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第140話 差別は良くない


「次はこっちだね」

「ええ。ジェーンさんです」


 俺達は対面にある魔法ギルドに入る。

 こちらはお客さんが一人だけいるのだが、本棚の前で本を読んでいた。


「あ、いましたよ」


 ジュリアさんが言うように受付にジェーンさんがいる。

 休みではないようで良かった。


「こんにちはー」


 ジェーンさんに声をかけながら近づく。


「あ、王都の人。全然、仕事に来ないじゃないの」


 こっちでも言われた……


「いやー、海は楽しいですからねー」

「まあ、そこは否定しないわ。私もそこで遊びまくってて旦那と出会ったし」


 ナンパされてそのまま結婚したんだったな。


「ちょっと遊んでました。それでですね、一度、フロック王国の王都に戻ろうと思っているんですよ」

「一度? また来るわけ?」

「ええ。この町は楽しいですし、魚も美味しいですからね」


 魚は高いから非常にありがたい。


「ふーん……あ、手紙」

「それです。王都に戻るのでついでに手紙も持って行こうかと思いまして」

「悪いわねー。お金は払うわよ」

「別にいいですよ。魚を運ぶ仕事を受けていますし、そっちで儲かります。手紙は荷物になりませんし、ついでです」


 配達の料金は難易度で決まるし、手紙は最安値だろう。

 それよりも魔法ギルドに良い顔をしておいた方が良い。


「ありがと。あ、これが手紙ね。いつ来てもいいようにずっとカバンの中に入れてたわ」


 ジェーンさんはカウンターの下からカバンを手に取り、白い封筒に入った手紙を取り出すと、カウンターに置く。


「では、これをチェスターさんに渡しておきます」

「お願いね」


 頷くと、手紙を取り、サクヤ様に渡した。


「それでちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


 お金より大事なのはこっち。


「ええ。何?」

「ジェーンさんって魔導帝国に行ったことがあります?」

「あー、あそこか。一回だけ行ったわね……」


 ジェーンさんの顔が曇った。

 この反応は今までにはないものだ。


「何かあるんです?」

「えーっと……正直ね、立場上、あまり言えないのよ。魔法ギルドの大元って魔導帝国にあるし、援助もしてもらっているからね」


 悪いことを言えないって意味だな。


「言える範囲でいいんでお願いしてもいいですか?」

「あー、言わないとマズいか……えっとね、私が行った時は友達と旅行だったよ。魔法使いなら一度は行きたいと思う国だからね。聖地ってほどじゃないけど、この世の魔法はあそこに集まっていると言われてて、いわゆる総本山なのよ」


 聖地じゃんって思ったけど、聖地はここや火の国みたいに巫女様がおられるところか。


「楽しかったです?」

「最初はね。あそこって魔法使いが優遇されるし、住みやすい場所なのよ」

「ジェーンさんも優遇される……あー……」


 友達か。


「わかったでしょ。あそこはそういう国なの。何が嫌だったって友達も魔法使いだったのよ」


 ん?


「なら友達も優遇されるのでは?」

「同じ魔法使いでも能力や魔力に差があるわけよ。それが待遇にはっきり出るわけ。例を1つ出すと、宿屋で泊まるのに普通の人なら金貨1枚で泊まれるところを私は銀貨3枚だった。でも、友達は5枚だった。わかる? そういうのが積み重なっていったわけ」


 最悪……


「それは嫌ですね……」


 どっちの立場でも嫌だ。


「ええ。旅行が終わって、王都に戻ったらその友達との縁は切れたわ。今でも会ってないし、連絡も取ってない」


 それは……


「何とも言えませんね」

「どっちも悪くないからね。こっちはただ気まずいし、向こうもコンプレックスやプライドを刺激される。私の言いたいことがわかるでしょ?」


 俺達が懸念していた差別臭がするっていうのが見事に当たっているな。

 とんでもない国だわ。


「行かない方が良いですかね?」


 これから結婚しようとしているんだぞ。

 そして、俺とジュリアさんとでは魔法使いとして差があるらしい。


「人による。ちなみにだけど、あなた達は大丈夫。まずもって夫婦や家族の場合はセットというか一組って扱いだからそこに待遇の違いなんてない。なんで魔導帝国が魔法使いを優遇しているのかっていうと、優秀な魔法使いに来てほしいからなのよ。当たり前だけど、すごく優秀な魔法使いの家族が魔法使いとは限らないし、そんな優秀な魔法使いさんも自分の家族を冷遇されて良い思いはしないでしょ」


 二度と行かないな。


「確かにそうですね」

「私も行くまでにその辺をちゃんと調べておけば良かったわ」


 俺がこうやっていつも出発前に情報収集をしているのはそれだ。

 地球でも国によっては日本で当たり前にやっているハンドサインがダメな場合がある。

 それは異世界ならなおのことだろう。


「その辺がちょっと怖いですよね」

「まあ、あなた達は優れた魔法使いだから大丈夫だと思うけどね。王都のギルドで推薦状でも書いてもらえば? これまでの評価は最高だし、書いてくれると思うわよ」


 魔法ギルドでもいいけど、カーティスさんに頼んでみようかな……


「ちょっと聞いてみます」

「そうしなさい。悪いことを言ったけど、良いところもあるのよ?」

「その辺も聞きたいです」


 正直、今のままだとあまり行きたいと思えない。


「まず魔法使いが集まっているからすごく勉強になるところ。図書館もすごいし、魔法塾なんてものもある。魔法関係の仕事も多いし、優秀なあなた達なら稼げると思うわ。それにモテモテ」


 モテモテはいらんな。


「他には?」

「何と言っても魔道具でしょうね。この国にも魔力で動く船や湖の神殿の外壁、それに魔法のカバンだったりと色んな魔道具がある。そういうのは9割9分魔導帝国が作ったものよ。他にも馬がいらない馬車もあるし、ちょっとしたものでも魔道具だったりするわ。そういうのを買いに行く旅行でも良いと思う」


 ここや火の国みたいなゆっくりするところというよりは都会に買い物に行くって感覚の方が良いかもしれない。


「わかりました」

「まあ、フロック王国の王都の方が詳しい人は多いと思うわよ。兄さんも何回か行ったことあるし」


 チェスターさんにも聞いてみるか。


「ありがとうございます。じゃあ、王都に戻ってその辺のことを聞いてみますよ」

「うん。あ、兄さんによろしくー。元気でやってるって伝えて」

「ええ」


 俺達は用事が済んだのでギルドをあとにし、別荘に戻った。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

オーバーラップノベルスさんから書籍化が決まっている本作ですが、第1巻が7月25日に発売となりますことをお知らせします。

今後も情報が解禁となったら随時、お知らせしていきますのでよろしくお願いします!

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