第167話 それぞれ
翌日の11日は海で遊ぶと決めていたので朝から海で楽しんだ。
なお、戻ってきたディーネさんは二日酔いのせいでずっとソファーで寝ていた。
その翌日と翌々日は魔導帝国の図書館に行き、魔法の本を読む。
夜はそれぞれ水の国や火の国の別荘でゆっくりと過ごした。
そして、14日になると、異世界には行かずに転移でお互いの家や新居を行き来しつつ、引っ越し作業をする。
住むのは来週末だが、使わないものや冬ものなんかは先行して運べるのだ。
「ジュリア。あんたは服とかが多いでしょ。もうタンスごと運んじゃいましょうよ。必要な時は私の転移を使えばいいから」
「あ、じゃあ、お願いします。寝室の方のクローゼットに置きますので」
「どこー?」
「こっちです」
ジュリアさんとタマヒメ様が寝室の方に行く。
「我はここで寝る」
サクヤ様がリビングの端の方を指差した。
「そこでいいんです?」
「よい。それと家具や家電はほとんどジュリアの家のものを使うんじゃろ? おぬしの家にあるものはどうする? それにベッドを新しくしたのならおぬしやジュリアが今使っておるものもじゃ」
「とりあえず、異世界の倉庫にでも置いておこうかなと思います。少しずつ処分ですね。処分はお金もかかりますし、手間なんですよ」
倉庫は本当に助かるわ。
「なるほどの。あっちの世界では稼げるし、どうとでもなるか」
「ええ。有効活用しましょう」
シーサーペントの魔石でかなり稼げそうだし、倉庫を増築するなり、新たに建てるなりしてもいい。
「ハルトさーん、もう本棚も運んでいいですかねー?」
ジュリアさんが寝室から顔を出す。
「そうだね。運んでしまおうか。サクヤ様、ウチのもお願いします」
「はいよ」
俺達はその後も引っ越し作業を行っていき、翌日も今住んでいる部屋の掃除をしながら同じように作業をしていった。
そして、15日の夜になると、長かった盆休み最後の夜なのでウチでゲームをしつつ、まったりと過ごしていく。
「休みが終わるのか……」
「ですねー。ただ、明日出ればまた土日ですよ」
明日は金曜なのだ。
実はその金曜を休む人も多く、上司からそこも休まないのかと聞かれたくらいだった。
ただ、ジュリアさんは出るようだし、9連休にすると、月曜日がマジできつくなりそうなので出ることにしたのだ。
「まあねー。とはいえ、日曜はそっちの実家だね」
「そうですね。10時からです」
そういう話になっている。
「ハルト、へりくだらずにいけよ。ジュリアをもらって当然という態度じゃ」
「それはそれでどうなの? 普通でいいわよ」
タマヒメ様が呆れる。
「タマヒメ様もご出席されるんです?」
「しない。あんたが婿に来るなら出席するけど、嫁に出すならしないわよ。というか、ここにいるでしょ、私」
うん、いるね。
「タマヒメ様、ジュリアさんと結婚いたします」
深々と頭を下げる。
「それはもう聞いた。そんなことよりも多分、寿司取って、飲まされるからジュリアの運転で行きなさいね」
「そうなんです?」
「そういうもん」
へー。
まあ、寿司を食えるならいいか。
「じゃあ、ジュリアさん、お願い」
「わかりました。でも、翌日は仕事ですし、無理しないでくださいね」
「それは無理。浅井さんの酒を断れないし、負けるわけにはいかないんだよ」
岩見の当主だもん。
「ええぞ。浅井なんかに負けるな」
負けるものか。
「ウチの父、ものすごく強いですよ?」
「そうね。地方議員なんて飲み会というか接待ばっかりだし」
あ、そうなんだ。
「仕事が大事でした」
「そうですよ。翌週はがっつり5日間です」
それで初日に二日酔いはマジできついわ。
「適度にするよ。お母さんってどんな人?」
はっちゃけて娘に樹莉愛と名付けたことくらいしか知らない。
「うーん、おっとりとした人ですね」
「そうね。厳しい人ではないわ」
それ、ジュリアさんじゃん。
母親に似たのかね?
「国会議員の娘さんだっけ?」
「そうね。今の幹事長の人」
「テレビでお爺ちゃんを見ますね」
すごいな、おい。
「ウチもそういう人がいないですかね?」
サクヤ様に聞いてみる。
「おらんな。ウチは魔法使いの家としか繋がりがない。でも、血の繋がりすらないものすごく遠い親戚にオリンピックに出た者がおったかのう?」
それ、他人だ。
当主の俺が知らねーもん。
「いや、あんたは岩見の当主でしょ」
「そうですよ。ハルトさん自身が一角の人物です」
どこがでしょう?
あ、でも、イオナズ〇を使えるし、ドラゴンスレイヤーでワイバーンスレイヤーでドラゴンライダーだ。
絶対に子供人気は俺の方がある。
「頑張ろう。あ、それで土曜だけど、魔導帝国に行こうよ。あの……マージェリーさんのところ……」
「あー、魔石ですね。2週間って言ってましたし、訪ねてみますか……」
うーん……
「どうしたんじゃ?」
「マージェリーがどうかしたの?」
この前のことは御二人には言ってないのだ。
「えーっと、ほら、彼氏がいるって言ってたじゃないですか?」
「言っておったのう」
「親に内緒で同棲しているってやつね。いやらしい……」
まあ、いやらしいかどうかは置いておく。
「この前、その彼氏さんと一緒のところを見たんですけど。えーっと……」
ジュリアさんを見る。
「何と言いましょうか……大変仲が良いというか……」
「ラブラブ?」
「甘々?」
うーん、そのレベル以上な気がする。
「なんじゃ? あやつがそんな感じじゃったのか?」
「人は見かけによらないものね」
うん。
ホント、そう。
「すんごい甘い声を出してたよね?」
「『きゃっ』とか言ってました」
言ってたねー。
でも、今のジュリアさんの『きゃっ』は可愛かった。
「シンディーみたいな感じか?」
「いや、ああいうプロフェッショナルな感じではなく、素な感じです」
あ、プロって言っちゃった。
「ほーん……」
「まあ、いいんじゃない? 男女なんてそんなものよ。ジュリアの両親だって、若い頃は小指と小指を結んで恋愛映画を見てたし」
「すみません。それは聞きたくなかったです……」
俺もちょっと聞きたくなかった。
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