第159話 すぐにトイレに駆け込んだ
「ちゃっかりデザートまで所望しておるの。我はりんご飴」
「まあ、私も欲しいけど……りんご飴」
俺はチョコバナナが食べたくなってきた。
「買ってきますよ」
「私も行きます」
俺とジュリアさんはチョコバナナとりんご飴を買いに行く。
「人もかなり増えましたね」
「もう30分前だしね」
このまだか、まだかという雰囲気が懐かしい。
「ハルトさんはチョコバナナとりんご飴、どっちにします?」
「俺はチョコバナナ。ジュリアさんは?」
「私もチョコバナナですね」
りんご飴はりんごが丸々一個だからちょっと重いんだよな。
「じゃあ、俺はチョコバナナの方を買ってくるよ」
「わかりました。私はりんご飴を買ってきますね」
俺達は手分けして購入すると、サクヤ様とタマヒメ様のもとに戻った。
「どうぞ、りんご飴です」
ジュリアさんが2人にりんご飴を渡す。
「おー、リンゴの飴じゃの」
「ビジュアルが良いわよね」
可愛らしい少女がりんご飴を舐めている姿は非常に微笑ましく、そちらの方がビジュアルが良いと思った。
「ノルン様にチョコバナナを送ってもらえます?」
「あいよ」
サクヤ様がチョコバナナを送ってくれたので俺達もチョコバナナを食べだす。
チョコとバナナという王道の組み合わせは当然、美味しかったのですぐに食べ終えてしまった。
一方でサクヤ様とタマヒメ様もりんご飴をパクパクと食べている。
「後半はただのりんごね」
「そらのう。まあ、美味いじゃろ」
「リンゴが不味いわけないからね」
仲良し姉妹はりんご飴を食べ終えると、残った芯がパッと消える。
「ふう……さて、そろそろか」
「3分前ですね」
俺達は屋台の食べ物に満足し終えたので花火を待つ。
すると、一筋の光が昇っていき、縦線を描く。
直後、バーンという音と共に光が広がり、花を作った。
そして、周りの人達からおーっという声が上がる。
「綺麗だねー」
「ホントですねー」
「ええのー」
「夏よねー」
その後も色とりどりの打ち上げ花火が上がっていく。
俺達はそんな花火を見ていき、時には声を出し、時には拍手をしながら夏の風物詩を堪能していった。
「やっぱり良いですね」
周りの音が大きいのでジュリアさんが顔を近づけてくる。
「そうだね。すごい迫力」
「はい。来て良かったです」
俺達が見上げながら楽しんでいると、最後に打ち上げ花火のラッシュが始まり、最後に大きな花火が打ち上がった。
上空にゆっくりと上がっていく光が徐々にスピードが緩まると、どーんっという大きな音がなり、辺りが静寂に包まれる。
そして、この会場にいる全員の心が一つとなり、一斉に拍手を贈った。
「良かったねー」
「ええ。最後の花火はすごかったです」
「花火の醍醐味じゃの」
「久しぶりに見たけど、花火も進化してるのねー」
俺もちょっと思った。
昔見たよりもずっと色鮮やかな気がしたのだ。
「そろそろ帰ろうか」
「そうですね」
俺達は立ち上がると、ゴミをまとめ、敷物も畳む。
そして、車がある方に歩き出したのだが、ものすごい混みようだ。
「多いのう……」
「まあ、集まる時はバラバラでも帰る時間はみんな一緒だものね」
ホント、すごい人だ。
田舎とはいえ、これだけの人がいるんだよなー。
「ジュリアさん、大丈夫?」
はぐれそうだったのでジュリアさんと手を繋ぐ。
「はい。ありがとうございます。それにしても車を離れたところに置いて正解でしたね」
「うん。全然、動けないだろうね」
実際、近くに止めたであろう車が何台もいるが、まったく動けていない。
「ねえ、転移で帰っていい?」
「ダメに決まっておるじゃろ。いくらなんでも目立ちすぎじゃ」
「頑張りましょう」
「さすがにここはマズいです」
俺達は人ごみの中を進んでいき、なんとか車を止めた駐車場までやってくると、車に乗り込んだ。
「タマヒメ様、サクヤ様、先に言っておきますが、多分、ここからでも混んでます。転移で先に帰ってもいいですよ?」
「え、じゃあ……」
「おぬしは本当に自分の子を見捨てるのう」
「い、一緒に帰るわよ」
いやー……
「俺、今日は温泉に入りたいんですよ」
「わかる、わかる」
「我もそんな気分じゃな」
「私もですね。火の国の別荘の方に泊まりましょうか」
それを提案したかった。
「そういうわけでジュリアさんを連れて、帰ってもいいですよ? 先にお風呂に入っててください」
「そ、そう?」
「いいのか?」
タマヒメ様とサクヤ様が身を乗り出して聞いてくる。
「多分、1時間もあれば帰れるんでちょうどいい感じになると思います」
大通りではない道を行けばそこまで混んでないだろう。
俺はこの辺の道には詳しいのだ。
「大丈夫です?」
ジュリアさんも聞いてきた。
「うん。一緒にお酒でも飲んでゆっくりしようよ。俺、屋台のご飯を食べていた時からそう思ってた」
「あー、ちょっと思いましたね」
「ねー。そういうわけで先に帰ってて」
「すみません。ありがとうございます」
正直、トイレのことがあるから先に帰らせた方が良いと思ったのだ。
実は子供の頃に似たような感じで親と来たことがある。
その時の花火の記憶はそこまでだが、その記憶だけはしっかり残っているのだ。
まあ、小学校低学年だったからセーフだと思う。
「じゃあ、先に帰るからの」
「ええ」
頷くと、サクヤ様、タマヒメ様、ジュリアさんが消える。
車内が一気に暗くなったなと思いつつ、車を発進させた。
そして、ちょっと狭いが、人通りの少ない道を選び、遠回りしながら車を走らせると、アパートの駐車場に到着した。
「45分か……思ったより早かったな」
車を駐車場に止め、部屋に戻る。
すると、先に帰った3人はいなかったが、ノルン様が部屋でゲームをしていた。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい。運転、ご苦労様です」
ノルン様は相変わらず、ゲームをしながら答える。
「3人は?」
「火の国に行きましたよ。お風呂に入るそうです」
よし、先に行ってくれたか。
「いやー、人が多かったですよ」
「そうでしょうね。あなたは気遣いもできますし、サクヤが自慢するだけはありますね」
ノルン様が珍しく褒めてきた。
「そうですかね?」
「ええ。ジュリアはそういうところが良かったんでしょうね」
「どうも……」
ホントにノルン様か?
ノルン様に化けた悪魔では?
「失礼な。どう見ても完璧な神でしょう?」
心を読まれている……
でも、背中とお美しい金髪しか見えません。
「さてと……」
俺の心の声が聞こえたのか、ノルン様がコントローラーを置き、振り向いた。
「どうしました?」
「サクヤにあなたが帰ったら火の国に送るように言われているのです」
ノルン様がそう答えて、手を掲げる。
「あ、そうでしたか。では、お願いします」
「ええ。屋台のご飯、ありがとうございました。とても美味しかったです」
「来年は一緒に行きましょうよ」
「気温があと10℃下がればね」
あ、絶対に行かない宣言。
「そっすか」
「ジュリアと行きなさい」
「そうします」
また4人で行こう。
「では、良い夜を……」
「はい。おやすみなさい」
絶対に寝ないでゲームしているだろうなと思っていると、一瞬で火の国の別荘のソファーに転移した。
書籍を購入してくださった方、ありがとうございます。
まだの方は是非ともご購入頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします!