第129話 クルージング
ボアのバター焼きで気力が回復したので最後の金曜も仕事を頑張り、この日は水の国の別荘で週末の夜を過ごした。
そして、翌日は早めに起き、準備をすると、まだ寝ているサクヤ様とタマヒメ様を起こさないように別荘を出た。
すると、すぐにディーネさんがこちらにやってくるのが見えたので俺達も歩いていく。
「おはよー」
ディーネさんが手を上げて、いつもの笑顔で挨拶をしてきた。
「おはようございます」
「おはようございます。晴れましたね」
ジュリアさんが言うように今日は雲一つない晴天だ。
「だろー? 私の天気占いは百発百中なんだよ」
「ちなみに、明日はどうです?」
「晴れだぞー。それよりも2人か? ちびっこ女神様達は?」
サクヤ様とタマヒメ様ね。
「寝てますよ。船が嫌なんで海で遊ぶそうです」
タマヒメ様もサクヤ様に同意していた。
「あー、たまにそういう奴もいるな。仕方がない」
船酔いはねー……
俺も一応、酔い止めの薬を持ってきている。
「クルージングは私達だけで楽しみましょう」
「そうだなー。じゃあ、行こうか、あっちの港だから」
俺達が海岸沿いを歩いていくと、港にやってくる。
大小様々な船が並んでいるし、人も多い。
「すごい人ですね」
活気もすごいし、怒鳴り声も聞こえてくるのだが、それがうっすら聞こえるくらいな喧騒だ。
「だろー? 漁師や商人なんかだな。この人達がこの国を支えているんだよ。感謝、感謝。あ、巫女の仕事の一つとして、新しくできた船に最初に乗るのは私っていうのもある。ありがたいんだってさ」
まあ、わからないでもない。
特にこの人が乗った船は沈まなさそうだし。
「港町ならではですね」
「他の巫女も似たような地域に沿った行事があるんだと思う」
だろうなー。
「今度、サラさんに聞いてみようかな」
「いいんじゃね? あ、あれが教会の船だ」
ディーネさんがそう言って指差した先には全長10メートルくらいのそんなに大きくない帆船があった。
「小型船ですね」
「別に荷物を運ぶ船じゃないからな。あの無人島に行くくらいしか用途がない」
「それもそうですね」
「じゃあ、乗り込むぞー」
ディーネさんがそう言って、船に乗り込んだので俺とジュリアさんも続く。
船に乗ると、船室の横にある階段を昇り、舵があるところまでやってきた。
「あの、他の乗組員は?」
ジュリアさんが舵を持っているディーネさんに聞く。
「いないぞ。この船は魔力で動くんだ。帆もあるけど、ほとんど飾りだな、魔力が尽きた時は風で動くんだけど、そんな遠いところまで行かないし」
魔力で動くのか。
ファンタジーだ。
「すごいね……」
「異世界ですからねー」
これも魔導帝国産なんだろうか?
「出港するぞー」
ディーネさんがそう言うと、船がゆっくりと動き出し、港から離れていく。
「本当に動いている……」
「すごいですね」
俺達がいる場所は船室の上なため、眺めが良く、周囲の海がとても綺麗に見えた。
「だろう? スピードを出すぞー」
ディーネさんがそう言うように船は徐々にスピードが上がり、まっすぐ進んでいく。
「結構速いですね」
何キロ出てるのかはわからないが、かなりのスピードだ。
「魔力を込めただけスピードが出るんだ。ちなみに、5分で着くけど、もうちょっと遊ぶか? 操縦していいぞ」
え? できるの?
「いいんですか?」
「めっちゃ簡単だからな。魔力を込めれば進むし、込めなければ減速する。舵を回せば左右に動く。シンプルだろ」
車とほぼ一緒だな。
「やってみてもいいです?」
「いいぞ。時間はたっぷりあるし、満足するまで遊んでくれ」
ディーネさんがそう言って場所を譲ってくれたので舵を握った。
そして、魔力を込めると、船がスピードを上げ、進んでいく。
「おー! 速い!」
「風が気持ちいいですね」
ジュリアさんの長い髪がなびいていた。
「すごいねー」
舵を切ると、船が曲がったのでなんとなく、ジグザグ走行してみた。
「子供だなー……私も最初にやったけど」
ディーネさんが呆れている。
「いや、すごいですもん。ジュリアさんもやってみなよ。車の運転とほぼ一緒だから簡単だよ」
「じゃあ、やってみます」
場所を譲ると、ジュリアさんが舵を握る。
すると、船が強弱をつけて動いたり、その場でぐるぐると回り始めた。
「どう?」
「確かに車みたいですね。よーし!」
ジュリアさんは気合を入れると、お試し運転が終わったようでスピードを出していく。
「おー、風が気持ちいい。こういう商売とかどうです?」
ディーネさんに提案する。
「考えたけど、魔力持ちじゃないとダメなのがなー」
あー、魔力がない人からクレームが来そうだ。
でも、こればっかりはどうしようもない。
「まあ、無茶する人も出そうですしね」
「え? あ、そうだな……あはは」
この人か……
まあ、性格的にぶっ飛ばしそうだしな。
俺とジュリアさんはその後も交代しながら船を動かしていき、クルージングを楽しんでいった。
「いやー、風だなー」
「風ですね」
楽しいわ。
「楽しんでいるところ悪いけど、そろそろ行こうぜ。帰りもまた遊べばいいし、いつでも貸し出すからさ」
ディーネさんが苦笑いを浮かべながら提案してくる。
「貸してくれるんですか?」
「どうせ月に一回しか使ってないし、別にいいぞ」
太っ腹だなー。
「ありがとうございます」
「いいの、いいの。じゃあ、代わってくれ。私の素晴らしい操縦で島に連れていってやる」
「頼みます」
場所をディーネさんに譲ると、祈りの祭壇があるという無人島に行くことにした。
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