第185話 ブレインダムド!
朝起きると、隣には誰もいなかったので時計を見る。
「11時……」
そりゃジュリアさんは仕事に行ってるわな。
「ふわーあ……」
ベッドから降りると、リビングに向かう。
すると、サクヤ様とタマヒメ様がノートパソコンでアニメを見ていた。
なお、ノルン様はゲームをしている。
「おそよー」
「おそようじゃの」
11時だからおそようか。
「おそようございます。ちょっと寝るのが遅くなりましてね」
寝たのは4時すぎ。
「知っておる。陰険な神に絡まれて大変じゃの」
「争いのない一神教も考えものよね。敗北を絶対に認めないもん」
何とも言えませんな。
それにしてもノルン様はゲームをしているが、いつ寝てるんだろう?
サクヤ様もタマヒメ様も寝ているところは何度も見ているが、ノルン様が寝ているところを見たことがない。
「いや、楽しかったですよ。ああいうゲームも良いですよね」
そう言うと、ノルン様がゲーム画面を見たままうんうんと頷く。
実に美しい所作だ。
「ふーん、それで今日は国境を越えるんでしょ? どうするの?」
「昼御飯を食べてからにします。ちょっと時間が中途半端になったんで」
朝飯の時間ではない。
「それがええの」
俺はちょっと眠かったのでシャワーを浴びた。
そして、すっきりすると、神様方と昼食を食べ、準備をする。
「サクヤ様ー、タマヒメ様ー。準備できましたー?」
着替え終えると、寝室からリビングに声をかける。
『とっくの昔にの』
『すぐよ、すぐ』
オーケーが出たので扉を開け、リビングに入る。
すると、冒険者風の服と癒し系ヒーラーのローブに着がえ終えた少女2人がいた。
「早いですね」
「まあの」
「それよりもなんで私だけ武器がないの? ジュリアもハルトもだけど、サクヤまでも持ってるじゃないの」
サクヤ様が剣を使ったことなんかないけどね。
かっこつけてたまに抜くだけだ。
「おぬしはヒーラーじゃろ。いらなくないか?」
タマヒメ様が回復魔法を使ったところを見たことないけどね。
そもそも使えるんだろうか?
「杖とかあるでしょ」
「ノルン、こんなことを言っておるぞ」
サクヤ様が振ると、ノルン様が振り向き、タマヒメ様をじーっと見る。
「いらないでしょう。あなたは心がほっこりする系のヒーラーですので」
確かにほっこりするな。
「マスコットじゃん」
うん。
しかも、よく逃げる。
「そんなものでしょう。サクヤだって何もしてないでしょうに」
「うむ。せんな。基本は若い2人に任せる」
年齢的にはそうなんだろうけど、若いって言われると、やっぱり違和感がすごいな。
「まあね……でも、武器が欲しい」
「浅井の神はわがままじゃの。ノルン」
「はいはい……」
ノルン様が呆れたように言うと、タマヒメ様の目の前に木でできた杖が現れた。
「おー……どう? ヒーラーっぽい?」
杖を取ったタマヒメ様が笑顔で聞いてくる。
「ええ。とても可愛らしいですし、お似合いですよ。ネトゲの姫になれそうです」
たま姫様。
「それ、褒めてんの?」
姫がジト目になった。
「褒めてますよ。ジュリアさんが帰ってきたら自慢すると良いと思います」
「ふーん……そうしよ」
タマヒメ様はご機嫌のようだ。
実に微笑ましい。
「もうええか? 飛ぶぞ」
「お願いします」
俺達は転移で異世界に飛ぶ。
すると、昨日とは違って明るい街道に出た。
「国境ってあれ?」
タマヒメ様が早速、杖を使って、街道の先にある建物を指す。
ただ、かなり遠くに見えるのでよくわからない。
「だと思います。ちょっと歩きましょう」
「ちょっとって距離かしら? まあいいわ。行きましょう」
俺達は前方の建物を目指して歩いていく。
「平和ねー。魔物って出ないの? 私、地味に魔物を見たことがないのよね」
外に出る時はビビッてついてこないからな。
「リヴァイアサンを見たじゃろ」
そういえば、あれも神の使いと思われているけど、魔物か。
「あんなボスじゃなくて普通の雑魚敵よ。スライムとかゴブリンみたいなやつ」
「遭遇したいのか? どうせすぐに逃げるくせに」
俺もそう思う。
「逃げないわよ。ちょっと距離を取ってるだけ」
そのまま帰ってこないじゃん。
「でしたらタマヒメ様、一緒に魔物狩りをしませんか?」
「嫌」
即拒否。
「魔物を見たいんでしょう? 街道は特殊な魔法がかかっているので魔物は滅多に出ないらしいですよ。俺が良い感じの魔物がいるところまでエスコートしましょう」
「あんたの言う良い感じの魔物ってデスワームでしょ」
「よくわかりましたね」
さすがは神様……
「あんた、この前からデスワームのことしか言ってないわよ? せめてもっとかっこいい魔物をチョイスしなさいよ」
「でしたら火の国の――」
「ルブルムドラゴンは嫌!」
何だったら良いんだろうか?
わからないなーと思いながら歩いていくと、徐々に前方の建物が見えてくる。
手前に2階建ての建物があり、奥にも同じような建物があり、前に見たフロック王国と魔導帝国の国境に似ている光景である。
やはり敵対しているということはなさそうだ。
「こんにちは」
国境までやってくると、槍を持っている兵士さんに声をかける。
「こんにちは。旅人かな?」
「ええ。土の国に行くんですよ」
「なるほど。あそこは年中暑い国だから気を付けるといい」
「はい。ありがとうございます」
礼を言って、検問所を越え、ダルト王国の方の検問所に向かう。
「やはり出る時は何もないんじゃの」
魔導帝国の時もそうだった。
「平和な世界よね。昔は日本の中でも関所とかあったっていうのに」
こういうところは本当に長生きな神様って感じがする。
「ノルン様の治世のおかげですよ」
さすがは女神様。
「こやつ、本当にノルンが好きじゃな」
「あんたの子でしょ。知ってる? NTRって言うのよ」
違う……
タマヒメ様にそんなことを教えたのは誰だよ。
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