第175話 お祝い
婚姻届を提出し終えると、駅前にある組合にやってきた。
「山中さん、こんにちはー」
「こんにちは」
2階にやってくると、受付の山中さんに挨拶をする。
「はい、こんにちは。今日は平日なのに悪いわねー」
「いえ、実は先程、役所で婚姻届を出してきたんですよ」
「あらー! それはおめでとう! 2人共良かったわね!」
山中さんが自分のことのように喜んでくれる。
「ありがとうございます」
「岩見樹莉愛になりました」
ジュリアさん、地味にネタにしてるよな……
「いやー、感慨深いわー。ちょっと待ってね。村田君と秋山さんを呼ぶから」
山中さんが内線をかけ始めた。
すると、すぐに村田さんと秋山さんが降りてくる。
「いやー、おめでとう、おめでとう」
「めでたいわねー」
2人も満面の笑みだ。
「ありがとうございます」
「証人にもなっていただき、ありがとうございました」
ホント、ホント。
あと、アドバイス。
「いいの、いいの」
「そうよ。山中さん」
秋山さんが山中さんを見ると、山中さんがカウンターの下から包装紙に包まれた箱を取り出した。
「ハルト君、ジュリアちゃん、これ、私達からお祝い。結婚した日に渡せてちょうど良かったわ」
おー……
「本当にありがとうございます」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「私達も弟妹のように思っていた2人が一緒になって嬉しいのよ、はい」
山中さんは箱を紙袋に入れて渡してくれたので受け取る。
「岩見君、前に言ってた東京の件だけど、上の許可が降りたよ」
おー。
「それは良かったです」
「まあ、このくらいは通るよ。また具体的な日程が決まったら教えて。申請しておくから」
「よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、診察をしようか。新婚さんを引き留めるのも悪いし、さっさと終わらせるよ」
俺達はエレベーターで上に上がると、ジュリアさんと秋山さんと別れ、村田さんと診察室に入った。
「村田さん、色々と相談にも乗っていただきありがとうございました」
席につくと、改めてお礼を言う。
「全然いいよ。でも、良かったね。お見合いをしてだいたい1年くらいでしょ? ちょっとかかっちゃったけど、最初のスタートが遅かったって考えればまあ、そんなものじゃない?」
半年間、何もしてなかったからな。
本当に……
「実は今日で1年です」
「あー、そういうこと。だから今日、籍を入れたんだね。浅井さんのところに挨拶に行った?」
「行きましたよ。出前の寿司をごちそうになりましたが、しこたま日本酒を飲まされました」
向こうは俺の倍以上は飲んでたけどね。
それでもあのままなんだからすげーわ。
「どう? 緊張した? 僕はそういう経験がないけど、友人なんかは皆、緊張してたって言ってたよ」
「最初はしてましたけど、すぐに解けましたよ」
タマヒメ様のおかげ。
「さすがは当主様だね。それと本当に東京に行くの? 申請した際に東京でいいのかって聞かれちゃったよ」
「ジュリアさんが行きたがってますしね。それに新婚旅行だけじゃなく、またどこかに行けばいいですし」
組合による移動の制限があるが、どちらにせよ、俺達は社会人という制限があるから長期旅行はできないのだ。
「まあ、奥さんが行きたいところが一番か。アドバイスしてあげようか?」
アドバイス?
「何です?」
「都会の方に行くとさ、有名だけど、こっちにはないチェーン店があるでしょ?」
あるね。
名前だけは知ってる店。
「田舎には進出してくれませんよねー」
「そうそう。僕もこっち生まれ、こっち育ちだけど、初めて東京に行った時に某有名チェーン店に入ったんだよ。ファミレスね」
「どうでした?」
「チェーン店だからお察し。遠くに来てまでなんでこの店に入ったんだって思った。まあ、君は東京暮らしが長いし、知ってるとは思うけど」
所詮はファミレスだもんな。
「俺も最初に某コーヒー店に行きましたよ。普通にコーヒーを飲んで帰りました」
普通のコーヒーだった。
今思えば、完全なお上りさんだな。
「コーヒー店くらいならいいけど、浅井さん……じゃないか、ジュリアさんに期待しない方が良いよって言っておきなよ」
せっかく旅行に行くのにファミレスはないわな。
「それもそうですね。その辺の話もしておきます」
今日、帰ったら異世界のことも含めて、今後の相談をするか。
その後、健診を行い、下でジュリアさんと合流すると、買い物をして家に帰る。
「ただいま帰りました」
アパートに戻ると、リビングではノルン様がゲームをしており、サクヤ様があやとりをしていた。
「おかえり。婚姻届はちゃんと出せたか?」
サクヤ様が確認してくる。
「ええ。これで本当に夫婦となりました」
「それは良かったのう。それは何じゃい?」
サクヤ様が紙袋を指差して首を傾げた。
「組合の方にお祝いをもらったんですよ」
「ほー……」
「ありがたい限りです」
コタツ机の前に座ると、包装を解き、中身を確認する。
中身はちょっと高そうなマグカップだった。
「ほー……ペアのマグカップじゃの」
「ですねー……ジュリアさん、マグカップもらったー」
キッチンで冷蔵庫や冷凍庫に買った食材を詰めているジュリアさんに報告する。
「おー……嬉しいですね。しかし、お返しを考えないといけませんね。会社からも祝儀をもらいましたし」
俺ももらった。
「ちょっとその辺をまとめようか」
「そうですね」
俺達はもらった祝儀なんかを集計し、お返しを決めることにした。
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