第180話 すれ違わない
配達の依頼を受けた俺達は図書館で静かに本を読んでいく。
サクヤ様はウチにあったラノベを読んでおり、ジュリアさんは実践的な魔法の本を読んでいた。
俺はというと、言っていた通り、この世界のUMAの本を読んでいる。
「ハルトさん、面白いですか?」
ジュリアさんがちょっと苦笑いを浮かべながら聞いてきた。
「うん、面白いね。なんで?」
「いえ、すごく目を輝かせておられたので」
「そう?」
普通だと思うけど。
「目がビー玉みたいじゃったぞ」
えー……
「子供じゃないんですから」
「子供そのものじゃった。小さい頃に変形おもちゃを買ってもらった時と同じじゃな」
「ふふっ、ハルトさん、可愛い」
うーん、その記憶は確かにあるな。
「いやね、見て、見て。土の国の砂漠にデスワームがいる確率は95パーセントだってさ」
2人に本を見せる。
「それの何が嬉しいんじゃ?」
「危ないのでは?」
女子だ。
これは『男子って子供だよねー』って言う女子だ。
「見てみたくない?」
「ワームってミミズじゃろ? 別に……」
「ドラゴンとかなら興奮しますけどね」
虫は人気がないのか。
「カーティスさんならわかってくれると思うんだけどなー」
「あの人はそういう研究をされている方ですしね。聞いてみたらどうです? 詳しいかもしれませんよ」
なるほど。
「どうせ土の国の話を聞きに行くもんね。ついでに聞いてみよ」
「良いと思います」
俺達はその後も本を読み続け、夕方になると、家に戻った。
タマヒメ様と合流すると、マグマ亭に行き、ぐつぐつを食べる、
そして、別荘の温泉を堪能し、ゆっくりと過ごす。
「タマヒメ様、これがデスワームらしいですよ。目撃者の情報から描いたものになります」
目がなく、丸い口がギザギザになっているミミズだ。
「キモッ……こんなのが砂漠にいるの?」
「らしいですよ。しかも、全長、10メートル以上です」
すごいよね。
まあ、思いっきりモンゴリアンデスワームなんだけど。
「キモッ! バケモノじゃん! 絶対に遭遇したくないわ」
「そうですか? 捕まえようかと思っているんですけど」
「あんた、ばかぁ? 捕まえてどうすんのよ! というか、ペロリよ、ペロリ。私なんか食べやすいから一飲みよ」
うーん、想像はしていたが、やはりタマヒメ様も賛同してくれない。
「ペロリと飲み込まれても転移で逃げればいいじゃろ」
「嫌よ! そもそも飲み込まれる時点でアウトだから!」
そりゃそうだ。
「おぬしは本当に臆病じゃの」
「蛮勇と勇気は違うの」
かっこいいが、タマヒメ様はちょっと臆病すぎな気もする。
「タマヒメ様、この本は面白くないみたいですし、こっちにしましょう」
UMAの本を閉じ、もう1つの本を渡す。
「何これ?」
「ノルン様の偉大なる功績の本です」
教会著。
「ふっ……面白そう。絶対に嘘八百よ」
タマヒメ様はにやにやしながら本を読み始めた。
「あやつ、良いことは自分の功績で悪いのは他人のせいにしそうじゃしの」
失礼な。
「ノルン様は人々のことを考えておられるだけですよ」
「ホント、ノルン贔屓じゃの。それよりも明日はどうする?」
明日は日曜日。
「明日は家ですね。ちょっとお返しなんかを決めないといけません」
集計したのだが、かなりの額だった。
「あー、それか。まあ、その辺はちゃんとせねばな」
「ええ。本当はお礼の挨拶に伺いたいですが、それはちょっとやめておきます。それでいいよね?」
ジュリアさんを見る。
「ええ……正直、会ったこともない人までいますし……」
ジュリアさんですら会ったことがない人から祝儀をもらっても困るが、名家の付き合いなんだろう。
「まあ、そういうもんじゃからのう。子供が生まれたらまた祝いじゃぞ」
ウチとしても待望の跡取りだ。
まあ、単純にジュリアさんとの子供っていうのは嬉しいけど。
「あー、そうなりますよね。先に断りを入れてもいいもんですかね?」
浅井さんに遠慮の電話をしたい。
「ダメじゃな。向こうには向こうのメンツがあるし、浅井は政治家じゃろ? 付き合いは大事じゃろう。まあ、礼状と返しをするだけで金をもらえるんだから素直にもらっておけ」
それもそうか。
これから何があるかわからないし、お金は大事だ。
「大変だけど、やろうか」
「ええ。祝ってくれる気持ち自体は嬉しいですしね」
確かにそうだ。
会ったことどころか名前すら知らない人だが、俺とジュリアさんの結婚を祝ってくれるのは嬉しい。
ましてや、俺達はそのお披露目となる結婚式をしていないのにも関わらずだ。
「頑張れ。それが大人になるということ。家族が増えるということじゃ」
俺は子供だったのか……
あ、いや、デスワームを求める子供心は大事だけどね。
うんうん。
俺達はその後も読書をしながら過ごし、就寝した。
翌日は予定通り、もらった祝儀なんかをまとめ、お返しの品決めと礼状を書いていく。
お礼の品決めも大変だったが、礼状も頑張って、1枚、1枚、手書きで感謝の言葉を綴っていった。
そして、夕方にはすべての作業を終える。
「疲れたー」
「ホントですね……あ、買い物に行ってきます」
ジュリアさんが立ち上がった。
「じゃあ、俺は掃除するよ」
「お願いします」
俺達は手分けをして、家事をしていき、夕食を食べる。
そして、寝る前にアニメの続きを見て、結婚して最初の週末を終えた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本日より、本作の第2巻が発売となりました。
こんなに早く2巻を出せるのも皆様の応援のおかげですし、ありがたい限りです。
ぜひとも手に取って読んでいただければと思います。
よろしくお願いします!