第150話 歴史
お茶をもらって一息つき、そのまま待っていると、前方からセダンみたいな車がやってきた。
「あれが馬がいらない馬車かな?」
「車ですし、そうでしょうね」
セダンが俺達の前までやってきて停車すると、中から赤くて長い髪の女性が降りてきた。
女性は黒を基調とした服を着ており、背も俺と同じくらいあり、スタイルも良い。
綺麗な顔立ちをしているが、気の強そうな目が印象的だ。
「貴殿がハルトか?」
女性が聞いてくる。
「はい。私がハルトです。こちらが妻のジュリア。それとサクヤ様とタマヒメ様になります」
「うむ。カーティスから聞いている。私は軍の魔法部隊の大佐をしているマージェリーだ。カーティスは私の叔父に当たる」
あ、親戚か。
「マージェリーさんはフロック王国の出身ですか?」
「いや、私は魔導帝国生まれ、魔導帝国育ちだ。カーティスの姉が私の母になるんだが、こちらに嫁いでいるんだよ」
なるほど。
そういうことか。
「それでカーティスさんから連絡が行ったんですね」
「ああ。色々と言われた。まあ、その辺りは後程、話そう。最初に魔導帝国の観光というか案内をしてやれと言われている」
カーティスさんが言ったのか。
「あのー……大佐って軍のお偉いさんでは? 仕事でお忙しいのでは?」
「戦争もしてないし、軍は魔物討伐か治安維持くらいだ。だから暇だな。それに用件が用件だから私が護衛に就くように議長に言われている」
議長?
「ありがとうございます」
「うむ。そういうわけで乗りたまえ。外は暑いだろう。あ、すまんが、君は助手席な。後ろに4人も乗れん」
「わかりました」
俺達はそれぞれ車に乗り込む。
言われた通りに俺が助手席で後部座席にジュリアさん、サクヤ様、タマヒメ様だ。
そして、運転席にマージェリーさんが乗り込んだ。
「これが馬がいらない馬車ですか?」
「そうだ。軍が所有している車だな。魔導帝国というのは非常に面倒なのだが、何をするのにも魔法使いの優劣で決まる。町に着いたら説明するが、普通に移動しようとすると非常に時間がかかるんだ」
どういうこと?
まあ、あとで聞けるか……
「マージェリーさんも面倒って思っているんです?」
「めちゃくちゃな。ここに来る者の大半は魔法使いの優劣で物事が決まることに辟易する。だが、ここに住んでいる者はその比ではない。この国は議会制の国だが、何度もこれを廃止しようという意見が出ているくらいだ。ここ何十年は激論に激論だな。まあ、いまだに結論は出てないが……」
地元民も良く思っていないのか。
「議会制なんです? 帝国では?」
「この国は通称魔導帝国と呼ばれているし、私達もそう呼ぶ。でも、皇帝も王もいない。選挙で決められた議員からさらに選挙で代表を決めているんだ」
民主主義か……
でも……
「議員は魔法使いだけです?」
「そうなる。もっと言うと魔法使いしか選挙権を持っていない」
だと思った。
「魔法使いじゃない人はたまったもんじゃないですね」
「まあ、そういう国だからな。不満がある者は勝手に出ていけっていうスタンスだ」
それで魔法技術が発展しているけど、国の規模が小さいんだな。
まず人が集まらないし。
「歴史を聞いていいです? 昔、迫害されたとかどうとか聞きましたけど」
「そのままだな。かつて、魔法使いは魔物なんじゃないかという風潮ができたんだ」
魔物って……
「なんで?」
「さあな。魔法使いじゃない者の嫉妬か、それとも脅威に感じたか……まあ、理由はわからんが、そういう風潮ができ、各地で良くないことが起きたわけだな」
魔女裁判か。
「それでここに避難してきたんです?」
「そうだ。国を追われた魔法使いが集まり、国を作った。だからこの国は魔法使いを優遇するし、そうじゃない者には厳しい。この国の大前提として、魔法使いを守るっていうのがあるんだ」
なるほどねー。
「なら差別的な制度もわかりますね」
意味合い的には差別されていた魔法使い達が集まったから逆に魔法使いを厚遇しているだけなんだ。
「私もそう思う。でも、その一方でそれは1000年以上前の話になる。現在では魔法使いが迫害されることなんてないし、むしろ、どこに行っても成功できる。なんなら各地の巫女様も魔法使いだ」
確かにね。
サラさんもディーネさんも魔法使いだ。
「昔のことだから変えようって思っている人達と国の歴史を守ろうって思っている人達で議論しているわけですか」
「そういうことだ。私は変えるべきと思っている派閥だな。だが、残念ながら変わることはないだろう」
マージェリーさんが首を横に振る。
「なんでです?」
「わかるだろ。議員連中は全員魔法使い、そして、選挙権を持っている有権者も魔法使い。優遇されている人間達だ」
それもそっか……
自ら利権を手放さないわけだ。
「何とも言えませんね」
「言わなくていいぞ。貴殿らには貴殿らの国があり、生活がある。そっちを重視すればいい。これはウチの国の問題だ。貴殿らは適当に観光して、ウチの国を楽しんでくれればいい。旅行とはそういうものだ」
まあね。
別に魔導帝国に住むわけでもないしな。
歴史を聞けただけで十分。
「そうします」
「うむ。さて、そろそろ町に入るぞ」
マージェリーさんがそう言うと、外壁にある門をくぐり、町の中に入った。
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