第047話 寝られんのー……
そのままサクヤ様と話をしながら待っていると、9時半頃にメールの着信音が聞こえてくる。
「あ、ジュリアさんからです。そろそろ行きましょうですって」
「のう……前から思ってたけど、おぬしら、メールか? 今時、色んなメッセージアプリがあるじゃろ」
あるね。
何なら職場の人とかと連絡を取るのはそっちだ。
「ジュリアさんがこっちがいいんですって」
「なんじゃ? 使えんのか?」
いくら古風な家の人でもそんなことはない。
樹莉愛だぞ?
「そういうことじゃなくて、あれこれ考えてしまって、返信が遅れることがたまにあるそうです。そうすると、既読スルーになっちゃうんですって」
最初のお見合いの時に当然、連絡先を交換したのだが、そう言われた。
以来、ずっとメールだ。
まあ、俺は何でもいいので気にしない。
「ほーん、トロいのう……まあ、あやつ、料理や剣を握らせたら早く動くのに普段の動きはゆっくりじゃしな」
ジュリアさんはすべての動作がゆっくりなのだ。
「トロいんじゃなくて、上品なんですよ。俺は落ち着くので好きですよ」
いつも笑顔でぽわぽわしてるし。
「育ちか……おぬしは普通じゃの」
普通の育ちだもん。
「そんな話よりも行きましょうよ」
「そうじゃの。面倒じゃからジュリアの家に飛ぶぞ。靴、靴」
「わかりました」
俺達は玄関に行き、靴を履く。
そして、サクヤ様が転移を使うと、ジュリアさんの家の玄関にやってきた。
「あ、そっちですか」
部屋のテーブルの前に座っていたジュリアさんが立ち上がる。
「うん、行こっか」
「はい」
ジュリアさんがこちらにやってきて、靴を履くと、またもやサクヤ様の転移で移動する。
ただし、今度は真っ暗だった。
「何も見えないですねー」
「スマホの灯りを使え」
「そうですね」
ポケットからスマホを取り出し、ライトを点ける。
それと同時にジュリアさんもスマホでライトを点けてくれたので辺りが少しだけ見えた。
当然だが、昼に来た車庫の中であり、目の前にはオフロード車が止まっている。
「すみませんが、この車庫にはライトはありません。車に乗りましょう」
ジュリアさんがそう言って、運転席に乗り込み、ルームライトを点けてくれたので車内が一気に明るくなった。
「ジュリアさん、昼にここまで運転してくれたし、俺が運転するよ」
「そうですか? ありがとうございます」
ジュリアさんが笑顔で頷いたので俺が運転席に行き、ジュリアさんが助手席に乗り込む。
そして、サクヤ様も後部座席に乗り込むと、横になった。
「おー……なんか視界が高くて良いね」
「ええ。ただ、私はこれでちょっと練習してから今の軽になったので最初は怖かったですね」
そうなっちゃうか。
「ちなみにじゃが、あの車は買ったのか?」
後部座席のサクヤ様がジュリアさんに聞く。
「いえ、母が新しいのを買うって言うんで今まで乗ってたやつをもらったんです」
多分、ジュリアさんが免許を取らなかったらお母さんも車を買い替えなかったんだろうな。
「軽で良いのか? 金持ちじゃろ」
確かに外車でもまったく驚かないな。
「小回りが利きますし、軽が運転しやすいですよ」
「見栄ではなく、利便性……これが本物の金持ちじゃな。ハルトなんて、宝くじが当たったら無駄に高級車を買うぞ」
買うね。
「庶民はそんなものですよ。サクヤ様、転移をお願いします」
「あいよ」
サクヤ様が返事をすると、車庫から異世界へと転移した。
辺りは真っ暗だが、ルームミラーで後ろを見ると、複数の灯りが見えており、王都なことがわかる。
「よし、あとは任せたぞ。我は寝るから帰る時に起こせ」
「わかりました」
返事をし、エンジンを点けた。
ジュリアさんが昼に確認したようにガソリンは満タンだ。
「真っ暗ですね」
「街灯も何もないからね。取り締まる人はいないけど、一応、シートベルトは付けておいて」
「はい」
ジュリアさんがシートベルトを装着したのでヘッドライトを点け、出発した。
もちろん、スピードはそこまで出さない。
「私達、ドラゴンがいた異世界を車で移動しているんですよね?」
「そうだね」
「なんかすごいですね……」
ホント、そう。
「まあ、夜で真っ暗だから本当に代わり映えしないんだけどね。前にルイナの町から王都まで毎日仕事終わりにコツコツ進んだけど、暇すぎてサクヤ様としりとりしたよ」
「楽しいじゃないですか」
そうかな?
る攻めがきつくて、大変だった。
「ジュリアさん、強そうだね」
地頭、学力、語彙力……すべてが負けている気がする。
勝つには時間制限を設けることしかない。
「そうですかね?」
「絶対、そう。あ、明日だけど、夜にまた移動するけど、ジュリアさんはどうする?」
「もちろん、行きます」
ジュリアさんが深く頷く。
「平日は?」
「このくらいの時間なら大丈夫です」
「大変じゃない? まあ、俺も仕事があるんだけどさ」
それでも早く火の国に行きたいという気持ちが勝る。
「こうやって旅をするのも楽しいです。利用したことないですけど、寝台列車とか夜行バスってこんな感じじゃないですかね? ちょっとドキドキします」
言いたいこともわかるし、気持ちもわからないでもない。
「夜行バスは利用したことがあるけど、きついよ?」
「そうなんです?」
「寝づらいし、いびきとか聞こえるしね。確かにちょっと興奮したけど」
ただ、最初だけ。
「じゃあ、いいじゃないですか。寝るわけでもないですし、いびきも聞こえません」
サクヤ様は寝てるが、ジュリアさんと2人か……
「確かに楽しいかもね」
「はい。明日の夜に移動するとして、昼はどうするんです?」
王都で仕事をするわけにいかんしな。
「休みにしよっか。ゴールデンウィークの最終日だし」
「最終日……夏休みを思い出しました……」
ジュリアさんの声のトーンが下がった。
「10連休はねー……」
五月病かな?
「それもありましたけど、すごく楽しかったからです。異世界を満喫し、植物園にも行けました。大学の時の友達と遊べましたし、ハルトさんと長い間、お話しできて嬉しかったです」
充実したゴールデンウィークそうで良かった。
「次の火の国には今度の土日に行けそうだし、ウチもサクヤ様の転移でいつでもおいでよ。好きなだけゲームしていいからさ」
「はい。ありがとうございます」
ジュリアさんのゲームを眺めるのも楽しいのだ。
ゲームにも性格が出るものでワンマンな勇者のるんと違い、勇者ジュリアはちゃんと仲間の武器を買ってあげているのがちょっと面白かった。
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