第156話 サクヤ様「たまやーって言おう」
奥に入ると、まず手前に館内図が貼ってあったので見る。
「3階建てで1から60までのエリアがあるみたいだね」
「ですね。ちゃんとコーナーに分かれてます」
攻撃魔法のコーナーもあるし、歴史のコーナーもある。
他にも技術や俗説まである。
「どこ行く?」
「冒険者としては攻撃魔法や技術ですかね? 歴史も気になりますけど」
うん、気になる。
「我はその辺で漫画を読んでおるから好きに探索してこい」
サクヤ様はそう言って近くにあるソファーに寝転び、漫画を読み始めた。
「1から見て回ってみようか」
「そうですね。まずは一通り見て回りましょう」
俺達は1のエリアから順番に見て回っていく。
さすがに本を見だすと、時間が足りないので軽くエリアを見たら次のエリアに行くようにする。
そうやって見ていると、利用者のほとんどが攻撃魔法や回復魔法、魔法の理論や技術といった実用的なエリアに集まっていた。
歴史なんかも人がいるのだが、学生さんや学者さんみたいな人が数人いる程度だ。
「偏っているね」
「まあ、実践的なことを学びたいと思うのは仕方がないでしょうしね。全部は一生かけても読めませんもん」
うん、無理だね。
ここ、何万冊あるんだろう?
俺達はその後も見て回り、20のエリアまでやってきた。
「ここまでが1階だね」
「ざっと見て回るだけで数十分かかりましたよ。これがあと2階あるんですよね?」
「そうだね。すごいんだけど、ありすぎて困る」
「本当ですよ。どうします? 2階、3階も見て回りますか?」
うーん、大変だな。
「1階で見たいコーナーはあった?」
「いっぱいありましたね……」
ジュリアさんが苦笑いを浮かべる。
「だよね。俺もそう。各自で見たい本を取って、サクヤ様のところで読もうか」
「そうしますか。私は攻撃魔法のところに行きます」
「俺は歴史のコーナーに行くよ」
俺達はこの場で別れ、それぞれ気になるコーナーに向かう。
俺は歴史のコーナーで魔法の始まりと魔導帝国の歴史の本を取り、サクヤ様がいる入口付近のソファーに戻った。
「ん? ジュリアはどうした?」
寝転がって漫画を読んでいたサクヤ様が顔を上げる。
「攻撃魔法の本を見繕ってますよ。それぞれ本を取って、ここで読むことにしたんです」
「あー、そういうことか。おぬしは何の本じゃ?」
「歴史です」
「またつまらん本を……」
そりゃ1000年以上も生きているサクヤ様からしたらそうでしょうよ。
「ウチにもそういう歴史の本とかないんです?」
「家系図すらも残ってないのう」
まあ、そうだろうな。
あの部屋に何もなければないだろう。
サクヤ様の隣に腰かけ、歴史の本を読み始めると、ジュリアさんも戻ってきた。
「いいのあった?」
「はい。氷魔法の本です」
氷魔法?
「アイスストームを覚えてないの?」
「ぷよぷ〇から命名したであろうあれじゃないですよ」
何故バレた?
「ち、違うよー」
「いや、わかりますよ」
ジュリアさんが笑う。
「まあねー……魔法を作る時ってゲームとかアニメから取るし」
「わかりやすいですしね」
「なんで氷魔法なの?」
「ものすごい単純ですけど、この前の海で作ったピサの斜塔が良かったからですね」
ジュリアさんの土魔法と俺の氷魔法で作った合作か。
「なるほど。また海に行って、色々作ってみようか」
「はい」
ジュリアさんが頷き、隣に座ったので3人で読書を始める。
そして、昼に一度出て、昼食を済ませると、その後もずっと読み続けた。
「ハルト、ジュリア、もう3時じゃが、ええのか? 今日は日曜じゃし、やることもあるじゃろ」
サクヤ様が顔を上げて、教えてくれる。
「あー、掃除とかしないと……」
「私も買い物に行って、ご飯を作らないと……」
日曜はやることがあるのだ。
「じゃあ、帰るか。本は借りれば良かろう」
「それもそうですね」
貸し出しは本当に便利だな。
「借りましょうか。あ、他の本も取ってきます」
「俺もそうしよ。サクヤ様、ちょっと待っててください」
「あいよ」
俺達は貸し出しが可能な本を数冊ほど選ぶと、サクヤ様の元に戻り、受付に向かう。
すると、朝と同じく、館長さんが座っていた。
「館長さん、この本を借りたいんですけど」
そう言ってカウンターに俺とジュリアさんの分の本を置く。
「わかりました。どうぞ持っていってください。期限はひと月ですからね」
「ありがとうございます」
俺達は本を持って、図書館を出ると、車に乗り込み、マージェリーさんの部屋に戻る。
そして、転移で家に帰った。
すると、部屋はいつものエアコンとは違う涼しさで快適な気分になる。
「あ、おかえり」
アニメを見ていたタマヒメ様が声をかけてくる。
そして、いつものようにゲームに夢中なノルン様はスルーだ。
「ただいま戻りました。涼しいですね」
「うん、この冷却石は乾燥もしないし、いい感じよ。絶対にもう1つ買うべきね」
やっぱりそうか。
「そうします」
「あのー、タマヒメ様」
ジュリアさんがタマヒメ様に声をかける。
「ん? 改まってどうしたの?」
「今週末の土曜日に花火大会があるんですけど、一緒に行きませんか? ハルトさんとサクヤヒメ様と行くんですよ」
「えー……花火大会って人でごった返すでしょ。どんなに発展してもそれだけは変わらないのよね」
どうやら昔かららしい。
まあ、それはそうか。
「こんな機会ないですし、行きません?」
「うーん、ノルン、あんたも行く?」
「私は忙しいです。世界を救わないといけませんから」
勇者のるんは使命があるのだ。
「あんた、本当にこの夏は一歩も外に出ない気ね……」
「せっかくですし、行ったらどうですか? ついでにタコ焼きとかき氷でも送ってください。あ、ブルーハワイですよ」
「あんたは本当にマイペースね……」
心がお美しいから仕方がないよ。
純粋なんだ。
「タマちゃん、せっかくじゃし、行こうじゃないか。どうせ何年も見てないんじゃろ。子が結婚するわけじゃし、祝いと思おう」
珍しく、サクヤ様が誘う。
「いや、祝いなら2人っきりにさせなさいよ」
「こやつらは気にせん」
うん、気にしない。
そこにいて当然なのが神なのだ。
「まあ、じゃあ、行こうかな……」
「じゃあ、4人で行きましょうか」
花火大会に行くことを決め、この日は解散となる。
とはいえ、夕食は一緒に食べたし、その後も一緒に借りた本を読んでいった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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