていった。
そして、砦の前にやってくると、馬車に乗った商人らしき男性が兵士と話しているのが見える。
その周りにも兵士がおり、10人くらいはいた。
「並びますか」
「仕方がないの」
少し距離を取り、その場で待つ。
すると、1人の兵士がこちらに気付き、歩いてきた。
「冒険者か?」
兵士が俺達の服装を見ながら聞いてくる。
「ええ。王都から来ました。あと魔法ギルドに所属しています」
「ほう。魔法使いか。火の国に行くのか?」
「ええ。見てみたいなって思いまして。あと、辛いものが好きなんですよ」
「なるほど。旅行か」
そうそう。
「世界各地を回ろうと思っているんですよ」
「ふむふむ。それは羨ましいな。王都から来たと言ったな? 怪しいものを見なかったか?」
ん?
「怪しいと言われましても……人ですか?」
「いや、わからん。実は昨夜、謎の発光体が確認されたのだ。調査をしているがまったくわからない」
あ、はい……
「旅人のたいまつとかですかね?」
「わからん。かなりの速度で近づいてきたし、馬かもしれんし、魔物かもしれん。道中で何か変わったことはなかっただろうか?」
その謎の発光体に乗ってきました。
「いえ、特には……」
「そうか……いや、協力に感謝する。ここを通りたいんだったな。冒険者ギルドでも魔法ギルドでも所属しているならギルドカードがあるだろう? 出してくれ。悪いが、審査をする」
あ、そうだ。
「えーっと、通行証を持っていまして……」
ポケットから通行証を取り出し、兵士に渡す。
「ほう…………うん、陛下の名前だな……」
「魔法ギルドの知り合いであるカーティスさんにもらったんです」
「そうか……うん、通っていいぞ」
あっさりだな……
「いいんです? 審査は?」
「これがあるということはすでにそれは終わっている。王家の印もあるし、止めたらとんでもないことになる」
あ、そうなんだ。
「ありがとうございます」
「構わん。私達も私達の仕事をするだけだ。さっき言った発光体はこちら方面に見えたが、道中、気を付けてくれ。また、何かあったら報告してほしい」
絶対にしない。
「わかりました。あのー、ちなみにですけど、なんでこんなに立派な砦が建っているんです? やっぱり他国を警戒しているとか?」
「あー、いや、そんなことはないぞ。そもそも火の国は女神様が認めた聖国の1つだ」
聖国?
バチカン市国的な?
「へー……じゃあ、戦争を警戒しているわけではないんですね?」
「当然だ。聖国と争うなんてありえないし、そもそも火の国はロクな軍事力を持っていない。逆に言うと、何かがあった時に援軍に向かえるようにここに軍を駐屯させているんだ。ほら、あそこって火山があるだろ?」
噴火したら住民なんかを助けるためか。
自衛隊みたいなもんだな。
「大変ですね」
「いやー、暇だよ。有事の際には出ないといけないが、その有事がないからな。盗賊もいないし、魔物を狩るくらいか?」
もしかして、仕事を作るために検問をしている?
「良いことですね。頑張ってください」
「ああ。ここの砦を抜けて、そのまま街道沿いを進めば聖都に着く」
地図の通りだ。
「はい。あの、火の国側にはこういう検問みたいなのはないんです?」
「ないな。向こう側から任されているんだ」
他国って感じではないな。
「あの、もう1つだけ。水の国も似たような感じです?」
「そうだな。向こうもまったく同じだ」
なるほどねー。
「わかりました。ありがとうございます。では、我々は行きます」
「ああ。気を付けてな」
軽く頭を下げると、まだ審査をしている商人さんを尻目に砦を抜けた。
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