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第152話 こういう国さ


 マージェリーさんに運転の仕方を教わり、少し運転すると、ジュリアさんと代わった。


「君達は器用だな。すぐに運転を覚えた」


 ジュリアさんの運転を見ながら助手席のマージェリーさんが感心したように頷く。


「ありがとうございます」

「うむ。そこを右だ」

「はい」


 ジュリアさんがハンドルを切り、右折した。


「他の車を見ませんね?」


 ジュリアさんがマージェリーさんに聞く。


「住民のほとんどが列車を使うからな。それに車はまだ開発されたばかりで高価だし、使っているのは政治家か軍ぐらいだ」


 ちゃんとした交通の便があれば大丈夫だわな。

 東京でも車を持っている人はそんなにいなかったし、俺も持っていなかった。

 高いもん。


「じゃあ、事故の心配はあまりないですね」

「3層、4層くらいは大丈夫だ。5層はちょっと人が多いから注意だな。ほら、あれが図書館だ」


 マージェリーさんが指差した先には神殿みたいな建物がある。

 しかも、かなり大きく、火の国や水の国の神殿よりも何倍もありそうだ。


「すごいですね」

「ホントにねー」


 ウチの市の図書館が霞みそうだ。


「ギルドカードで貸出できる本もある。上手く利用して自分の魔法の研鑽に努めてくれ。ジュリア、このまま進め」

「わかりました」


 ジュリアさんはマージェリーさんの指示通りに図書館をスルーして、そのまま進んでいく。


「あー、あそこだ、あそこ。あの青い屋根の建物の前で止まってくれ」


 マージェリーさんがそう指示すると、ジュリアさんが3階建ての建物の前で車を止めた。


「この建物は?」

「アパートだな。ついてきてくれ」


 マージェリーさんがそう言って、車から降りていったので俺達も降りる。

 そして、建物に入ると、階段を昇っていき、とある部屋の前で止まった。


「ここは?」

「ウチというか、叔父上……カーティスが所持している部屋だ。まあ、何もないが、入ってくれ」


 マージェリーさんが扉を開けて中に入ったので俺達も続く。

 部屋はワンルームのようだが、10畳くらいあり、キッチンもあるし、ベッドやテーブルといった家具が置かれている普通の部屋のようだ。


「綺麗な部屋ですね」

「叔父上は昔、この国に留学していたことがあるんだ。その時に使っていた部屋がここだ」

「へー……カーティスさんが……」


 留学していたことは聞いていたが、ここに住んでたんだ。


「ウチの母も使っていたな。ただ、母はフロック王国に帰らず、そのまま付き合っていた男と結婚した……まあ、私の父だな」


 なるほどね。


「今、この部屋は?」

「所有は叔父上だが、叔父上が外交官を辞めてからはあまりここに来なくなったので私がもらっている。あ、すまん。座ってくれ。お茶を淹れよう」


 俺達がテーブルにつくと、マージェリーさんがお茶を淹れてくれたので一口飲む。


「ありがとうございます」

「美味しいです」

「ようやく一息つけたの」

「というか、この部屋、涼しくない?」


 確かに涼しい。


「そういう魔道具もあるんだ。店で売ってるぞ」


 おー、電気代が浮きそうな耳寄りな情報が。


「あとで見てきます」

「そうしろ。色々と売っているし、魔法使いじゃない観光客はそれ目当てが大半だからな」


 俺も半分はそれ目当て。


「図書館もですけど、楽しみです」

「うむ……それでだな、貴殿らにこの部屋を貸そう。拠点にしてくれ」


 え?


