第122話 海
「ど、どうですかね? 変じゃないです?」
こちらにやってきたジュリアさんがちょっと頬を染めて聞いてくる。
「全然。すごく綺麗だよ」
変なところなんて1つもない。
「あ、ありがとうございます。ハルトさんも素敵だと思います」
何が?
「ど、どうも……」
「………………」
「………………」
ちょっと気まずい。
「よし、塗り終わったぞ」
サクヤ様がそう言って、背中をぺしんと叩く。
「ありがとうございます。じゃあ、海に行きましょうか」
「そうするかの」
「よっしゃ! 行くわよ!」
サクヤ様とタマヒメ様は浮き輪を持って、海の方に走っていった。
「ウチの神様なんだけど、子供にしか見えない」
「ウチもですよ。でも、大事な神様です」
それはそう。
サクヤ様は岩見そのものであり、タマヒメ様も浅井そのものだ。
「俺達も行こうか」
「ええ」
ジュリアさんはパーカーを脱ぐと、綺麗に畳んで敷物の上に置く。
パーカーを脱いだことでよりすごいなと思った。
「ジュリアさんも日焼け止めは塗った?」
「ええ。私達も大丈夫です。気を付けてますから」
女性はそうか。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
俺達は立ち上がると、既に海に入ってはしゃいでる2人のもとに向かった。
「どうですー?」
海にいる2人に聞いてみる。
「ええぞー。そこまで冷たくないし、ちょうどいい」
「気持ちいいわねー」
2人が笑顔で答えたので足首が浸かるくらいまで海に入った。
「おー、冷たい」
「でも、確かにそこまでですね」
午前中だからまだ冷たいかと思ったが、そこまでだ。
「ハルトー、波をくれー」
10メートルくらい先にいるサクヤ様が要望してきた。
「行きますよー」
そう言って手を掲げ、魔力を込めた。
すると、サクヤ様達の先にある海が盛り上がるように膨らんでいく。
そして、魔力を込めるのをやめると、盛り上がった水が元に戻っていき、それと同時に波がサクヤ様とタマヒメ様を襲った。
「おー!」
「ひゃー!」
2人ははしゃぎながら波に乗り、こちらにやってくる。
「「あっ」」
俺とジュリアさんが同時に声を出した。
それもそのはずでサクヤ様とタマヒメ様は右の方を通り過ぎていったのだが、やってきた波が俺達の頭にざばーんっとかかったのだ。
俺達は見事に頭からずぶ濡れになってしまった。
「ふふっ」
ジュリアさんが笑う。
「こういうこともあるね」
「そうですね。でも、気持ちいいです。行きましょう」
「そうだね」
ジュリアさんが手を取ってきたので一緒に海に入っていく。
「ハルトさんは色々な魔法が使えますね」
「これはそこまでの魔法じゃないよ。単純に水を持ち上げただけ。やってみる?」
「やってみます」
ジュリアさんは手を掲げた。
すると、さっきと同じように水が盛り上がっていく。
そして、そんな盛り上がっている場所にサクヤ様とタマヒメ様が泳いでいった。
「ジュリアー、ええぞー」
「おねがーい」
2人がそう言うと、盛り上がった水が元に戻っていき、波が起きる。
そして、サクヤ様とタマヒメ様が波に乗っていくのだが、当然、俺とジュリアさんは波に飲まれた。
耳には水の音とサクヤ様とタマヒメ様がはしゃぐ声が聞こえる。
「ええのー!」
「すごいじゃないの!」
2人は楽しそうだ。
「できたね?」
海の中から出てきて髪を払うジュリアさんを見る。
「ええ。確かにそこまで難しくないです。でも、自滅しますね」
「敵にも味方にも攻撃する魔法だね」
「ゲーム脳ですねー」
まあねー。
「ちょっと泳いでみようかな」
「私も……泳げるかな……」
俺達はその後も海を満喫していく。
たまにサクヤ様とタマヒメ様の要望で波を起こしたり、無駄に渦巻きを作ったりとあっちの世界ではできない遊びをしていき、非常に楽しかった。
そして、いまだに海ではしゃいでいる2人とは別に俺とジュリアさんは砂でお城を作っていく。
「こういうのも楽しいね」
「そうですね。夏になると海やプールに行きたいなって思ってたんですけど、中々勇気が湧きませんでした」
「プライベートビーチ様様だね」
「ディーネさん様様です」
ホントだわ。
「今日の夜さ、夕食を食べ終わったら神殿に行かない? 夜の水中神殿を見ようよ」
「良いですね。実はすごく行きたかったんです」
だと思っていた。
「ハルトー、ジュリアー、波をくれー」
海の方から要望が来る。
「お城が水没しちゃうじゃないですかー」
「土塁を作れー」
「仕方がないなー」
わがままな人だ。
「私がやりますよ。土や砂を動かすのは得意なんです」
ジュリアさんがそう言って手を掲げると、1メートルくらいの壁ができた。
「おー! さすがは穴掘り魔法名人!」
「そうですかね?」
ジュリアさんがえへへと笑った。
「すごいよ。サクヤ様ー、タマヒメ様ー、行きますよー」
「頼むぞー」
「その土塁が壊れるくらいのやつねー」
嫌だわ。
俺は何度目かになる波を起こす魔法を使う。
とはいえ、土塁を超えないように調整した。
「おー!」
「きゃー!」
2人は楽しそうに波に乗っている。
ただし、ジュリアさんが作った壁に遮られ、波はこちらまで来なかった。
「海は楽しいのう」
「やっぱり魔法よ、魔法」
2人がこちらにやってくる。
「向こうじゃ使えませんからね」
「そうじゃの。ほれ、お茶じゃ」
サクヤ様がペットボトルのお茶を渡してきた。
「ありがとうございます」
「いただきます」
俺達はお茶を飲む。
喉が渇いている感覚はなかったが、お茶が非常に美味しかった。
「海って思ったより体力を消費するわね」
タマヒメ様が身体を伸ばす。
「そりゃあんだけはしゃいでおったらのう」
「あんたもでしょ」
2人共、ものすごくはしゃいでたよ。
「しかし、腹が減ったのう」
「確かにね」
「海は体力を消費しますからね」
いや、朝飯を軽くしたからでしょ。
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