第126話 水の国の夜
片付けも終わり、サクヤ様も戻ってくると、部屋のソファーでゆっくりと過ごしていく。
チラッと時計を見ると、夜の9時を過ぎていた。
「サクヤ様、タマヒメ様、俺達は神殿の方に行きますけど、どうされます?」
一応、聞いてみる。
「カップルだらけじゃろ? そこに子供にしか見えん我とタマちゃんが行ってもひんしゅくを買うだけじゃろ」
「変に目立ちそうよね。あんたらで行きなさい」
俺もそう思う。
「では、俺達で行ってきますよ」
「うむ。せっかくじゃし、楽しんでこい」
「あんたらは大丈夫だと思うけど、一応は夜道だし、気を付けなさいよ」
観光地で治安も良いところらしいが、酔っ払いはどこにでもいるしな。
「わかりました。ジュリアさん、行こうか」
「はい」
俺達は別荘を出ると、どちらからともなく、手を握り、海岸沿いを歩いていく。
「夜も良いですよね」
「そうだね」
昼は暑かったが、夜は少し涼しい。
それに波の音も海の遠くに見えるわずかな明かりも綺麗で落ち着く気持ちになる。
「もう6月も終わりますね」
今週は6月の最後の週なので来週からは7月に入る。
「もうすぐ梅雨も明けるだろうし、本格的に暑くなるだろうね」
「ですね。でも、今年の夏は暑さにも負けずに頑張れそうです」
それは俺もだ。
だって、楽しいもん。
「また海で泳いだり、釣りをしたりしようか」
「はい。今日はすごく楽しかったですもん」
「ねー」
俺達は話をしながら店の灯りと賑わっている声がする東の大通りを歩いていき、中央の広場にやってきた。
「そこそこ人がいるね」
「ええ。でも、すでにカップルだらけですね」
広場には2人でベンチに腰かけたり、湖を見ている男女がいる。
そして、距離感から見てもカップルにしか見えなかった。
「女性に人気らしいからね」
「多分、聖地なんでしょうね。気持ちはわかります。私もこの町が好きですもん」
やっぱり女性はこういうところが好きなんだな。
水の国が女性に人気なのがよくわかる。
「下に行ってみようか」
「ええ」
俺達は教会に入り、右の方を見る。
前に来た時ほどではないが、列ができており、並んでいるようだった。
「人気なんだね」
「みたいですね」
左の管理通路の方に行こうかなと思っていると、奥の方にいたシスターさんと目が合う。
すると、シスターさんがジェスチャーで左の方の通路に行くように促してきた。
「顔パスだ」
「ご厚意に甘えましょう」
「そうだね」
俺達は左の方の通路に向かい、先週と同じく、管理用の階段がある部屋に向かうと、ゆっくりと降りていく。
そして、下まで降りてくると、扉を開け、中に入った。
「なるほど……」
カップルが来るのがよくわかる。
昼間にきた時よりも薄暗いのだが、わずかに光っている湖が非常に幻想的で美しい。
「すごいですね……」
ジュリアさんが好きそうだなって思ったが、予想通りのようだ。
「そうだね。近くで見よっか」
俺達はガラスまで行くと、幻想的な湖の中を見ながらゆっくりと回っていく。
そして、一周すると、立ち止まって、ただただ湖の外を見続けた。
「リヴァイアサンがいなかったね」
「そういえば、そうですね。ご飯でも狩りに行ったんでしょうか?」
どうだろうねー。
「先週はあんなに興奮したリヴァイアサンがいなくても気付かないくらいにすごいところだね」
「はい。すごいです……ずっと見ていられます」
ホント、そう。
俺達はその後も湖を見続けたが、会話はあまりなかった。
というのも言葉がいらないのだ。
実際、他のカップルもあまりしゃべっている様子はない。
俺達が30分ぐらいその場で湖を見ていると、周りのカップル達が一斉にいなくなり始めた。
「どうしたんだろ?」
「多分、時間制限があるんだと思います」
あー、サラさんが入場を制限しているって言ってたしな。
上で列を作ってた人と交代か。
「どうしよ?」
「さすがに帰りましょう。私達だけ居続けるのはよくありません」
確かにな。
「また来ようよ」
「そうですね。あ、帰る前に一緒に写真を撮りましょう」
「良いね」
俺達はスマホのカメラを自撮りモードにし、湖をバックに写真を撮った。
そして、帰ることにし、管理用の階段を昇っていく。
「螺旋階段って長いのは向いていませんね」
くるくる回っているだけだしなー。
「だよね。エレベーターとかないのかな?」
「どうでしょう? トロッコ列車がありましたし、技術的にはできそうですけど」
魔導帝国辺りにはあるかもな。
俺達はなんとか階段を昇り終えると、通路を歩く。
すると、明らかに怪しい女性がいた。
その女性はコソコソと歩いており、泥棒のように見える。
とはいえ、泥棒ではない。
どう見てもこの国のトップである巫女のディーネさんだからだ。
「何してんです?」
声をかけると、ディーネさんがビクッとして、そーっと振り向く。
「なんだー……ハルトさんとジュリアさんか。びっくりさせるなよー」
ディーネさんはほっとした様子だ。
「それはすみません。でも、何をしているんです? めちゃくちゃ怪しかったですよ」
「ええ。一瞬、泥棒かと思っちゃいました」
ジュリアさんも同じことを思ったらしい。
「いやー……ちょっとね。あ、そうだ。2人も付き合ってよ」
ん?
「どこにです?」
「行きつけの店。飲みに行こー」
そういうことか……
要は教会を抜け出しているところだったわけだ。
「どうする?」
ジュリアさんに確認する。
「ディーネさんの行きつけの店がちょっと気になりますし、お付き合いしませんか? なんか今日は良いお酒が飲めそうです」
気持ちはわからないでもない。
昼間も楽しかったし、水中神殿も良かったから今はお酒が美味しく飲めそうなのだ。
実際、帰ったら飲もうかと思っていた。
「それもそうだね。ディーネさん、付き合いますよ」
「おー、我が友よ! 行こう、行こう!」
俺達はディーネさんと共に廊下を歩いていき、教会を出た。
なお、教会の入口付近にいたシスターさんとすれ違ったのだが、大きなため息をついていた。
ごめんね。
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