第133話 結婚
俺とジュリアさんは来た道を引き返していく。
「結婚かー……どうしよっか?」
「色々と決めないといけませんよね」
そうなんだよなー。
「ジュリアさん、ちょっと俺の考えを言ってもいい?」
「どうぞ」
「まずなんだけど、籍は早めに入れたい。浅井さんにこの縁談を正式に受ける旨を伝えたらすぐにでも」
「私はそれで構いません。正直に言いますが、気分的にはもう結婚しているような気がしていましたので」
ジュリアさんはそう言って、右手を見せてくる。
右手の薬指にはノルン様からもらった結婚指輪がはめられていた。
当然、俺の右手の薬指にも同様のものがはめられている。
「こっちでは結婚していることになっているもんね」
いつもジュリアさんを紹介する時は妻と紹介している。
「はい」
「じゃあ、それはすぐにでも」
「ええ。私もいいですか?」
ジュリアさんもあるらしい。
「うん」
「籍を入れるわけですし、もう一緒に住みませんか? 最近はこっちの世界の別荘か、転移を使ってお互いの部屋で過ごすことが多いです。金銭的なことを考えても新居を探してもいいと思います」
確かになー……
「それもそうだね。その辺のことを詰めていこう」
「はい」
俺達は今後のことを話し合いながら別荘に戻った。
そして、ソファーのところで寝ているサクヤ様とタマヒメ様を起こす。
「サクヤ様、タマヒメ様、起きてください」
「朝かー……」
「朝は眠いわねー……」
2人は同時に上半身を起こし、目をこする。
本当に姉妹みたいだ。
「サクヤ様、タマヒメ様、ジュリアさんと結婚することになりました」
「お、おー……寝起きの我らに言うなよ」
「神様の威厳がある時に言いなさいよ」
それは大丈夫。
いつもあんまりないもん。
「早い方が良いと思いまして……」
「ちょっと待っておれ」
「待ちなさいねー」
2人はそう言って、消えてしまったのでジュリアさんとソファーに腰かけながら待つ。
すると、和服姿に着替え、ちゃんと髪を整えた2人が戻ってきた。
「我が子よ、話があると聞いたが、何じゃ?」
「聞きましょう」
なんかすまし顔で作ってるな……
そういうところに威厳を感じないんだよな……
まあ、フランクな神様だと思おう。
「サクヤ様、タマヒメ様、この度の縁談を受け、ジュリアさんと結婚することになりました」
そう言って頭を下げると、隣にいるジュリアさんも深々と下げる。
「そうか。それはめでたきことよ。人が人と一緒になり、子を作る。そして、その子も誰かと共に生きる。それが人であり、歴史である」
「とても素晴らしいことです。ハルト、ジュリアは浅井の大事な子です。必ず守り、幸せにすることをここに誓いなさい」
タマヒメ様に至っては口調まで違うな。
「誓います」
「よろしい…………」
タマヒメ様がサクヤ様にひじ打ちする。
多分、もう言うことが思いつかないのだろう。
「とにかく、おぬしらがそう決めたのなら我らは賛成するし、祝福をしよう。おめでとう」
「おめでとー」
「「ありがとうございます」」
俺とジュリアさんは深々と頭を下げ、礼を言う。
「それでこれからどうするの?」
タマヒメ様が聞いてくる。
「これから話し合いをし、動いていきます」
「まあ、決めないといけないことが多いわな」
「大変ねー。あー、いや、そうでもないか」
「そうか?」
サクヤ様がタマヒメ様に聞く。
「浅井は今回の経緯を考えると、2人のことに口を出せないからね。そんでもって岩見はハルトが当主というか、ハルトしかないから2人で決めればいいわけよ」
「なるほどな。とはいえ、浅井に挨拶は行くべきじゃと思うぞ?」
それは当たり前だ。
「その辺はちゃんとしますよ。ただもう籍は入れてしまいますし、住むところを探そうと思っています」
さっきの話だ。
「そうなのか?」
「タマヒメ様はああ言われましたが、浅井の上の年代の人はこの結婚をよく思っていないでしょう。ですが、俺は岩見の当主です。浅井の顔色を窺うつもりはないです」
そっちがジュリアさんを岩見に嫁がせるってお願いしてきているのだから当然だ。
それにいちいち話を聞いていたら進むものも進まない。
「うむ。それでこそ岩見の当主ぞ」
「いいんじゃない? いつの時代もジジババが足を引っ張るのよ。孫は特に可愛いからね」
俺もそうなるのかね?
「そういうわけで近いうちにその辺りは決めます。ただその前に浅井さんと会わないといけません。電話しますので今日は帰りましょう」
「あー、それもそうじゃの」
「今日はお開きにしよっか」
俺達は帰ることにし、転移でそれぞれに家に戻った。
そして、部屋ではノルン様がゲームをしていたので外に出て、浅井さんに電話をする。
すると、数コールで呼び出し音がやんだ。
『もしもし?』
浅井さんの声だ。
「どうもー。岩見のハルトです。ご無沙汰しております」
『岩見の当主殿か。どうした?』
「今日、時間あります?」
『これからゴルフだな』
政治家のゴルフって聞くと、よく聞こえないんだよなー。
まあ、ただの趣味かもしれないけど。
「大事な話があるんですが、そちらも大事そうですし、来週でも構いません。時間を作ってください」
『協会でいいか? 今から行こう』
「よろしいので?」
『岩見の当主殿と会うのが何よりも優先される。それにただの地元の社長連中との接待ゴルフだし、そちらの話も長々とするものではないだろう? なら多少、遅れるだけだ』
その地元の社長連中の中にウチの社長はいないよね?
「では、協会で。私もすぐに向かいますので」
『わかった』
浅井さんがそう言って、電話を切ったので部屋に戻る。
「どうじゃった?」
サクヤ様が聞いてくる。
「これから浅井さんと会ってきます」
「堂々と行けよ?」
「タマヒメ様がうんと言ってくれていますからね。顔色を窺う必要はないです」
ウチもだが、神様が決めたことは絶対なのだ。
サクヤ様もタマヒメ様も自分達は家の人間のためにあると言うが、俺達は逆だと思っている。
岩見の人間はサクヤ様のためにある。
それは浅井も同じだろう。
「うむ。向こうから言ってきたんじゃし、問題はないと思うが、おぬしは岩見の当主でジュリアの夫だぞ」
「わかっています。では、行って参ります」
俺は部屋を出ると、車に乗りこみ、組合のビルに向かった。
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