第178話 ありゃりゃ
俺とジュリアさんは寝るのが予定よりちょっと遅れてしまったが、朝早くに起き、サクヤ様を起こして、朝食を食べる。
「今日は魔導帝国じゃったか?」
サクヤ様が納豆をかきまぜながら聞いてくる。
「はい。ギルドで配達依頼を受けた後、図書館です」
「ほーん、相変わらず、真面目じゃの。夜は?」
「火の国でぐつぐつです」
「それはええの」
サクヤ様もぐつぐつが好きだもんね。
「サクヤ様は昼間をどう過ごされます? 送っていただいて、夕方にでも迎えに来ていただければ大丈夫ですけど」
「そうじゃのー……いや、我も行こう。留守番はノルンに任せる」
ノルン様はいつも留守の我が家を守ってくれるありがたい神様だ。
今もスナイパーのるんとして、敵をバッタバッタ殺している。
「では、そうしましょう」
俺達は朝食を食べ終えると、一息し、準備をする。
すると、タマヒメ様がやってきた。
「おはー。今日は図書館だっけ? いってらっしゃい」
タマヒメ様は早速、ノートパソコンをセッティングしだす。
いつもの和服姿だし、ついてこずにアニメを見るのだろう。
「おはようございます。夜はぐつぐつと温泉なんでタマヒメ様もいらしてくださいよ」
タマヒメ様を誘う。
「いいわねー。じゃあ、なんか図書館で本を借りてきてよ」
本?
「アニメの本はないと思いますけど……」
「なんでアニメの本なのよ。私は幼児か」
幼児ってほどではないけど、子供……
「じゃあ、適当に選んでおきます」
俺のセンスが問われるな。
「お待たせしました。あ、タマヒメ様、おはようございます」
着替え終えたジュリアさんが寝室から出てきた。
「おはー。パソコンを借りてるわよ」
「どうぞ、どうぞ」
「あ、それと親戚連中や付き合いのある家から祝儀をもらったからここに置いておくわよ」
タマヒメ様はそう言うと、祝儀袋の束をどさっと机に置く。
「あ、ありがとうございます」
「すごい量だね……」
いくら祝儀袋が厚いとはいえ、30センチくらいの束だ。
「ジュリアは本家の娘だから仕方がないわよ。色々と付き合いがあるし、ウチも祝儀を出すしね」
さすがは名家にして、政治家の家だな……
ちょっと式を挙げなくて良かったって思った。
「またお返しを考えましょうか」
「そうだね……」
いくら入っているんだろう……?
「まあ、良いではないか。祝いぞ? 昔は村全体がどんちゃん騒ぎで色んな豪族、大名、武家からももらったもんじゃ」
すげー時代だな。
ってか、それいつだよ。
「ウチが滅びかけてて良かったって思っちゃいました」
「まあの……間違いなく、お互いが向こうの家に負けるわけにはいかないという見栄合戦じゃったぞ」
こわー……
「現代で良かったです」
「そうですね」
俺達は名家も考え物だなと思いながら魔導帝国の拠点であるアパートに転移した。
「魔法ギルドは4層だったよね?」
「ええ。でも、その前にマージェリーさんにナイジェル議員がどうなったかを聞きましょう」
「そうだね。ちょうど検問所を通るからそこでマージェリーさんの居場所を聞こうか」
ここは3層だから4層の魔法ギルドに行く時に通る。
「よし、行くかの」
俺達は部屋を出ると、下に降り、車に乗り込む。
そして、ジュリアさんの運転で4層と3層の検問所に向かった。
「あれ? マージェリーさんじゃない?」
検問所のところに長い赤髪の女性が立っている。
「ホントですね。止まります」
ジュリアさんが車を止めると、マージェリーさんの方も俺達に気付いたようでこちらにやってきた。
「おはようございます」
車から降り、挨拶をする。
「ああ、おはよう。今日も買い物か?」
「いえ、魔法ギルドに行くんですよ」
「ほう。だったら駅前がおすすめだぞ。あそこは叔父上の息がかかった者が多い」
息がかかったって……
「ありがとうございます。そこに行ってみようと思います。それでちょっと気になったんですけど、ナイジェル議員はどうなりました?」
「うん? 新聞を読んでないのか?」
新聞があるんだ……
「いえ、読んでないですね」
あっちの世界でも新聞は取ってない。
スマホで十分だし。
「そうか。ナイジェル議員なー……強盗未遂でしょっ引いたんだが、上の圧力で釈放になった」
え?
「政治が腐敗してますよ」
「そうだな。とはいえ、まーた捕まったな」
はい?
「何かしたんですか?」
「横領罪だな。まあ、ここだけの話だが、エイブラム殿にケンカを売ったのがマズかった。おそらく買収されたであろうナイジェル議員の秘書がナイジェル議員を告発したんだ」
あちゃー。
「それはまた……何と言いましょうか」
「元々、黒い噂が絶えない人だったからな。ナイジェル議員を庇っていた他の議員もエイブラム殿と敵対していると知ってだんまりになった。あれはもうダメだな。向こう10年は塀の向こうだ」
横領罪って重いんだな。
「まあ、俺達は逆恨みがなくて一安心ってところですね」
「そもそもフロック王国の王の名前が入った通行書を持っている人間にそんなことできんがな。しかも、女神様の剣を持っている人間だろ? 国際問題どころの話ではないわ。良くて火あぶり。悪くてさらし首だな」
一緒じゃん。
極刑じゃん。
「わかりました。安心して図書館に行けますよ」
「そうだな。また何か珍しい魔石なんかが手に入ったら私に言え。いくらでも売り込んでやる」
良い人だ。
「ありがとうございます。では、魔法ギルドに行ってきます」
「うむ。気を付けてな」
俺達は車に乗り込むと、検問所を抜け、4層の駅前に向かった。
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