第043話 翌日はあっさり蕎麦
ドラゴンステーキを堪能した翌日、午前中は掃除や洗濯といった家のことをやっていく。
「思うんじゃが、まとめてやってしまえばいいのでは?」
洗濯物を干していると、いつものように布団の上で肘をつきながら横になっているサクヤ様が聞いてくる。
「まとめてとは?」
「ジュリアも今頃、洗濯しとるじゃろ?」
そういうことね。
「そういうのは一緒に住みだしてからですよ」
将来は知らんけどね。
娘ができたらパパと一緒は嫌って言われるかもしれない。
なお、本当にそういうのがあるのかは知らない。
「転移ですぐなのにのう……」
「そもそも洗濯物なんてデリケートじゃないですか。ジュリアさんが嫌でしょうよ」
「ジュリアがやれば良かろう」
「召使いじゃないんですから」
失礼だぞ。
「昔は女がそういう仕事をするものじゃったがのう」
というか、サクヤ様の分も俺がやってますけど?
「俺は一人暮らし歴も長いですし、やります」
「偉い子じゃのう。でも、おぬしの料理よりジュリアの飯の方がええの」
「それは能力の差ですね。でも、俺が作ったやきそばを美味い、美味いって食べてたじゃないですか」
目玉焼きまで乗せてあげた。
「まあ、美味いからの。昔は食べるのも一苦労じゃったんじゃぞ」
お婆ちゃんだなー……
「はいはい……んー?」
サクヤ様と話をしていると、スマホがピンコーンと鳴った。
「メールじゃぞ」
「誰です?」
ちょっと洗濯物を干している最中だから手が離せない。
「ジュリアじゃ。えーっと、お蕎麦をもらったから昼に食べませんかだって」
蕎麦?
「どうします?」
「せっかくじゃし、食うかの。蕎麦なんて久しぶりじゃ」
そういえば、最近、食べてないな。
「ありがたくいただきますって返しておいてください」
「了解じゃ。【ジュリアっち、マジ感謝ー】……っと」
誰だよ、そいつ。
洗濯物を終えると、掃除をし、サクヤ様の転移でジュリアさんの家に向かう。
「お邪魔します」
ジュリアさんはテーブルの前で座って、お茶を飲んでいた。
「いえいえ。いつでも来てください。来てもらえると嬉しいですから」
ホント、良い子だわ。
「いっそジュリアの家にゲーム機を持っていったらどうじゃ? この部屋の方が居心地も良いし、テレビも大きいぞ」
まあね。
「そうすると、ノルン様がついてきますよ。そして、ジュリアさんのお気に入りの漫画がなくなります」
「あー、あやつはそういう奴じゃったな」
まあ、代わりに良いものをくれるんだけどね。
「ノルン様もお蕎麦を食べませんかね? 実は付き合いのあるお蕎麦屋さんから送ってもらったんですけど、ちょっと量が多いんです」
「生?」
「はい」
賞味期限もそんなにないな。
「サクヤ様、ノルン様を呼べます?」
「やってみよう……って、もう来たのう」
サクヤ様がベッドの方を見たので俺達も振り向くと、ベッドに横になりながら漫画を読むノルン様がおられた。
「ハルトさんの布団より良い布団ですね」
開口一番がそれ?
「せんべい布団ですし……」
「寝具は良いものにしないといけませんよ? あ、ジュリアさん、私は冷たいお蕎麦がいいです」
この人、蕎麦も初めてじゃないな……
「あ、はい……ハルトさんとサクヤヒメ様はどうされます?」
「冷たいの」
「我も」
「じゃあ、用意しますね」
ジュリアさんは立ち上がると、キッチンの方に向かう。
「ノルン様、ジュリアさんの家の漫画は取ったらダメですよ」
「人を万引き犯みたいに言わないでください」
いやー……何とも言えません。
「ノルン、我らは火の国に行こうと思っているのじゃが、何か知っておるか?」
「火の国? ウチの巫女がいますね」
巫女?
赤い袴の人?
「何じゃい、それ?」
「まあ、ウチの宗教のお偉いさんって感じです。各地にいるんですが、その巫女達が力を合わせればハルトさんの中で美しいと評判の女神ノルン様が降臨すると言われていますね」
実際は魚介の煮込みパスタで青船亭に降臨したけどね。
「そうなのか?」
「何とも言えませんね。別にそんなことをしなくても降臨しますし、そこまでするだけの用があるなら降臨します」
あながち間違ってはいないわけだ。
「宗教ってちょっと怖いんですけど、大丈夫です?」
「あなたの家もほぼ宗教でしょ。少女を神と崇めるコンプライアンスかかってこい教」
あながち否定できないんだよな。
「ウチは置いておいて、危ないことにはなりませんよね?」
「過激な宗教ではありませんからね。生活や文化に密着していますし、多分、ほとんどの人は宗教という認識すらないと思いますよ。一神教ですし」
へー……
「じゃあ、安心安全ですね」
「火の国は観光地ですからね。何だったら巫女に観光のガイドを命じておきましょう。どうせ暇してるでしょうからちょうどいいです」
「暇なんです?」
「ただのお飾りですから」
あー、勝手に降臨するわけだし、別に巫女さんの力なわけではないのか。
「できましたよー」
ジュリアさんが蕎麦を持ってきてくれた。
ノルン様も起き上がり、テーブルの前に座る。
「前にちょっと高いお蕎麦屋さんに行ったんですけど、最初は何もつけずに食べろって言われたんですよ」
そういう店あるね。
というか、ノルン様のお金はどこから出てるの?
「多分、この蕎麦もそれ系統の店のやつですよ」
浅井と付き合いのある店だもん。
「汁にじゃぶじゃぶつけた方が美味しかったです」
「まあ……」
「お、お蕎麦の香りを楽しんでもらいたいのだと思います」
そう言うジュリアさんも一口目から汁につけている。
「まあ、別にいいですけどね。ところで、あなた方は午後からあちらの世界に行くんですか?」
「そのつもりです。火の国のことを魔法ギルドやカーティスさんに聞きに行くんです」
「なるほど、なるほど……頑張ってください」
何だろ?
ちょっと気になりつつも美味しい蕎麦をすすっていった。
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