第195話 ワインを買うか……
「ものすごい恐れ多いんですが……」
俺達にワインを飲みながら絶景を見ろと?
俺の頭の中ではバスローブだぞ。
「いえいえ、異界の神を招くには不足なくらいです。それにハルトさんは神の眷属にて、歴史ある家の当主様とお聞きしました」
ノルン様か……
「他には何か言ってました?」
「奥様しか愛せない人」
いや、それが当たり前なんだから可哀想な人みたいに言うなよ。
「俺達の世界は一夫一妻が普通なんですよ」
「あ、そうなんだ。まあ、そういうこともあるか。とにかく、そういうわけだから使ってちょうだい。掃除なんかはウチの者がするから」
ここも掃除付きか。
恐れ多いが、こんな広くて豪華な部屋を掃除しろって言われても仕事がある俺達では厳しいのでありがたい。
「じゃあ、まあ……」
「はい……せっかくのご厚意ですし」
俺とジュリアさんは顔を見合わせながら頷いた。
「助かるわー。例によって持て余していたのよね」
観光地なんだし、いっそホテルとして活用すればいいのに。
「おぬしは住まんのか? 先代の巫女が住んでいたならば、次代のおぬしが引き継げば良かろう」
サクヤ様がノーラさんに聞く。
「私、ドが付くほどの庶民なんですよ。それに巫女の仕事の合間に遺跡の調査や歴史の研究をしてますので本が揃っている教会の方が勝手が良いんです」
サラさんが資料室に住んでたけど、この人もっぽいな。
「ふーん、おぬし、大丈夫か? 働きすぎでは?」
俺もそう思う。
仕事が2つあるようなものだ。
「大丈夫ですよ。巫女の仕事も名誉なことですし、研究は楽しいですから」
ノーラさんがニッコリと笑う。
「真っ赤な料理や魚でも食うか?」
サクヤ様は火の国や水の国に行くかと誘っているのだ。
「それは良いですね。ああいう料理はこちらにはないのですごく新鮮でしたし、また食べたいと思っていました。まあ、逆にこちらは肉料理が有名ですのでサラやディーネを呼んであげてください」
そうするか。
「わかった」
「ありがとうございます。では、私はこの辺りで失礼します。この部屋は好きにしていいですし、階段を昇るのが大変なら転移を使ってください。受付の者には詮索しないように伝えてありますので」
それはありがたい。
正直、20階まで昇り降りしたくない。
「そうします」
「では、これで。暑いと思いますが、楽しんでくださいませ」
ノーラさんはそう言うと、部屋から出ていった。
「やっぱりもらったね」
「そうですね。私達が住んでいる部屋よりも豪華な別荘が3つになりました」
ジュリアさんと顔を見合わせる。
「ここは豪華すぎるがの」
「何、あの電灯? 私よりもでかいわよ」
タマヒメ様が天井のシャンデリアを見上げた。
確かにタマヒメ様やサクヤ様より大きい。
「落ちたら死ぬな」
「あそこの下で寝るのはやめるわ」
「というか、どこで寝る? 広すぎんか?」
「どっかの隅でいいんじゃない? 絨毯が気持ちよさそう」
この人達、本当に床で寝るのが好きだな。
というか、タマヒメ様が絨毯で寝てたら猫かと思ってしまう。
タマちゃんだし。
「ハルトさん、他の部屋も見てみませんか?」
ジュリアさんが誘ってくる。
「そうだね。ちょっと気になるし」
俺達は立ち上がると、右の方にある部屋に向かう。
扉を開けて中を覗いてみると、そこは寝室のようで部屋の真ん中にベッドが置いてあった。
しかし、そのベッドも天蓋付きのキングサイズはあるようなベッドであり、装飾もすごい。
「置いていったのかな?」
「まあ、運ぶのも大変ですしね。化粧台も棚も何もかも置いていったようですね」
確かに部屋にはそういった家具が置いてある。
というか、この部屋、広くない?
20メートル四方以上はあるぞ。
もちろん、窓はさっきの居間(?)と同じく、一面のガラスであり、眺めが良い。
「お姫様の部屋だね」
「実際、それに近いんでしょうね」
「ジュリアさんもお姫様になれるよ」
名前的にもそれっぽいし。
「いや、どちらかというと王妃様では?」
確かに結婚しているからそっちか。
その場合、俺は王様だ。
いやー、王様はないわ。
俺達はその後も部屋を見て回る。
寝室の他にも客室にドレッサールームらしき部屋もあった。
さすがに服は置いていなかったが、3方面から見ることができる姿見はすごいと思った。
他にも倉庫なんかもあったし、お風呂もかなり広かった。
俺達は一通り見て回ると、サクヤ様とタマヒメ様が待つソファーに戻る。
そして、すっかり冷めたお茶を一口飲んだ。
「どうじゃった?」
サクヤ様が聞いてくる。
「浮世離れもわかります。まさしく上級ですよ」
「ですね。これまでは別荘とか避暑地って感じがしましたが、ここは人生の勝者の部屋って感じですね」
そうそう。
人を見下ろす感じ。
「先代の巫女とやらはどんな奴じゃったんじゃろうな……」
「絶対に縦ロールよ。扇子を持ってるわ」
巫女様なんだけどな……
「ジュリアさんはともかく、俺はノーラさんと同じくド庶民なんで慣れるまでに時間がかかりそうです」
「いや、ウチも平屋の家なんで私もです」
上級さんだけど、和風の家だもんな。
「まあ、ええじゃろ。下々の者達を見下ろしながら酒を飲もうぞ」
「知ってる! 人がゴミなんでしょ!」
それはちょっと違うような……
あと、あなた方はリアルで天上の方です。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




