第189話 空気を読む神様
王都を巡っていくと、4時過ぎになったので人がいない裏道に入り、家に戻った。
そして、寝台列車に泊まる準備をする。
「着替えはいいよね?」
「そうですね。お風呂はこっちで入ればいいと思いますし、その際に着替えればいいですからいらないと思います」
だよね。
「となると、必要なのは本とかかな?」
「ええ。漫画やラノベ、あとは図書館で借りた魔法の本とかですね」
「その辺を持って行こうか。お酒なんかはストックがあるから問題ない……サクヤ様、タマヒメ様、何か必要ですか?」
神様2人に聞く。
「トランプ」
「UN〇」
カードゲームね。
「わかりました。ノルン様も行かれますか?」
絶対に来ないだろうけど、一応、誘ってみる。
「私は日本中の物件を買うのに忙しいです」
のるん社長は大変だな。
「そうですか。では、我々は列車で土の国に向かいますので留守番をお願いします」
「任せなさい」
異世界の神様に留守番を頼み、その異世界に行くっていうのも変な話なんだがな。
「では、行くかの」
俺達は転移でダルト王国の王都に戻ると、駅に向かった。
駅内はやはり他のお客さんの姿が見えないが、列車の前に駅員らしき男性が立っていたので近づく。
「いらっしゃいませ。御乗りのお客様ですか?」
「はい。これがチケットです」
男性にチケットを渡す。
「確かに……3号車の301室になりますのでどうぞお乗りください」
「ありがとうございます」
俺達は3号車に乗り込み、すぐ手前にあった301号室に入る。
部屋はそこまで広くなかったが、奥には窓があり、そこにベッドが2つ並んでいた。
そして、手前には対面式のソファーとローテーブルがある。
「良い感じだね」
「そうですね」
ジュリアさんとソファーに並んで腰かけ、頷き合った。
「まあまあじゃの」
「良い雰囲気じゃないの」
対面で並んで座っている神様方も満足らしい。
「出発はまだかな?」
ジュリアさんに聞く。
「今が5時過ぎですのでもうちょっとじゃないでしょうか?」
暗くなる前に出発って言ってたからあと1、2時間くらいはあるかもしれない。
「じゃあ、それまで待機だね。トランプでもする?」
「そうしますか」
俺達はカードゲームをしながら時間を潰していく。
そのまましばらく遊んでいき、1時間くらいが立つと、カンカンカンという鐘の音が聞こえてきた。
「火事か?」
サクヤ様が顔を上げる。
「出発でしょ」
タマヒメ様がツッコんだ。
「わかりにくいのう……」
まあ、ちょっとわかりにくいかなと思っていると、列車が揺れ、少しずつ動き出した。
「ほらー、出発」
「まあの。ちょっと見てみるか」
俺達は立ち上がると、窓の方に行き、ベッドに腰かけながら外を覗く。
すると、徐々にスピードを上げた列車はあっという間に王都を出て、平原を進み始めた。
「結構速いね」
「そうですね。私達の車よりも速そうです」
何キロくらい出てるんだろ?
少なくとも、50キロよりかは速そうだ。
「事故はないって言ってたけど、動物とか魔物とかを轢かないのかしら? 柵も何もないじゃないの」
確かにない。
でも、そのおかげで眺めは非常に良い。
「特殊な魔法じゃろ。街道もそういう魔物避け的な魔法がかかっておるって言っておったし」
「ふーん、じゃあ、安心ね。ふっ、ハルト、残念ながらデスワームの遭遇はなさそうよ」
タマヒメ様が鼻で笑った。
「まだわからないですよ。伝説の魔物ですから神獣かもしれません。魔物除けの魔法が効かない可能性があります」
「デスワームの造形で神獣だったらノルンのセンスを疑うわ」
まあ、名前的にも魔物だろうな。
神獣と呼ばれていたとしても多分、ノルン様もリヴァイアサンのように黙認しないと思うし。
俺達はその後も窓からの眺めを見続ける。
すると、徐々に草木が減ってきて、砂が多くなってきた。
「砂漠ですかね?」
ジュリアさんが聞いてくる。
「そうだろうね。外は暑いのかな?」
「やっぱりそうじゃないですかね? ここは涼しいですけど」
部屋の隅には見覚えのある青い水晶玉が置いてある。
間違いなく、冷却石だろう。
「よし、腹が減ったし、夕食を調達してくる。おぬしらは待っておれ。行くぞ、タマちゃん」
「はいはい」
サクヤ様とタマヒメ様はベッドから降りると、転移を使い、消えてしまった。
「大丈夫かな?」
見た目子供2人だが……
「何度も行っているお店ですし、大丈夫だと思いますよ」
「まあねー……」
俺とジュリアさんはその後も外を眺め続ける。
すると、もうほとんどが砂に変わり、砂丘も見え始めた。
穏やかな曲線を描き、波のように連なっている砂丘は夕日に染まり、黄金にも見える。
「綺麗ですね……」
「うん。すごいね……」
俺達はこういうのが見たくて旅をしている。
よくわからないが、エジプトとかに行けば同じような光景が見れるのかもしれないが、俺達はそこに行くことができないのだ。
でも、異世界なら見に来れる。
「写真を撮りましょうよ」
「そうだね」
俺達は自撮りで窓の外が写るように写真を撮っていく。
「私達のスマホのデータがすごいことになってますね」
「まあね。特にドラゴンがヤバいよ。あと寝てるリヴァイアサン」
たまに見返したりするが、ファンタジー感が強すぎる。
「ピラミッド撮りたいです」
「あるかな?」
「遺跡があるって言ってましたし、似たようなものがあるんじゃないですかね?」
確かにあるかもな。
「到着が楽しみだね」
「はい。でも、この光景もすごいです」
「うん」
俺達はその後も窓から夕日に染まる光景を見続けた。
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