第145話 美味かったぞ
俺達は敷地に入ると、倉庫の前に立つ。
「魔法の鍵と言ったが、別に鍵があるわけじゃない。魔力で個人を認証して開く仕組みだ」
「へー……」
指紋認証みたいなものかな?
「そういうわけで登録だ。ドアノブを握って魔力を流してくれ」
カーティスさんにそう指示されたのでドアノブを握り、魔力を出してみる。
「何も起きませんが?」
「まだ登録の最中だ。もう1人ほど登録できるがどうする?」
サクヤ様はいらないな。
転移があるし。
「ジュリアさん、流してよ」
そう言ってジュリアさんに場所を譲った。
「わかりました。やってみます」
ジュリアさんもドアノブを握り、魔力を流す。
もっとも、魔力を流しているかどうかは俺にはわからないけど。
「そんなものでいい」
カーティスさんがそう言って頷くと、ジュリアさんがドアノブから手を離した。
「これでいいんです?」
「ああ。試しに開けてみてくれ」
俺とジュリアさんは顔を見合わせると、まずは俺がドアノブを回して引いてみる。
すると、何の引っ掛かりもなく、ドアが開いた。
「普通だ……」
ドアを閉め、ジュリアさんに場所を譲る。
そして、ジュリアさんも同じようにドアを開けた。
「開きますね」
うん、開いたね。
「これを私がやると開かないんだ。やってみよう」
カーティスさんがそう言うと、ジュリアさんがドアを閉め、一歩下がる。
すると、カーティスさんがドアノブを握り、回したのだが、明らかに何かに引っかかって動かなかった。
「おー、開かない」
「本当に鍵がかかってますね」
すごい。
手品みたいだ。
あ、いや、車のキーレスがこんな感じか。
「防犯面はこれで十分だろう」
「扉は良くても壁を壊されたら意味なくないか?」
こら、サクヤ様。
「ここは王都だぞ? そんな大掛かりなことをしたら衛兵が飛んでくる」
「それもそうか」
というか、そんなことする奴がいない世界って印象だ。
いまだに異世界なのに盗賊に遭遇してないし。
きっとこの世界の人達はノルン様の心のように……あ、でもノルン様の心なら……ううん、なんでもない!
ノルン様は超お綺麗。
「中も確認してくれ。不備はないと思う」
カーティスさんにそう言われたので扉を開け、中に入る。
倉庫の中は一部屋であり、何もなく、ただ広いだけだ。
要望した通りである。
「広いのう」
「そうですねー」
「十分な広さだと思います」
これならワイバーンを収納できるし、荷物を一時的における空間ができた。
というか、新居に引っ越す際の使わない荷物や家具をここに置こうかな……
「問題ないかね? ないならここにサインが欲しい。あと料金な」
カーティスさんが折りたたまれた紙を胸ポケットから出す。
「ありがとうございます。問題ないのでサインします」
俺は紙を受け取ると、サインしていく。
その間にサクヤ様が金貨50枚をカーティスさんに渡し、俺もサインを書き終えたので渡した。
「うむ。確かにな」
カーティスさんはサインを確認して頷くと、胸ポケットにしまった。
「あのー、カーティスさん、ちょっとご相談があるんですけど、いいですか?」
「ん? 改まってどうした?」
「カーティスさんってシーサーペントって御存じです?」
相談内容はもちろん、リヴァイアサンがくれた魔石のことだ。
「シーサーペントか……伝説の生物だな。それが魔物なのか動物なのかもわかっていない」
魔石があるから魔物だな。
「伝説の生き物っているんです?」
ウチの国で言う人魚やツチノコ。
「ああ、各聖地に伝わっているな。火の国の火山に住んでいると言われる伝説の古龍ルブルムドラゴン、土の国の砂漠にいると言われるすべてを飲み込む化け物デスワーム、風の国で数百年に一度現れるという羽の生えた白馬のペガサス、そして、水の国に伝わる海の悪魔シーサーペント。これが代表的な存在だ」
なんかモンゴリアンデスワームがいるな。
というか、ルブルムドラゴンってヤバくない?
俺ら、その火山の近くまで行ったし、サラさんに至ってはほぼ毎月行ってるじゃん。
「詳しいですね」
「前に魔物の生態を研究していると言っただろう。その一環だ」
言ってたな。
そうなると、ごめんなさいな報告をしないといけない。
「その伝説の生き物は見つかってないんです?」
「目撃情報や噂があるだけだな」
へー……
「すみません。ちょっと待ってくださいね…………ど、どうしましょう?」
俺、サクヤ様、ジュリアさんの3人で円陣を組む。
「……どうしようもないじゃろ。あやつに言われた通りに説明せよ」
「……私も素直に言った方が良いと思います」
「……怒られないかな?」
伝説だよ?
「……別に我らは何もしてないじゃろ」
「……そうですね。ただもらっただけです」
「……それもそうか」
相談が終わったので円陣を解いた。
「カーティスさん、水の国の湖にいるリヴァイアサンは御存じですよね?」
「もちろんだ。あそこの国にも何度も行ったことがあるし、何度も見た」
やっぱりか。
「実は俺達、水の国で巫女様の祈りに付き合ったんですよ」
一から説明することにする。
「ほう。それは良い経験をしたな」
良い経験というか、クルージングが楽しかった。
「その際に祭壇がある無人島に船で向かったんですけど、リヴァイアサンに魔法で攻撃されて、船がダメになったんですよ」
「リヴァイアサンに攻撃された? 守護神と聞いているが、何があったんだ?」
えーっと……
「いや、攻撃された理由はたいしたことではないです。獲物の魚を狙って魔法を使ったらしいんですけど、外れて運悪く俺達が乗っていた船に当たっちゃったらしいんですよ」
本当に運が悪いわ。
「そうなのか?」
「ええ、リヴァイアサンがそう言ってました」
「ほう……は? リヴァイアサンが?」
納得していたように頷いていたカーティスさんが固まる。
「ええ。私もびっくりですけど、しゃべってました」
「しゃべるのか、あの竜……」
これにはさすがのカーティスさんもびっくりだ。
「普通にしゃべってましたね。それでまあ、船を壊した詫びをもらったんですよ」
「律儀な竜だな……」
ホントにね。
「そうなんですよ。それでその詫びがちょっと……」
「何をもらったのかね?」
カーティスさんにそう言われたのでサクヤ様を見る。
すると、サクヤ様が頷き、部屋の真ん中に魔石を出した。
「これは岩……ではないな。まさか魔石か!」
さすがはカーティスさん。
俺には岩にしか見えないが、魔石ってわかるらしい。
「らしいです。北の海で狩ったシーサーペントの魔石ってリヴァイアサンさんが言ってました」
「は? シーサーペント?」
カーティスさんが呆ける。
「はい。シーサーペントって言ってました」
「は?」
そんな反応になるよね……
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