第153話 なんでも冷凍する夫婦
マージェリーさんが部屋から出ていったので俺達はお茶を飲みながら今後の相談をすることにした。
「一応、拠点は借りれたの」
「そうだけど、ここに泊まるの?」
タマヒメ様がそう言うと、皆が部屋を見渡した。
キッチンもあるし、ベッドもある。
さっき確認したが、トイレもお風呂もあったから泊まることは十分にできる。
「ベッドは一つですけど、大きいですから私とハルトさんが一緒に寝ても十分な大きさだと思います。御二人はやはり床ですか?」
「うむ、布団が良い」
「私も」
このようにこの人数でも泊まれる。
でも……
「火の国か水の国の別荘で良くないですか?」
「我もそう思う」
「私も……」
「無理にここに泊まる必要はないですよね……」
悪くないんだが、普通なのだ。
なんならウチでもいい。
「ここを転移の拠点にしましょうよ」
「そうじゃの。では、今日はどっちかか」
「そうしましょう」
「私もそれでいいと思います」
だよねー。
「じゃあ、そうしましょう。それでこれからどうする? 5層に行って、店を回る?」
ジュリアさんに聞く。
「ええ、せっかく車をお借りしましたし、運転して町を回りながらお店に行ってみましょう」
「そうしよっか。サクヤ様とタマヒメ様もそれでいいです?」
「いいぞ」
「いいんじゃない?」
俺達は今日の予定を決めたので部屋を出ると、車に乗り込み、ジュリアさんの運転で3層を回っていく。
「運転はどう?」
「ほとんど車と一緒ですね。スピードはそこまで出ないようですし、大丈夫です」
多分、時速30キロくらいしか出てないと思う。
「なんかタイムスリップした気にならない?」
「なりますね。これまでは別世界って感じがしましたが、ここは少しだけ現代社会の匂いがします」
この世界ではこの町が異質なんだろうけど、俺達にはちょっと馴染みがある。
「言い方はあれだけど、レトロな感じがするよね」
「ええ。ただ、魔法技術っていうのがすごいですよね」
この車にしても見た目は俺達が持っている車と一緒だが、動力なんかは別ものなんだろう。
それは建物なんかでもそうだ。
本当にコンクリートなんだろうか?
俺達は3層、4層と町並みを眺めながらドライブし、5層にやってきた。
ちょうどそのくらいでお昼になったので適当に選んだ飲食店に入り、定食を食べる。
「なるほど……美味しいね」
何かの肉の定食だが、柔らかくて美味しい。
「ええ、やはりこの世界の料理は美味しいです」
ねー。
「でも、マージェリーが言っておった意味はわかったな。王都でも食べられる」
うん、食べたことがある気がする。
「そうね。そして、この値段よ」
メニューには値段が書かれているのだが、1つのメニューに5つも書かれていた。
銀貨5枚、銀貨4枚 銀貨3枚、銀貨2枚、銀貨1枚だ。
俺達はギルドカードを提示したら銀貨1枚になった。
「これが優遇なんでしょう」
「ジェーンさんの言ってたやつですね」
「嫌じゃのー」
「もし、ジュリアとハルトが別でジュリアには銀貨2枚出せって言ってきたらブチギレるわね」
それぐらいなら出すが、嫌な気持ちなのは確かだ。
「この世界の魔法使いの質から考えて、ジュリアも銀貨1枚じゃと思うがな」
「例えばの話よ。これ、絶対に友情破壊よ。ノルンに嵌め技を使われて何もできずに負けた時と同じ気持ちになる」
それは違うような……
言いたいことはわかるけど。
「飯も他のところでええじゃろ。そもそも輸入なせいか、こちらの方が高い気がする」
それはそうだろうな。
割り引いてやっと普通って感じだし。
「まあ、いいじゃないですか。夕食は水の国で魚でも食べましょう」
「いいですね」
「そうじゃの」
「それがいいわ」
俺達は昼食を食べ終えると、車をそのままにし、近くにある魔道具のお店に入った。
店の中はそこまで広くなく、雑貨屋のように所狭しと商品が並んでいる。
「いらっしゃいませ」
店主らしきちょっと小太りのおじさんが近づいてきた。
「こんにちはー。ここは魔道具を売っているお店ですか?」
「さようでございます。このように店はそこまで大きくありませんが、別の倉庫にも保存しているものもございますし、お客様のご希望の商品も必ずございましょう。本日はどのようなものをお求めで?」
と言われてもな……
「あー、実は今日、ここに来たばかりなんですよ。フロック王国から来たんです」
「なるほど。そういうことでしたか。では、おすすめの商品を紹介させてください」
「お願いします」
「お客様は冒険者のよう見受けられます。でしたら、まず紹介するのは魔法のカバンですね」
店主がそう言って、棚から肩にかけるタイプのカバンを取って見せてくる。
「これはどれくらい入るんです?」
「これは1立方メートルくらいですね。ここにあるのは見本ですのでお客様の要望に合う容量のものをご用意できます」
「ちなみに、いくらくらいです?」
「こちらは金貨400枚です」
高い……
「やっぱりそれくらいするんですね」
「魔法のカバンは基本的に容量で値段が決まります。このくらいの容量ならこの値段です。食料や水なんかを入れておくだけなら金貨200枚程度ですね」
そんなものか。
「そういえば、前に水の国からフロック王国に魚を運んだんですけど、その時に特殊な加工で冷凍したものを運びました。そういうのはないんですか?」
「冷凍の魔法を付与した魔法のカバンでございますね。そちらはオプションになりまして、追加で金貨100枚になります」
なるほど。
「ちょっと待ってくださいね……ジュリアさん、冷凍庫だよ」
ジュリアさんと内緒話をする。
「……ですよね。ウチにある冷蔵庫を使う予定ですけど、冷凍庫は貴重です」
ホントそう。
保存ができるし、とても重宝する。
特に釣り名人の神様2人ががんがん釣るし。
「……魔石を売ったお金で買えるよね? 買っちゃう?」
「……1立方メートルはかなり大きいです。それで金貨500枚なら買っても良いと思います」
魔石がいくらで売れるかはわからないが、カーティスさんもマージェリーさんも最低でも金貨1000枚と言っていた。
「あのー、それってすぐに買えるんですか?」
相談が終わったので店主に聞く。
「もちろんでございます。冷凍魔法をエンチャントした魔法のカバンの在庫はございますし、すぐに引き渡しも可能です」
ほー……
「えーっとですね。実はそれを買おうかと思っているんですが、お金が後日で入るんですよ。ですので、また来た時に買おうかと思います」
「かしこまりました。人気の商品ではございますが、額が額ですので次に来られた時に売り切れているということはないと思います。当店は在庫も十分に用意しておりますので」
よし、魔法のカバンは買おう。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本作の第1巻が来週の7/25(金)に発売します。
発売を記念しまして、来週の月曜から1週間ほど毎日更新していきます。
改稿、加筆もしましたし、ぜひとも買って読んでいただければと思います。(↓にリンク)
よろしくお願いします!