第134話 当主会合
車を走らせ、駅前にある組合のビルに到着すると、駐車場に車をとめ、中に入る。
すると、喫茶店の入口付近にいつもの黒服のお姉さんが立っていた。
「お待ちしておりました、岩見様」
お姉さんが深々と頭を下げる。
「どうも。キヨシさんは? あ、あそこですね」
喫茶店の中にはゴルフウェアを着た客がいる。
もちろん、浅井さんだ。
「ええ、どうぞ」
勧められたので中に入ると、浅井さんがいる席に近づく。
ふと、上を見上げると、見知った顔が3つあったのだが、すぐにひっこめた。
「どうしたのかね?」
俺が呆れていると、浅井さんが声をかけてきた。
「いえ……遅くなってすみません」
「私もさっき来たところだよ」
浅井さんの対面に座ると、コーヒーを頼む。
すると、浅井さんの分と一緒に持ってきてくれたので一口飲んだ。
「急に呼んでしまってすみませんね」
「構わんよ。休みの日しか時間は取れないだろうし、君とこうして会うのも滅多にないことだからな。それで用は?」
浅井さんが早速、本題に入ってきた。
まあ、これからゴルフだもんな。
「我々が会う理由は一つです。ジュリアさんのことですね」
「そうだな。それでジュリアがどうしたのかね?」
わかってるくせに。
断るなら電話で済ませる。
「この度の縁談を受けることにしました。そして、そのことをジュリアさんに告げ、結婚を申し込みました。結果、ありがたいことに受けてもらったのでジュリアさんと一緒になります」
「そうか。それは喜ばしいことだな」
浅井さんは表情を変えずにそう言い、コーヒーを飲む。
「そういうことですのでジュリアさんはもらいます。これはタマヒメ様も了承してくださっています」
「最近、姿を見せないと思ったが、そちらにいたか……」
浅井さんが苦笑いを浮かべる。
「遊びに来ていますね」
「そうか……そちらにはサクヤヒメ様もいるというのにな」
一昔前ならありえないことだろう。
「2人共、時代が変わったとおっしゃっています」
「ふっ、神は柔軟なのに頑固なのは我らだけか……」
それはそう思う。
「変わる時でしょう」
「わかっている。だからこその縁談だ。そして、それが上手くいったことは大変喜ばしい」
「でしたらそれを表情に出したらどうです?」
全然、嬉しそうじゃない。
「頑固と言ってるだろう?」
あなたも心の中では反対なわけね。
というか、俺のことが死ぬほど嫌いだろう。
「そちらの感情はどうでもいいです」
俺はジュリアさんしか見ていないのだ。
「それでいい。式も挙げる必要もない」
「よろしいので?」
「そちらの家は君しかいないしな。とんでもない空気になるぞ」
なりそうだ。
「では、そのように」
「ああ。こちらとしてはジュリアが幸せならそれでいい」
「それだけは岩見家第80代当主の名に懸けてお約束しましょう」
なんか悪役の気分だ。
「ああ。幸いなことにジュリアは君を気に入っている」
「私が言うのもなんですが、そうじゃなかったらこの縁談は受けていませんね」
嫌だわ。
それこそそういう時代じゃない。
「そうだろうな。正直、私も君らの世代のような考えが羨ましいよ」
「それは何とも言えませんね」
考えや価値観なんて時代時代で変わるもんだ。
「さて、つまらない家のことやしがらみの話はやめよう。これからどうする?」
「籍は早々に入れさせてもらいます。もちろん、ジュリアさんは浅井ではなく、岩見になります」
「それでいい。浅井のことは私に任せておればいい。タマヒメ様も賛同なさっているなら誰も文句は言わん」
神は絶対だからな。
「それから住むところを決めます。ただ、そちらの家に一度挨拶は伺わせてもらいます」
「来るかね?」
「お母さんの方にも挨拶がいりますし、顔を見せないといけないでしょう」
さすがにね。
「ウチに来ればそれこそ針の筵だぞ?」
「私は岩見の当主です。はっきり言いましょうか? 浅井ごときに何を恐れるか」
「うむ、それでいい。ここでへりくだるような男なら浅井は鬼の首を取ったようチクチクと攻めてくるぞ」
田舎だなー。
「こちらにはタマヒメ様が認めたという大義名分がありますからね。それにそちらの家に嫌われても構いません」
だって、もう嫌われているもん。
「わかった。その辺の調整もしよう。良いことを伝えると妻は魔法関係の家ではなく、地元の国会議員の家の子だから素直に祝福してくれると思う」
いや、国会議員の娘っていう方が緊張する。
この地区の国会議員ってめっちゃ良いところの人じゃん。
あ、いや、はっちゃけて娘に樹莉愛って名付けた人か……
「わかりました。ぶっちゃけた話をしますが、結納金の方は? 用意はあります」
貯金はあるし、親の遺産もある。
「不要だ。もらってもジュリアに渡すだけだし、2人の今後の資金にしてくれ。君らだけならともかく、子供ができたら金がかかるぞ?」
「わかりました」
「あとはジュリアと2人で決めてくれ。こちらも援助の用意はある。嫌だろうがな」
嫌だねー。
「その辺は何かあれば頼るかもしれません。今のところ問題ありませんが、何があるのかわからないのが人生ですし、おっしゃるように子供のこともありますから」
「その通りだ。まあ、何かあれば言ってくれ。ウチもジュリアのためなら惜しまない」
それでいい。
浅井に俺のことを気にされても面倒なだけだ。
「では、それでお願いします」
「ああ……娘をよろしく頼む」
「わかりました」
頷くと、コーヒーを飲み干し、この場をあとにした。
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