「いいんですか? マージェリーさんが住んでいるのでは?」

「いや、住んでない。叔父上には電話でこそっと教えたのだが、私には付き合っている男がおり、親には内緒で同棲している」


 あ、なるほど。


「ちなみにですけど、マージェリーさんっておいくつなんです?」


 かなり若く見える。

 でも、大佐だ。


「私か? 25歳だな」


 若い……

 ジュリアさんより上だが、俺よりかは若い。


「25歳で大佐なんですか? すごいですね」

「この国は魔法使いとしての優劣で出世もほぼ決まるからな。自慢じゃないが、そこそこ優秀なんだ」


 絶対にそこそこじゃない気がする。


「へー……同棲って結婚されるんです?」

「まあ、私はその気だな」

「親には内緒で?」

「母は父に嫁いだ時点で貴族じゃなくなったが、元々は貴族令嬢だ。うるさいんだよ」


 あー、なるほど。


「それでこの部屋を貸し出してもいいわけですか」

「ああ。叔父上が拠点となる部屋を融通してやれって言ってきたから『ここが空いている』と伝えたんだ。そしたら『じゃあ、貸してやれ』と」


 カーティスさん、いつも至れり尽くせりだなー。


「ありがとうございます。料金は支払いますよ」

「いや、いらん。それよりも大事なことがある。魔石だ」

「シーサーペント?」


 他にない。


「ああ。大佐である私が護衛を命じられる理由はそれだ」


 確かにね。

 いくらカーティスさんの姪っ子とはいえ、大佐がガイドするのは過剰すぎる。


「えーっと、サクヤ様、お願いします」

「んー」


 サクヤ様が転移を使い、王都の倉庫に置いてあるシーサーペントの魔石を床に出した。


「これか……というか、今の魔法は……あ、いや、詮索するなって言われているんだった」


 みーんな、サクヤ様の魔法にはツッコんでこないんだよな。


「カーティスさんにどこまで聞いているかはわかりませんが、この魔石は水の国でリヴァイアサンにもらったものです」

「うむ、聞いている。よくわからんが、船の侘びだろ? まったく釣り合っていないというか、過剰だ」

「一緒に巫女様がいらしたからかもしれません」


 水の国のアイドル、ディーネさん。


「ふーむ……理由はわからんが、この魔石がとんでもないものということだけはわかるな」

「持て余すんで売りたいんですよ」

「そう聞いている。一応、確認するが、本当にいいのか? かなりのというか、国宝レベルのお宝だぞ」


 いらね。


「邪魔なだけですね」


 でかいもん。


「まあ、普通はそうか……わかった。売却の方向で進めよう。一応、この件は議会の預かりになるが、それで良いか? お望みなら民間に売る」

「どっちが良いんです?」


 よくわからん。


「民間よりも国の方が高いと思う。このレベルとなると、議長はもちろん、議員は全員が欲しがるだろうし、研究施設や学校も欲しがるだろう。良い感じのオークションでもしてみるよ」


 そっちが良いか。


「お願いして大丈夫です?」

「叔父上がバックについてくれてるし、問題ないだろう。ただ、ちょっと時間をもらうぞ。今日明日に売るっていうのはできない」


 さすがにそれが無理なのは俺にもわかる。


「それでお願いします。そのお金で魔道具を買うんです」

「良いと思うぞ。安く見積もっても金貨1000枚はいくし、ウィンドウショッピングで買う魔道具を決めておくといい」


 そうしよ。


「ありがとうございます」

「うむ。それと私と連絡が取りたかったらそこら中にいる兵士に言え。巡回しているか暇しているかだからすぐに飛んでくる」


 本当に暇なんだな。

 まあ、軍が暇なのは良いことか。


「わかりました」

「では、私は早速、議員達に声をかけてくる。この部屋も車も好きに使ってくれ」

「あ、この国でおすすめの料理ってあります?」

「ない。本当にない」


 えー……


「ないんです?」

「この国は領土がほとんどないから食料は九割九分輸入だ。ここで食べられるものはフロック王国の王都で食べられる。しかも、冷凍での輸入になるから向こうの方が安いし、美味い」


 ご飯は期待薄か……


「わかりました。ありがとうございます」

「まあ、こういう国もあるということだ。ではな」


 マージェリーさんは頷くと、部屋から出ていった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
他の物語ならこんな平和な都市でトラブルが起こり、夫婦が魔法で活躍して目立ってしまい……となるだろうけど、そういうことは起こらない(作者が起こさない、起こさせない)信頼感がありますよね
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残念、魔導グルメ無かった
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