第045話 旅の足
家に戻ると、ノルン様がおり、ゲームをしていた。
ただし、テレビ画面を見ても知らないゲームだった。
「何やってるんですか?」
「ネットで買いました。店に売ってないんですよ」
古いゲーム機だしね。
「ネットなんてやってるんですね」
「ええ。便利です」
どうやってネットしてるんだろう?
それと支払いもどこで受け取ったのかも気になる。
「喉が渇いたのう」
「お茶を淹れますよ」
キッチンの方に向かう。
「あ、私が……」
「いいよ。ジュリアさんは座ってて」
ジュリアさんが腰を上げかけたので制すると、お茶の準備をする。
そして、お茶を淹れると、テーブルに置いた。
「ノルン様もどうぞ」
「ありがとうございます」
俺達はお茶を飲む。
「美味しいですね」
一口飲んだジュリアさんが微笑んだ。
「いえいえ」
あなたの家にある茶葉と同じです。
「さて、火の国じゃな。いつから行く?」
「やはり今夜からですかね?」
やっぱり人がいない夜だろう。
「夜? あのー、結局、どうやって行くんです? 遠いんですよね? 仕事もありますし、どうするんですか?」
まだジュリアさんには説明してなかったな。
「実はあの世界の道はかなり綺麗なんだよ。だから車ごと転移して、夜中にこっそり移動しようかと思っている。実際、ルイナの町から王都までもそうやって移動したんだよ。平日の夜中に少しずつ運転してさ」
「へー……車まで転移できるんですね。すごいです」
ジュリアさんが褒めると、サクヤ様がドヤ顔を決める。
やっぱり可愛い。
「カーティスさんいわく、馬車で10日って言ってたから……えーっと、毎日、少しずつ進めば1週間かな?」
距離的にはルイナの町から王都までの距離の2倍といったところだろう。
前回よりも長い時間を毎日走らせればいいだけだ。
「1週間……あの、車は大丈夫ですか? いくら道が綺麗とはいえ、日本みたいにアスファルト舗装しているわけでもないですし、管理が行き届いていないかもしれませんよ?」
「まあ、それはあるかもね。とはいえ、そこは仕方がない。最悪、パンクとかしても修理かな」
サクヤ様の転移で駐車場までは戻れるから修理業者を呼ぶしかない。
いや、保険であったかな?
「でも、通勤で使う車ですよね……あのー、良かったらそれ用の車で行きませんか?」
ん?
「それ用って?」
ジュリアさんの車も普通の軽だ。
「前に山を持っているって言ったのを覚えてます?」
「魔法の練習をした山でしょ?」
落とし穴を掘ったやつ。
「ええ。実はその山にお爺ちゃんが持っている荒れた道でも走れるオフロード車があるんです。こっそり借りて、それで行きませんか?」
オフロードか。
確かにそれなら大丈夫な気がする。
「勝手に借りていいもんなの?」
「大丈夫です。実は免許を取る際にそれで練習しろって言われたんですよ。鍵もまだ持ってます」
うーん……
「夜中に転移でこっそり借りるだけじゃろ? バレん、バレん」
サクヤ様が気楽に言う。
「そうかもしれませんけどねー……山ってどこ?」
「ここからなら車で30分くらいですかね? 運転するんで一緒に行きましょう」
まあ、サクヤ様に来てもらわないといけないからな。
「サクヤ様、いいです? 酔いません?」
「酔わんわい。我は神じゃぞ」
そういや延々とコーヒーカップに乗ってもキャッキャッしてたな。
「じゃあ、行きましょうか。あ、ノルン様も行きます?」
「結構」
ノルン様、ゲームをしている時は本当に口数が少なくなるな……
「よし、ジュリアは転移で送ってやるから一度家に帰って、着替えろ。それで車で迎えにこい。我らはその間に北門から出て、ちょっと進んでおく」
門から車に乗るわけにはいかないからな。
「わかりました」
ジュリアさんが頷き、お茶タイムを終えると、サクヤ様の転移で帰っていった。
そして、すぐにサクヤ様が戻ってきたので今度は俺達が王都に戻る。
「ちょっと思ったんですけど、火の国までジュリアさんが運転するんですかね?」
「まあ、ジュリアのというか、浅井の車だしのう……」
うーん……
「交互に運転しようと思います」
オフロード車を運転したことないけど。
「それがいいかもな。よし、さっさと北門を抜けるぞ」
「はい」
俺達は歩いていき、北門を抜けた。
入る時も特になかったが、出る時も何もなく、通れたのでそのまま街道を歩いていく。
そして、ある程度の距離を取ると、転移で家に戻った。
「おかえりなさい。ジュリアはすでに下で待っていますよ」
ノルン様がテレビ画面を見たまま教えてくれる。
「ありがとうございます。サクヤ様、着替えましょう」
「そうじゃの」
俺達は急いで着替えると、部屋を出た。
すると、見覚えのある車が止まっていたので向かう。
「サクヤ様が助手席に座られます?」
「なんでじゃい。ジュリアの隣はおぬしが座らんか。我は重役席じゃ」
サクヤ様がそう言うので助手席に乗り込み、サクヤ様が後部座席に乗り込んだ。
「お待たせ。遅れてごめんね」
「いえいえ。そんなに待ってないですよ。では、出発します」
ジュリアさんがそう言うのでシートベルトをすると、車が動き出す。
「山って誰かいるの?」
「いえ、誰もいませんよ。定期的に魔法の練習をしたりしますが、基本的には管理していませんし、監視カメラもありません」
じゃあ、誰かに見られることもないか。
「でも、山を持っているってすごいね」
「どうでしょうかねー? 昔は松茸が採れたらしいですけど、今はまったく採れないらしいです。あ、兄はお爺ちゃんとカブトムシを捕りに行ってましたね。カナブンを持って帰ってましたけど……」
俺はカマキリが好きだったなー。
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