第186話 到着ー
フロック王国側の検問所を抜け、歩いていくと、今度はダルト王国側の検問所までやってきた。
「こんにちはー」
槍を持っている兵士に挨拶をする。
「うむ、こんにちは。冒険者か? 子連れとは珍しいな。いや、子供か?」
兵士さんがサクヤ様とタマヒメ様を見て、首を傾げた。
「この方達は気になさらずに」
我らの神ぞ?
控えおろう。
「そうか? 本国には何しに?」
「土の国に行きたいんですよ」
「なるほど。観光か」
冒険なんだけどなー。
「ええ。巫女様がおられる地を回っているんですよ。火の国、水の国と行きましたので次は土の国と思いましてね」
「巡礼か。それは良いことだな。女神様への感謝は忘れないことだ」
それは忘れたことない。
4時まで起こされても忘れない。
「女神様には感謝しかありません」
「うむ。敬虔な信者のようだ」
そうそう。
「あ、これが通行証です」
「どれ……」
兵士さんは通行証を受け取り、じーっと見ていく。
「確かにフロック王国の通行証のようだな。ならば、我らが言うことは何もあるまい。通ってくれ」
通行証って本当にすごいな。
「ありがとうございます」
「土の国は暑いから気を付けてな」
本当に皆、そう言うなーと思いながら検問を抜け、街道を歩いていく。
「おぬし、いつからノルンの信者になったんじゃ?」
「正直に言ったら異教徒じゃないですか。穏便に行くための方便ですよ。それに感謝しているのは事実です」
「いや、たまに本気で鞍替えするのか不安になるわ」
鞍替えってどうやるんだろう?
「俺は当主ですよ? ノルン様もタマヒメ様も素晴らしい神様だと思っておりますが、親であり、私の心にあるのは常にサクヤ様です」
「そうか、そうか」
サクヤ様がご機嫌に頷いた。
「ノルンの方が上だし、そっちの方が良いと思うけどね」
「おい……」
サクヤ様がタマヒメ様を睨む。
「そもそも神様に上とか下とかあるんですか?」
「ないのう」
「ないけど、一地方の豪族の神と異世界すべてを支配する神なんだから序列は向こうの方が上でしょ。しかも、あんたのところはもはや庶民じゃん」
「おぬしの大事な娘もじゃがな」
なんかすみません。
「前から思ってましたけど、神様って何ができるんですか?」
「子守り」
「ケンカの仲裁」
うーん……大事なことではあるんだけど……
「そういうのじゃなくて、転移とかできるじゃないですか。そんな感じのやつです」
「そう言われてものう……そりゃ魔法だって使おうと思えば使えるんじゃろうが、我らはそういう神じゃないし」
「見守る系の神様よね」
まあ、そこにいてくれるだけで良いのは確かなんだけど。
俺達はその後も街道を歩いていき、1キロくらい進むと、後ろを振り向く。
「こんなものですかね?」
「いいんじゃないか?」
「帰りましょうよ。疲れちゃった」
俺達は転移で家に帰ると、一息つく。
そして、買い物に行くと、夕食の準備を始めた。
「今日はおぬしか」
リビングにいるサクヤ様が見てくる。
「ジュリアさんは仕事なんですから俺が用意しますよ」
「偉い子じゃの。まーた野菜炒めか?」
サクヤ様、完全に俺の料理よりジュリアさんの料理を好んでいるな。
まあ、レベルが段違いなのは認めるけど。
「唐揚げです」
「大丈夫か……?」
「唐揚げのもとを買ってきましたからこれに書いてある通りに作ればいいんですよ」
作ったことないけどね。
「ちゃんと中まで火は通せよ」
「わかってますよ。別に料理は苦手じゃないですって」
「まあの。おぬしの料理だって美味い」
『でも、ジュリアの方がええの』って顔に書いてあるな。
まったくもって同意だけど。
「タマヒメ様も食べられますよね?」
「そうするー」
タマヒメ様は唐揚げが好きなのだ。
「1個だけとんでもなく辛いのを入れるのはどうじゃ?」
「タマヒメ様が可哀想でしょ」
「なんで私が引く前提なのよ」
だって、引きそうなんだもん。
「じゃあ、1個だけチーズを入れておきますよ。それが辛いやつの代わりです」
「ええの」
ノルン様のゲーム画面を眺めながら夕食を用意していくと、6時を回り、ノルン様もどこかに帰っていった。
そろそろ帰ってくるかなと思っていると、下の方で扉が開く音が聞こえ、階段を昇ってくる足音が聞こえてくる。
「ただいま帰りました」
「おかえりー。お疲れだったね」
「今日も平和な仕事でしたよ」
ジュリアさんが笑顔で頷く。
「もう揚げるだけだから着替えておいでよ」
「はい。ありがとうございます」
ジュリアさんは頷くと、寝室に向かったので熱した油に用意しておいた鶏肉を入れていく。
そして、しばらくすると部屋着に着替え終えたジュリアさんが戻ってきた。
「お手伝いすることはあります?」
「あとは揚がるのを待つだけだから大丈夫だよ」
「そうですか」
ジュリアさんがじーっと鍋を見る。
「合ってるよね?」
「はい。合ってます。ただ、美味しそうだなーっと……」
「まあね。あ、冷蔵庫にサラダとかあるし、ご飯とかそっちを机に並べてもらえる?」
「わかりました!」
ジュリアさんは笑顔で頷き、手際よく準備していった。
そして、鶏肉も揚げ終わったので机に持っていき、皆で食べる。
「うむ、美味いのう」
「あ、チーズだ」
「美味しいですね」
失敗はしていないようだ。
あとやっぱりタマヒメ様が引いた。
「ジュリアさん、昼に国境を越えたからまた暗くなったら出ようか」
「そうですね。明日には着くと思いますし、頑張りましょう」
俺達はその後も食事を続けていき、夕食を終えると、暗くなるまでまったりと過ごし、出発した。
翌日は仕事に行き、この日も夜になると、車で進んでいく。
すると、10時半を過ぎたあたりでようやくうっすらとだが、前方に灯りが見えてきた。
「あれかな?」
助手席で地図を見ているジュリアさんに確認する。
「ええ。そうだと思います。ダルト王国の王都ですね」
今回は時間がかかったな。
まあ、それでも何とか1週間以内に着いた。
「そろそろ止まった方がいいよね?」
「ええ。こちらから見えるということは向こうからも見えているということです。多少、歩くことになりますが、この辺で十分だと思います」
「思うんだけど、魔導帝国にも車があったよね? 似たような感じで通らないかな?」
買ったってことにして。
「うーん、やめた方がいいような……」
「そうじゃな。いくら治安が良いとはいえ、トラブルの元だぞ」
盗まれるかもな。
浅井さんのところの車だが、弁償って言われたらシャレにならない。
「それもそうですね。では、この辺で止めます」
ゆっくりとブレーキを踏むと、車を停め、ライトを消す。
「じゃあ、明日だね。朝からにする?」
「そうですね。駅で話を聞いてから観光しましょう」
「そうしよっか。サクヤ様、帰りましょう」
「よし」
俺達は転移で家に帰ると、風呂に入り、翌日に備え、早めに就寝した。
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