第193話 巫女=ガイドのお姉さん
馬車が動き出したので窓から町の風景を見ていく。
石造りの建物しかなく、木材の建物は一つもない。
砂漠だから仕方がないと思いつつも明らかに火の国や水の国とは違った町の様子なのでちょっとワクワクする。
「異国って感じだね」
「ええ。来た甲斐があります」
ホントにねー。
「生活文化がまるで異なるからね。ただ、本当に変わるのは夜よ」
ノーラさんが笑う。
「歓楽街が有名なんですよね?」
「そうね。私はあまり行かないから詳しくはないけど、昼間は外に出ない人達も夜に歓楽街に集まるわ。地元の人、冒険者や探検家、それにあなた達みたいな観光客ね」
冒険者ギルドで話を聞かないとな。
神様方はもちろんだが、自分の嫁と一緒に行ってはいけない区画もある。
「冒険者ギルドってどこにありますか?」
そこで情報を仕入れないと。
「冒険者ギルド? あ、逆だったわ。さっきの駅のすぐそばに魔法ギルドなんかと一緒にあるわよ。先に行く?」
「いえ、場所がわかれば大丈夫です」
ちょっと涼しくなるらしい夕方にでも行こう。
「そう? じゃあ、このまま進むわ。今いるところはこの聖都の玄関。本当は東西南北に門があるんだけど、東は川で南と西は砂漠ね。普通は列車で来るからこの北門がある区画が玄関なわけ」
列車が通ってきたのが北門なわけだ。
「各区画で住居区とかに分かれているんですか? 火の国はそんな感じでした」
「ここはそんなことないわ。地元の人達の住居が町全体にバランスよく散らばっている。ただ、歓楽街はまとまっているし、各門の近くに冒険や探検用の店があるくらいね。あ、それと町の中央には神殿がある。私が住んでいるところね」
神殿か……
「歴史の資料とかあるんですか?」
「あるわよ。何? 興味があるの?」
「ええ。そういうのも観光の醍醐味だと思いますし、サラさんやディーネさんにも聞きました」
「ほー……なんて勤勉な方達なんでしょう。よしよし、私が説明してあげます。実を言うと、私は巫女をやってるけど、本業は遺跡を調査したりする歴史研究家なのよ」
へー……そうなんだ。
「ハルト、長くなりそうじゃし、後にせい」
「そうしなさい。後日、神殿にでも行ってゆっくり話を聞きなさい」
1000年以上も生きて、歴史に興味がないであろう生きる歴史書の神様方が止めてきた。
「あー、それもそうですね。ノーラさん、また訪ねますのでその際にお話を聞かせてもらえたらと思います」
「そうね。いつでも歓迎するわ。あ、着いたわね。ここが歓楽街の入口」
馬車が止まったので外を見ると、アーケードが見え、その奥には先が見えないくらいに色んなお店が見えている。
ただ、お客さんは誰もいない。
「営業は夜からってことですか?」
いくらなんでも昼からこの炎天下で酒は飲まんわな。
「そうよ。昼間から飲みたいなら普通の居酒屋がそこら辺にあるからそこね」
昼間からは飲まないな。
「わかりました。また夜にでも来てみます」
「案内をしてあげたいんだけど、私はお酒が飲めなくてね……あまり来ないのよ」
だから詳しくないんだな。
「その辺は冒険者ギルドで聞けって言われています」
「それが良いと思うわ。じゃあ、次に行くわね」
ノーラさんがそう言うと、馬車が動き出した。
その後も町並みを眺めながら進んでいく。
「ノーラさん、遺跡って砂漠の中にあるんですか?」
ジュリアさんがノーラさんに聞く。
「そうね。砂漠の砂に埋まっているのがほとんどよ。それを発掘する仕事もあるわけ。たまに金銀財宝のお宝が眠っていたりするわけよ」
ロマンだね。
でも、いいのかな?
「それって大丈夫なんですか?」
ね? 盗掘だよね。
「うーん、その辺は何とも……長くなるから歴史を話す時に説明するわ」
色々とあるんだろうな。
ノーラさんに話を聞きながら進んでいくと、馬車が大きな神殿がある広場の前で止まった。
広場では屋台や露天商が多くいる。
ただ、露天商もテントみたいなもので日光を防いでいるので露天商というのかはわからない。
「土の国の神殿ですか?」
絶対にそう。
だって、サラさんやディーネさんがいる神殿とまったく同じだし。
「ええ。ここは土の神殿。何かあったら訪ねてちょうだい。できることはするから」
「すみません。助かります」
「ありがとうございます」
俺とジュリアさんが礼を言う。
「全然いいわよ。サラもディーネも歓迎してくれたでしょ? 異界の神様が来るなんてすごいじゃないの。というかね、水の国のサービスは良かったのに土の国は悪かったなんて思われたら最悪」
やっぱりちょっと対抗意識があるな。
「……観光地同士じゃからかな?」
「……ディーネに負けるのが嫌なんでしょ。水の国を名指しだし」
神様方がひそひそしている。
「まあ、そこはお好きなように捉えてください」
ノーラさんが苦笑いを浮かべた。
「あのー、巫女同士で仲が悪いとかあります?」
ちょっと心配。
「いえ、そんなことはないわよ。サラは良い子だし、ディーネだって素直な子だからね。風の国のシルフィだってうるさいけど、悪い子じゃないわ」
風の国のシルフィ?
「シルフィって巫女様でしょうか?」
「そうね。巫女になったばかりの子。風の国に行くことがあったら気にかけてちょうだい」
へー……
風の国の巫女様はサラさんの4つ下だったはずだから18歳くらいだ。
確かに若い。
「わかりました。最初に巫女様がいる聖都を巡ってみようと思っているので次はそこに行くと思います」
「巡礼の旅は良いことよ」
「すみません。思いっきり異教徒です」
ノルン様のことは好きだけど、夫婦共々、コンプライアンスかかってこい教なんだなー。
「そうだったわね……まあいいわ。次に行きましょう」
ノーラさんがそう言うと、再び、馬車が動き出した。
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