第037話 厨二病
ワイバーンは肉目当てで俺が倒すことになると、山に到着した。
山と言っても木が生えているわけでもないし、そこまで高い山ではない。
数十メートル程度の岩山だ。
「ハルト殿、ワイバーンはこの山の頂上にいるらしいですので参りましょう」
岩山の麓で止まり、休憩していると、ロバートさんが声をかけてきた。
「こんな大人数で行くんですか?」
「いえ、兵士達はここで待機です。万が一のこともありますし、ワイバーンが王都に向かった際の迎撃要員ですね。ワイバーンのもとに行くのは私とカーティス殿になります。奥方様はどうされます?」
ロバートさんがジュリアさんとサクヤ様を見る。
「行きます」
「うむ。ワイバーンとやらを見てみたい」
2人はやはり前のめりだ。
「そうですか。勇ましい奥様方ですなー」
あれ? サクヤ様も奥さんになってない?
そういうのから一番遠い存在なんだけど……
でも、説明が面倒だから指摘しなくてもいいか。
「ロバート、そろそろ行こうではないか」
「そうですな」
カーティスさんの一言で休憩は終わり、山を登っていく。
登山をしたことあるが、非常に辛かった覚えがある。
だが、この山は石材の採掘場ということあって、道はちゃんと整備されているし、非常に歩きやすい。
何よりもそこまでの高さがないのであっという間に頂上までやってきた。
「おるの……」
「ワイバーンって思ったより強そうですね……」
「すごい魔力ですね……」
俺達は岩陰に隠れ、こっそりと覗いている。
視線の先には羽の生えた赤い竜がおり、スヤスヤと寝ていた。
「カーティス殿、確か魔物の研究をされておられましたな? あれはワイバーンですか? 私には普通のドラゴンに見えるんですが……」
「うむ、飛竜じゃな。赤いところを見るにファイアードラゴンだ」
え?
「あれ、ドラゴンです?」
話が違うじゃん。
まーた、情報ミスか?
「ファイアードラゴンで間違いないな。大きさを見るにまだ若い個体だ。ドラゴンというのは鳥と生態が似ていてな。あれは巣立ったばかりだろう。大きさを見て、ワイバーンと勘違いしたな。まあ、無理もない」
へー。
鳥なんだ。
「ハルト殿、いかがします? 飛竜となると、中級クラスのドラゴンです。ワイバーンとは格が違いますよ」
ロバートさんが聞いてくる。
「皆でやった方が良いんでしょうね。ちなみに、飛竜は美味しいんです?」
「ワイバーンと比べ物にならないくらいと聞いたことがあります」
「そうだな。ワイバーンより美味いぞ」
カーティスさん、食べたことあるんだ……
「ハルト、行け。ドラゴンなんかおぬしの敵ではなかろう。でも、イグニッションはやめよ」
爆発させたら肉が残らないからな。
「うーん、ブレインダムドで脳を破壊しますか?」
「肉の鮮度が落ちんかったら何でもいいぞ」
ただ倒すだけではなく、その辺を考慮すると……
「――殺気です!」
ジュリアさんが叫ぶと、向こうにいるファイアードラゴンがむくっと起き、口を開ける。
そして、口の中から火の玉が飛んできた。
「おー! すごい魔力じゃのう!」
「そうです?」
手を掲げ、結界を作る。
すると、火の玉が結界に当たり、一気に燃え上がったが、ダメージはもちろん、熱さも一切感じない。
すぐに火は治まったのだが、ファイアードラゴンは起き上がっており、殺気がこもった目でこちらを見ていた。
「考えている時間はなさそうなので行ってきます」
「ハルトさん、お気を付けて」
「がんばえー」
岩山から出ると、まっすぐファイアードラゴンのもとへ歩いていく。
すると、ファイアードラゴンがまたもや口を開け、火の玉を飛ばしてきたので手を掲げた。
「ファイヤー」
こちらも火魔法を出し、火の玉を飛ばす。
俺が出した火の玉とファイアードラゴンの火の玉がぶつかったのだが、俺の火の玉が向こうの火の玉を飲み込み、スピードを落とさずに向かっていった。
このまま当たるかなと思ったのだが、ファイアードラゴンは羽を動かし、上空に逃れた。
「飛ぶのはなー……ファイヤー!」
もう一度、火魔法を使い、上空にいるファイアードラゴンを狙ったのだが、やっぱり躱されてしまった。
すると、向こうも火の玉を飛ばしてきたので結界で防ぐ。
うーん、向こうの火はたいしたことないんだが、こっちの魔法も躱されるな。
よし!
「ファイヤー…………もういっちょ!」
ファイアードラゴンを狙い、火魔法を放つと、避けるだろう位置を狙い、時間差でもう一つの火魔法を放った。
すると、一発目の火魔法を避けたファイアードラゴンだったが、狙い通りにもう一発の火魔法が当たる。
とはいえ、緊急旋回で避けられたので羽にちょっと当たっただけである。
だが、ファイアードラゴンの殺気は明らかに上がり、俺を睨んでいた。
「――グゥオー!」
ファイアードラゴンは叫ぶと、今度は火の玉ではなく、火炎放射器のような火のブレスを吐いてくる。
俺はそれを結界ではなく、走って躱した。
すると、ファイアードラゴンが急速に降下し、爪を立ててくる。
「簡単に挑発に乗ってくれるな…………コキュートス!」
接近してきたファイアードラゴンに向かって氷魔法を使うと、周囲がキラキラと輝きだし、徐々に動きが遅くなっていく。
そして、完全に停止した時にはファイアードラゴンが氷の彫刻となっていた。
「とこしえの氷で眠りにつくがいい…………いやー、ないわー」
やっぱり中学生の時に作った魔法は良くない。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!