第194話 ここ!
神殿を離れると、外を眺めながら進んでいく。
「ハルトさん、これがこの聖都の地図になるわ」
ノーラさんが地図を渡してきた。
「えーっと……」
今、どこ?
地図を見る限り、この町は四角い外壁に覆われていることがわかるが、現在地がわからない。
「ここまで来た道を辿ると、まず北にある駅から出発して西にある歓楽街を見たわ。そして、中央の神殿に行き、現在は東門を目指している」
ノーラさんが指でなぞりながら教えてくれる。
「なるほど……」
「転移があるから大丈夫だと思うけど、迷ったらとにかく、中央の神殿を目指せばいいわ」
確かにわかりやすい。
「わかりました」
「さて、案内はここで最後になるわね」
ノーラさんがそう言うと、馬車がかなり高い建物の前に止まった。
建物はぱっと見はビルやホテルに見える。
高さも数十メートルはあるように見えるし、周りの建物と比べて、あまりにも高いため、実は結構前から見えていた。
「ここは?」
「教会が運営している施設ね」
このビルが?
「高いですね」
他の建物とは明らかに違う。
「ええ……何て言えばいいのかしら? 実は本来、ここが教会になる予定だったのよ」
「教会?」
そうは見えませんが?
「教会ならさっき神殿があったじゃろ」
サクヤ様がツッコむ。
「えーっと、この建物が建てられたのは先代の時になるんですが、神殿は古いから新しくするってことになったんです。あの神殿は数百年前に建てられたものですからね」
確か、火の神殿も数百年前に建てられたとサラさんから聞いている。
同じ構造だし、多分、同時期だろう。
「確かに古いと言えば、古いですが、むしろそれが良いのでは? 歴史ある建物じゃないですか」
「その通りよ。要は町の人達や熱心な信者から反対にあったの」
そりゃそうだ。
ましてや、新しい教会がこのビルじゃねー……
「なんか贅沢の匂いがしますよ」
「そうね……実際、贅沢なの……でも、作っちゃったから教会が管理する建物ということで会議をしたりしてる」
会議って……
神殿でできるでしょ。
「えーっと、この建物がどうかしたんですか?」
「続きは中に入って説明しましょう」
ノーラさんがそう言って馬車を降りたので俺達も降りる。
そして、日差しがきつかったのですぐに建物の中に入った。
建物の中は大理石のような床であり、なんかすごく豪華だ。
さらには受付には女性が座っており、本当にビルかホテルに見える。
「教会っぽさはないですね」
「先代の巫女は魔導帝国出身の方でね……」
なんかわかった。
先代の巫女様は祖国の生活に慣れてしまった人だったんだ。
だからこっちでの生活も魔導帝国に近づけたかったんだ。
「この建物も魔導帝国ですか?」
「ええ。魔導帝国に詳しくないからよくわからないけど、先代の巫女は議員のお偉いさんの家の娘だったのよ」
議員が権力を持ってそうな国だったからなー。
「その方は?」
「引退と同時にダルト王国の方とご結婚されたわ。ダルト王っていうんだけど……」
わーお。
「王妃様です?」
「うーん、正室ではないけど、そんな感じ。優しくて良い方だったんだけどね。浮世離れっていう言葉がぴったり来る」
なるほどね。
「その代の遺産を持て余しているわけですか」
「まあ、そんな感じ。ついてきて」
ノーラさんがそう言って、左の方の階段に向かって歩いていったのでついていく。
そして、階段を昇り始めた。
「ここ、何階建てなんですか?」
ずっと昇ってますけど?
「20階」
エレベーターないのかな?
魔導帝国なら作れるだろ。
「20階もあるのに利用は会議ですか?」
「うん。他にも倉庫や書庫に使ったりはしてるけど、ほぼ会議だけ。まあ、わかっていると思うけど、このめちゃくちゃ暑い町でわざわざ神殿を出て、ここまでやってきて会議をするのは非効率ね。でも、使えるものはどうにかして使わないと」
そっすね。
これこそ無駄な……いや、やめておこう。
「潰してしまえよ」
「そうね。もしくは、民間に貸し出しなさい」
神様方がはっきりと言う。
「まあ……でも、先代の巫女が作ったものですから。浮世離れした方でしたが、本当に優しくて熱心な巫女様だったんです。しかも、人徳もあり、皆に愛されてました。あと、とても美しい方でした」
完璧人じゃん。
「ほーん……」
「男共が好きそうね」
でしょうね。
「慕われていたんですね」
マイルドに言うと、こう。
「そうね……だからあまり先代の巫女を否定しないようにしているの。私にとっても師匠みたいなものだしね」
「だったら仕方がないですね」
俺達はその後も話をしながら階段を昇っていくと、ようやく最上階に到着した。
階段の正面には豪華な扉がある。
「ここは?」
「先代の巫女様が住んでいた部屋」
ノーラさんがそう言って、扉を開け、中に入ったので俺達も続く。
中は広く、俺達の部屋が何個入るんだっていうくらいの広さであり、奥にはガラス張りの窓があった。
床には見事な刺繍が施された絨毯が敷かれているし、高い天井にはシャンデリアまである。
「浮世離れですか……」
「ね? あの方はこれが普通らしいの。奥にあるソファーにかけてちょうだい。お茶を淹れるわ。あ、靴は脱いでね。この絨毯、シャレにならないくらいに高いから」
「はい……」
俺達は靴を脱ぐと窓際にあるソファーに向かう。
「すごっ」
「綺麗ですね」
この建物は町の外壁よりも高いようで窓から砂漠が見えている。
さらには大きな川も見えており、火の国の別荘から見える風景とはまた違う絶景だった。
「先代は本当に上級じゃったんじゃのう」
「王妃様になるくらいだしね」
俺達は窓の外を眺めながらソファーに腰かける。
そして、すごいなーと思いながら窓の外を眺めていると、ノーラさんもこちらにやってきた。
「お茶です」
ノーラさんがテーブルに人数分のお茶を置く。
「ありがとうございます」
俺達はお茶を一口飲んだ。
「眺めはどう?」
「すごいです。砂漠が綺麗ですね」
「ええ。とても綺麗なのよ。先代の巫女はここで砂漠を眺めながらワインを飲むのが好きだったわ」
大富豪すぎる……
「すごいですね……ディーネさんも貴族らしいですけど、全然、違う気がします」
「あの子は逆に俗っぽいからね……さて、この部屋だけど、正直、私達は持て余している」
だろうね。
「えーっと……」
もしかして……
「察しがついているわね。なんでもサラもディーネも別荘を渡したそうね?」
「まあ……」
「では、我々も提供しなくてはいけません。それも最上級を」
まあ、最上級だね。
「ここ?」
「ここ」
岩見さんちも大富豪になっちゃった……
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