第183話 神々しい
冒険者ギルドにやってくると、ネイトさんのもとに向かう。
「こんにちはー」
「これはハルト様。魔導帝国から戻られたんですね」
ネイトさんはいつのようにまっすぐな姿勢で微笑む。
非常に品があるし、本当に元冒険者なんだろうか?
執事とかじゃない?
「いやー、色々と考えさせられる国でしたよ」
「あそこは特殊な国ですからね」
ちょっとこの世界の中では進みすぎているような気がしたな。
「本当ですよね。でも、図書館はすごかったですし、色々と買えて良かったですよ」
「それは素晴らしいことです。どんな国でも良いところもあれば悪いところもあります。良いところを目一杯堪能するのが旅のコツです」
本当にそう思う。
「それでですね、今度は土の国に行こうと思っているんですよ」
「よろしいと思います。私もあそこには何度か行ったことがありますが、良いところですよ。ちょっと暑いですけどね」
皆、暑いって言うな。
まあ、砂漠だし、そうなんだろう。
「あっち方面の配達の仕事ってあります? 今朝、定期便が出たって聞いたんですけど……」
「申し訳ございません。その通りです」
そっかー。
まあ、魔法ギルドから仕事をもらったし、それでいいか。
「わかりました。それでネイトさんはあっち方面に詳しいとも聞いたんですけど、注意点とかあります?」
「注意点……行くのは聖都ですよね?」
「ええ。聖都以外は行かない方が良いって言われました」
「確かにその通りです。ただ儲かるという点では一概にそうは言えません。あそこの国は遺跡が多く、定期的に金銀財宝が見つかっているんですよ。そういう一攫千金を目指す冒険者や探検家が集まるところでもあります」
おー、ロマンだ。
「ちょっと惹かれますね」
ピラミッドとかあるかな?
「その分、地元の部族と遭遇する確率も上がるのでおすすめはしませんが、狙う価値はあります。その辺りは聖都で情報を集めるのもいいかもしれません」
地元の部族ってあの奪え、奪え、奪えの盗賊さんでしょ?
ちょっと怖いな。
「わかりました」
「あとはまあ、暑いことと火の国と同様にぼったくりの店が多いことですね」
火の国ってぼったくりが多いの?
あっ……
「えーっと、夜のお店的な?」
「はい。あそこもそういうお店が多いです。夜になるとわかりますが、異様に明るい地区があるのでそこになります。まあ、一攫千金を狙う冒険者が多いですので必然的にそういう地区ができます。ただ、飲み屋街もありますし、異国情緒がある地区でもあるので普通に人気のスポットでもありますよ。奥に行かなければいいのです」
奥はあれね。
「気を付けます」
行く気もないけど、ジュリアさんや神様方がいるし。
「もし、土の国の聖都にある冒険者ギルドに行く際は女性のギルド員をおすすめします。そういうことに詳しいですし、安全な観光ルートを教えてくれますよ」
「なるほど。そうします」
逆に男性ギルド員は奥を勧めてきそうだ。
「まあ、そんなところですかね? 私もここ数年は土の国に行ってないので変わっているかもしれません。あとは現地で情報を集めた方が良いでしょう」
「わかりました。色々と教えていただき、ありがとうございます」
さすがはネイトさんだ。
「いえいえ、お気を付けていってらしゃいませ」
俺達はネイトさんの綺麗な礼に見送られ、冒険者ギルドをあとにした。
そして、転移で家に戻ると、留守番をしていたタマヒメ様と合流し、昼食後に海で遊ぶ。
もう9月に入っていたが、海はそこまで冷たくなかったし、十分に夏を満喫することができた。
なお、ディーネさんも別荘にいたが、ソファーで寝ていた。
夕方になり、海から上がると、シャワーを浴び、夕食を食べた。
夜は波の音を聞きながらお酒を飲み、ゆっくりと過ごしていく。
「ハルトさん、明日から向かいますか?」
ジュリアさんが本を置き、聞いてくる。
「そうだね。馬車で15日ってことは土曜に着くために1日3時間強は運転しないといけないのがちょっと辛いけど」
「ちょっと早めに出て、交互に運転しながらで頑張りましょうか」
それがいいか。
「ダルト王国に着いたら寝台列車だね。サクヤ様とタマヒメ様も乗られますか?」
笑顔で仲良く乾杯している少女2人に確認する。
非常に可愛らしい光景だが、持っている缶は酒だ。
本当にコンプライアンスかかってこいって感じ。
「そうじゃのう……まあ、乗ってみるか。飽きたら帰る」
「その列車は大丈夫なわけ? デスワームに襲われない?」
神様って本当にブレないというか、変わらないな。
「大丈夫だと思いますよ。それに危なくなったらそれこそ転移で帰ればいいじゃないですか」
「それもそうね……寝台列車なんて乗ったことないし、私も行こうかしら?」
「一緒に行きましょうよ。絶対に楽しいですよ」
ジュリアさんが笑顔で誘う。
「じゃあ、行く」
「トランプでもしようぞ」
「あんた、好きねー。酔わない?」
神様って乗り物酔いするのかな?
「薬を飲めばよかろう」
「それもそうね。ノルンは……来ないか」
うん、来ない。
「来らんじゃろうな。あやつはゲームばっかりじゃし」
漫画やラノベも読むけど、最近はほぼゲームしかしてない。
一家団欒で晩御飯を食べている時も1人で黙々とゲームしてるし、あの方こそ置物っぽい。
めっちゃ豪華で霊験あらたかな置物だけど。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!